新皇
黒鉄色のノクターンという物語中において、新皇と呼ばれる五人について。
新皇とは、元々《道》と呼ばれたローティーンの少年少女が集まった集団のトップ三人の事である。
元々彼らは、ただ異質な力を持つだけの人間を《変種》などと呼んで蔑視し始めた社会に対して、集団の持つ数の力でもって抗議活動を行ったり、ただ見た目が日本人らしくないというだけで、いわれない扱いを受けていた人々を保護する事を目的としていた集団だった。
変種と呼んで面白半分に人狩り(マンハント)と称した行為を行う若者や、差別し危害を加えようとする団体から彼らを守る為には、武力という力だけではなく、数という物量も必要だ。
その為の集まりが、いつしか《道》と呼ばれるようになったのだ。
保護し、仲間に加え、さらに保護する。
ただそれをこなすだけでも、力が必要となる場面が絶対にある。危害を加えようとする者より力を持たなければならない時もある。
対話だけで収まる時は少なく、時には対立する集団と真っ向から衝突する事もあったからだ。
そんな集団の《武力》、あるいは《戦力》の中心となった頭目格――それまでの既存の人類からすれば異常な力を持つ変種の中でも、特に強い力を持った三人が、やがて時代の変遷と彼らの在り方の変化により新皇と呼ばれるようになったのである。
三人。少年二人と少女が一人。
彼らも最初から力による革命を目指していたわけではない。始まりは、ローティーンの年代なら誰でも多少は持つであろう、青い理想と正義感によるものだったという。
三人の内、少女は言った。
『わたし達が間違いを正すんだ』
『わたし達の力は、きっと人間に必要だから生まれたもので、蔑視されるようなものじゃないはずなんだ』
『人間の優しさに祝福されるものであるはずで、決して蔑まれるようなものなんかじゃない』
少年二人は、小さな頃から一緒だった少女に引きずられるようにして、たった三人から棘の道を歩き始めた。
誰も助けてくれなくても、自分達だけは助け合って、三人でたくさんを助けて、出来るだけ一杯の人を守って。
そして、誰よりもその力を――あらゆる能力を恐れられていた少女を、誰からも認められるようにしてやろう。
彼女こそが祝福で、その理想は美しくて、それはみんなにも絶対に必要なものだと信じたからだ。
少年のうちの一人は、生まれつき持っていた強い力で少女の補佐に回った。
圧倒的な力を持っている彼女でも――誰よりも異常な能力を持ってしまった彼女でも、その時はまだ十代前半の少女だ。
甘さもあれば油断もある。弱さもあれば怯みもある。
それを補佐する役目を、少女に次ぐ力を持った少年が引き受けた。
『俺がお前に代わって絶対あいつを守ってやるから』
『俺があいつには出来ない……あいつにはさせられない汚い事を引き受けてみせるから』
『あいつが歩く道を俺が綺麗に馴らしておくから』
そう言って、少年は自ら汚れ役を引き受けた。
もう一人の力の弱い少年に誓って、冷たい海を思わせる濃紺色の外套を纏って彼は少女の側に立った。
もう一人の少年は、二人とは違って力を持っていなかった。高い身体能力だけでは、少女に付いていく事など到底叶わなかった。
圧倒的な少女を補佐すべく彼がその脇に立てば、足を引っ張る可能性も高い。
少女は甘さを持ち、油断も捨てきれない。弱さがあり、心が揺らぐ事もあるだろう。
側にいれば、いざという時に足枷になってしまう可能性は極めて高い。
何故なら少女は敵を大勢作る道を選んだのだから。
何故なら彼女こそが最高の力を持っていたから。
例えば少女一人であれば、弱さがあり、甘さがあっても結局は全てを切り抜けられるだろう。
しかし、彼がいてはそれも叶わないかもしれない。
彼を救う為に必要なら、その力を抑えつけてしまうかもしれない。
だから彼は裏方に回った。裏からグループを維持し、見えないところから少女の敵対者を崩す役割を請け負った。
『お前達が全力で前に歩けるように、俺が一番歩きやすい道を探してやる』
『汚い裏のやり取りは俺がやる。グループを維持する為に必要なものは、俺が何としてでもかき集めてやる』
『あいつが望む未来への苗床は俺が守る』
そう役割を決めて、彼らはただがむしゃらに……そして手当たり次第に《変種》と蔑まれ、傷つけられた人々を救った。変種と呼ばれる人々に理解を持つ人間の為に駆け回った。
家にも帰らず、あちこちをただ転々として、やれる事は全部やろうとした。出来る事全てをやってきた。
当然無駄もあった。やらなくてもいい事もした。助けようとして、逆に傷付けられた事の方が多かった。疲れただけで何も得られない日々ばかりだった。
それでも彼女は迷いなく同じ事を繰り返し、少年達はことさら見せ付けるような溜め息を漏らしながらも、当然のようにその脇を堅めた。
三人が揃っていれば怖いものなどなかった。
三人だったから前だけを見ていればよかった。
次はもっと上手く立ち回れるように。
次こそはもっと彼女が望む位置に近付けるように。
裏方の少年は知恵を絞り、策を巡らして彼女の活動の輪を拡げていった。噂を使い、人を使い、偶然を装った必然を使って仲間を増やしていった。
補佐の少年はその知恵を借りて、現場で少女を助け続けた。
ありふれた夢を見て、理想を掲げた少女には似合わない場所、彼女には見せたくないものがある場所こそが彼らの戦場だった。
そんな汚い戦場こそが二人の望んだ場所だった。
結果として仲間は雪崩式に増え、世論も全く無視は出来ない程度に力を持った。
三人の少年少女から始まった人の輪は、もはや三人だけのものではなくなっていた。
……あと少しだ。そう三人は信じていた。
そんな考えが裏切られたのは、遠く海の彼方からやってきた訃報。
一つの大国が倒れたという報せ。
《変種》を頭に立てて、国を打倒し、新たな人類の為の国を作ったという声明。
その時から、あと少しで日本という国の在り方を変えられる――そんな可能性を唯一持つほどの力を持っていた彼らは、その集めた《新たな人類》の力とその数ゆえに国の敵に回された。
保守的な勢力が力を持ち、彼らに理解を示す勢力は弱まった。結果、三人が歩いてきた道に残されたものは、危険分子とされて日本という国を崩す存在だと見なされる事だ。
『なんで? なんでこうなったの?』
『わたし達はなんにもしてない。人も殺してないし、この国を壊そうなんて思ってなんかない』
『傷つけられてた人を助けただけ。手をさしのべただけよ? わたし達、何か間違った事なんかした?』
少女は呆然とした。
突如国防法が改定され、彼女らは『不法に力を集め持った武装集団』とされた事実に。
『まだよ。まだ諦めない。諦めてなんかやらない。わたし達はなんにも間違った事なんかしてない。こんな事で足を止めてなんかやるもんかっ』
それでも彼女は膝を付かなかった。
前を向いた。上に目を向けた。足を踏み出した。
側には変わらず二人がいてくれたから、彼女は一人ではなかった。最初に……たった三人で始めた頃よりは前に進んでいる。
ただちょっと――ほんの少しだけ後戻りしたに過ぎない。
ならば少年達がすべき事は変わらなかった。彼女と歩みを共にする、それだけだ。
裏方の少年も、補佐を務める少年もそれに迷いはない。
諦めはあっても、『彼女なら』という期待もあったからだ。
……でも世界はとことん歪みを見せて。
奈落に転がり落ち始めて。
どこまでも彼女達を裏切り続けて。
あちこちで革命が起こった事実に、彼女に理解を示していた人々も距離を起き始めた。
変種と呼ばれた新たな人類は、今までの生活を脅かす存在だという風潮は強くなる。
警官隊が自動小銃を携帯し、仲間を守る為だけに戦った彼女達だけを悪者にした。
ちょっと見た目と在り方が違うだけで、同じ国の人間に狂気と凶器をむけた者よりも、彼らを守ろうとした彼女達だけを悪とした。
しまいには、見かけただけで発砲され始めた。
そして――彼女の補佐をしていた少年が、彼女を守る為に初めて人を殺した。
少女の目の前で、彼女を裏切り隠し持った刃で刺し貫こうとした裏切り者を殺したのだ。
その時、初めて少女は泣いた。
自分の為に人を殺した最初の仲間の為に泣いた。
そして、今までは気付かないようにしていた――気付きたくなかった、二人の少年の裏側を認めた。
――補佐の少年は、きっと初めて人を殺したわけじゃないだろう。
今みたいに、害意を持つ誰かを近付けない為に……自分に誰かを殺したりさせない為だけに、彼は先に手を下していたはずだ。
だって、彼からは血の臭いが消えないのだから。
何度も洗ったような強い石鹸の香りと、香水の匂いに紛れて、さっき人を殺した時と同じ臭いがしていたのだから。
――裏方に徹した少年も、きっと汚い事を一杯やってくれている。
彼女らがいかに苦しい立場に立っていても、前だけを見ていられたのは何故か?
資金や資材に困らなかったのは何故なのか。
それは彼がいつもどこからか手を回していてくれたからだ。
仲間が増えれば普通出てくる問題に頭を煩わせなかったのは……彼女が前だけを見ていられたのは、彼がいつも全てをお膳立てしていてくれたからだ。
きっとやりたくない事を一杯しただろう。一杯自分の代わりに悩んでくれて、自分の代わりに泥を被ってくれたのだろう。
何故なら――彼からも先程の血の臭いと同じものを感じた事は何度もあったのだから。
でも……
少女は今さら止まれないと思った。
彼らがやってくれた事に何も報いていない。
ただ二人を振り回して、ひきずって、奈落に落としただけだ。
だから彼女は止まれない。止まるわけにはいかない。何かを手にして、何かを手に入れてあげて、彼らに
『ほら、わたし達は間違ってなかったでしょ』
と言ってやらなければならない。
そうすれば二人は
『お前には敵わないよ』
と笑ってくれるだろう。
そして。
その他にも、少女には止まれない理由がある。
少女が『年頃の少女であったがゆえの理由』がある。
自分が……最高の能力と称された力を持つ自分が、少年のうちの一人である力を持たない彼と《全く違う存在なのだ》と認めるわけにはいかない。
そうなれば一緒には歩けない。歩けない事を認めなければならない。
だから彼女は歩き続ける。ただ転がり落ちるかのように歩き続ける。
――わたしも二人と同じように、この手を汚す。
そう決めて。
もう彼らだけに嫌な思いはさせない。
わたしだけが綺麗なままでいたくない。
二人と一緒ならば耐えられる。
そう覚悟して。
……それは彼らが一番してほしくない事だと理解していながら。
この三人が歩みを止めた時――正確に言えば少女が歩くのを止めた時から、彼ら三人は《始まりの三人》になった。
――手を汚しながらも歩み続け、やがて諦めて……好きな少年と同じなら自分は変種で人間じゃなくても構わない、そう妥協して止まってしまった時に最高から最悪へと堕ちた少女。
――そんな少女を救ってやれず、ならば次に彼女が新たな望みを持った時には、絶対にその願いを叶えてみせると誓い、変わらず濃紺を纏った少年。
――そして、裏方に徹していながらも、二人の危機には冷静にはなりきれず、ずっと眠っていた力が目覚めた……目覚めてしまった《彼》。
その結果、疲れきってしまった少女に最後の一押しをしてしまった彼。
異常さでいえば一番の力を持った彼。
黒く染まった無色の少女。
変わらず深い濃紺を纏った少年。
灰色の絶望を抱えた彼。
彼らが新皇と呼ばれて――日常は壊れたのだ。
紹介というより三人の過去っぽい話になってますが、これはこれでいいかと納得します。
もっとざっと書く予定でしたけど。
さらっと書いて、紹介に移る予定でしたけど。
予定は未定という事で。
とりあえず本編に出したデータの纏めも載せておきます。
無色――二十歳。
首都圏出身。
瞳が淡く青い燐光を放つ青みがかった黒瞳(光っているというより、普段はやや潤んで見えており、暗くなればよく目立つという感じ)。
灰色と同姓同名で漢字のみが違う。誕生日も一緒であり、生家もすぐ近く。
本来は明るくリーダーシップに富んでおり、正義感の強い性格をしている。我慢強く、周りに弱味を見せない強さを持っているが、その半面自分の中に色々と溜め込むところがあり、その強さの許容量を超えたところで溜め込んでいたものが爆発した。
能力は《絶対毒》と呼ばれる《あらゆるものを任意の形に汚す領域を生む》事。
炎の熱を奪い、鉄の固さを汚し、大地の持つ自然の浄化力を反転させる事まで出来る。
結果、炎は彼女を傷つけず、鉄の固さは彼女に届く前に微風に崩れ去り、大地を腐敗させて高熱を放つヘドロとする。
それだけではなく、《他の純正型が持つ世界》を自分の領域で汚し、その理を狂わせて、彼女の意思が入り込む世界に変える事も出来る?
倫理を汚し、法則を狂わせ、あらゆる力を奪う。
それゆえに《アプソリュート・ベノム》。
並の変種では全く手も足も出ない純正型であっても、彼女の領域の前には敵とはなりえない。
その《なんでも好きな形に汚す》という理の前では、純正型の力の源泉である《世界》など、虚空に映った幻ともなりえる。
アオイの変化は、物質が持ちうる形に形成しなおすというものであるのに対して、彼女の《汚染》は物質が持ち得ない形――もしくは年単位の長い時をかけなければ変わり得ない形にまで汚染する事が出来る。
世界の規模は白銀や山吹よりもやや広く、無色の霧雨が降る形で領域を形作っている。
彼女は、その世界も含めて他の四人とは違って全体的に高い水準を誇っている為――白銀は防御特化で攻撃においては一点攻撃型、濃紺は攻撃特化、山吹は制御特化という面があるが、彼女は元から全てが高水準――山吹をして『他の四人とは隔絶した力を持っている』と言わしめる。
彼女の力の場合、防御に特別秀でているわけでも攻撃力だけが圧倒的なわけでもないが、それは取り立てて特性がないというわけではなく、全てが《汚染》の力で出来るから特別に秀でている面がないだけである。
芝浦が彼女と灰色のみを指して『特別』だと称したのは、灰色の力が他の誰とも違う異常である事に対して、彼女の場合は純粋にその力の圧倒的な反則さによるもの。
過去に灰色とぶつかった際には、彼の異常を全く寄せ付ける事なく一蹴した。
それでも彼女からすれば、『灰色と争った』という意識すらもなかったと灰色自身が言っており、まさに彼女こそがこの国最強の純正型だと言えるだろう。
本文には書いていないが、肉体に負った損傷を汚すという形で――つまり《体の傷という事象そのものを歪める》事で、治癒する事すら出来る。
彼女の力は《在り方を汚す(けがす)》事で、《汚す(よごす)》ではない。汚染ではあっても、それは悪化させる事だとは限らない。
濃紺――二十歳。
幼い頃に四国から関東に引っ越してきた経歴がある(これは設定のみで、まだ記載はしていない)。
左右で明るい金と僅かに黒みがある銀という、色の違いがある瞳を持つオッドアイ。
純正型の証は、額から覗く赤銅色の何か。
それは硬質的な質感を持っていながらも、彼の力の行使により僅かに光を放つ特性がある不思議物質。
本名は藤原央で、灰色や無色と同学年。住んでいる場所もすぐ近くの幼馴染み。
細身でしなりのある肉体を持つ灰色より背は高く、がっしりとした体格にやや焼けた肌を持つ偉丈夫然とした風貌であるが、意外とお茶目なところも持っていた。
幼い頃に引っ越してきた時に、外見を気にする事なく話しかけてきて、遊びに誘ってくれた幼馴染み二人を心から大事にしており、無色が道の活動を始めた時も表面上は文句を付けながらも喜んで手を貸した。
能力は《重力源を無数に生み出す事》。
世界と力の媒介はその重力源そのもので、それは小さな濃紺の玉……指先サイズからもっと大きなサイズまでを自身の世界として展開させる。
他の純正型とは違い、世界の中心を自分自身とする世界ではなく、核を別に産み出してそれを中心に世界を作る形。
その特性から自分を世界の中においていない為、他の純正……灰色の無制御による自動防御は例外としても、白銀や他の純正型のような自分の世界による肉体の防御が出来ないからか、あまり身を守る事には長けていない。
ただ濃紺世界は一つだけではなく複数産み出せる事と、その数によって二乗にも三乗にも高められる力から(マスターシヴァ戦のように、四方八方から重力源で引き寄せ、引き裂いたり、一つの濃紺にいくつか分の世界の力を掛け合わせ、よりその力の密度をあげたりなど)、対人攻撃力や対物攻撃力は非常に高く、対純正型の世界への攻撃力においても無類の強さを誇る。
彼自身が言うところによると、彼が持つ重力とみなされる力は、彼自身の世界が持つ現実せかに対する食欲の現れであり、暴食の結果だという。
つまり彼の世界は、濃紺世界以外の全てを取り込む……あるいは《喰らう世界》だと提議している。
灰色――二十歳。
新皇の三番にして一番。
無色や濃紺がともに反則的で圧倒的な力を誇っていても、一番異常な世界を持っていると言われたのは、灰色と呼ばれる彼である。
彼も反則である事は間違いなく、圧倒的な力がある事もまた間違いないが、無色と呼ばれた少女ほど絶対的な力を持っているわけではない。
絶対毒の領域に包まれた無色を傷つけられるものはいなくても、純正型の力を現せない――はっきり言うならば、一般的な純正型の力よりも落ちる普通の変種の能力しか現せない灰色を傷つけられる者ならばまだいるのである。
そして、濃紺の猛攻に耐えられるものは少なくとも、灰色の攻撃に耐えられるものならばまだいる。
それでも彼が一番異常な世界を持つ新皇だとされたのは、比較対象が見つからないほどの圧倒的な広さを持つ世界を構築出来る事。そして、その世界そのものが《純正型以外の全てにも見える》という異常によるもの。
純正型変種とされた者にしか知覚出来ないものであるはずの《純正型固有の領域》――《世界》。
彼の灰色世界は、そんな当たり前に属さない異端の世界なのだ。
力の媒介となるものは鎖の形をしており、そこに《世界に刻まれた他の能力を乗せて現す》使い方をする。その鎖すらもあらゆる人間が知覚でき、その圧倒的な数と力すらも見て取れる。
そんな《誰にでも見える力》――そして《視界に映る全てが支配されたかのような感覚》が、彼を新皇という五人の中でも中心であり象徴的な存在とさせた。
それゆえに三番手にして一番。
その世界の特性については今まで記載したものに譲るが、もう一つ彼の世界の特性を追記するならば、灰色世界は《対軍、そして対領域殲滅に特化した世界》である事。
広げきった世界で軍勢、領域を飲み込み、その全てを無差別に殲滅する事に長ける世界。
いかに他の新皇よりも一撃の攻撃力は低くても、その圧倒的な数と広大なる領域で示される力は、他のいかな純正型も寄せ付けない殲滅戦能力だといえる。
――余談として、その特性から本来は対人よりも対軍に長けたタイプであるが、本編ではまだその辺りの記載が全くない。
大は小を兼ねるという理屈は、並の純正型が相手ならば通じるだろうが、皇と呼ばれるクラスともなると通じない為――例えば白銀ともし戦ったとするなら、遠くからいくら数で突っついても拒絶の理の前には全く効かず、代わりに一撃必殺の大通連が飛ばされたらあっさりやられる――純正型を相手にした戦いであれば、彼はそう反則的な強さを誇るわけではない。
ただ彼は《異常》であり、《異様》。
その異様さと圧倒的な領域面積ゆえか、段階的に世界の力を開放する事になるが、現在までに開放されたのは第二段階の世界まで(第二段階の世界ですらギリギリな為、第三段階に入った瞬間に灰色世界の広大さと膨大さを御しきれず暴走すると彼は確信している)。
その異常さを持って、新皇という旗頭の顔役に抜擢された他、無色に対をなす異常だとみなされており、《彼と無色の彼女だけを特別視する者は非常に多い》。
かつて無色や他の関東の革命軍に対して、直属の部隊だけを率いてクーデターを起こすも失敗し、関西へ流れる事となった。
そこが物語の起点であり原点。
白銀――推定十八歳。
この推定は誕生日が正確に分かっていない為。
現在は灰色と出会った日を誕生日だと主張している。
趣味は昔無色に教わった刺繍であり、その腕前はかなりのもの。
カクンと首を傾げてみせる仕草が癖となったのは、どんな時でも他人の表情を窺う癖がついていた為であり、今でも治っていないだけである。
純正型の証は前頭部に左右対称である二対の突起で、それを見られる事を極端に嫌う。
それはかつて出生地である東北地方において、《忌み子》や《鬼子》、長じて《鬼姫》と呼ばれ恐れられた過去があり、彼女はその原因を歪な角のように見える証のせいとしてきた為。
性格は非常に温厚で、他者と争う事を嫌っているが、争わざるを得ない時に躊躇うような甘い性格ではなく、回避出来る争いは極力回避して、回避出来ない争いは徹底的に相手を叩くタイプ。
身内になった人間には全てを委ねる傾向にあり、特に兄として側にいてくれた灰色に対しては極度の依存症な傾向を見せる。
灰色と戦うぐらいなら、全てを捨てて――つまり命をも捨てて――戦いから逃げると言っているほど。
その為、灰色を傷つけようとした相手や、彼の敵に回りそうな相手には敵意を剥き出しにする。
つまり問答無用のブラコンであり、兄に対しては偏執狂といってもいい性格をしている。
基本的に表情が薄い傾向にあるが無表情なわけではなく、灰色曰く『あくまでも表情が薄いだけ』らしい。
彼女がブチキレた(この表現は牙桜によるもの)場合は、白銀のガードであり、第二の兄代わり姉代わりでもある『牙桜』や『夜狩』ですらもヘタるほど見境をなくす……らしい。
彼女の持つ力は、《拒絶の理を宿す世界を構築する事》。
純正型以外の者から見れば斥力として認識されがちな力であり、実際斥力と似た形で発露する事も多いが、本来は全く別物。
彼女の白銀世界は拒絶。遠ざける事などという半端なものではなく、その存在そのものを否定して拒む世界。
彼女はあらゆる物体、事象、力の存在を否定する事で、それそのものを身近にある事を拒んでいるだけであり、それを成すには遠ざける力――斥力として現す事が一番楽であるからそのように力を示しているだけに他ならない。
遠ざける事と完全にその存在そのものを拒絶して抹消する事を比べれば、遠ざける方が楽であるから斥力として力が発露しているに過ぎないのである。
彼女が《万色繚乱の白銀世界》と呼ぶ力は、普段は拒絶の力を《遠ざける力》程度に抑えているものを、《存在そのものの否定》へと進めたものである。
その力は、山吹色の皇と呼ばれる《言霊の皇》を持ってしても、抗いきれず逃げ出したほど。
ただ万色繚乱の白銀世界を使う時には、体や精神に負担をかけないように、普段は力を抑えている理性を無理矢理飛ばさなければならない為、その力の大きさに比例して諸刃の剣じみた力であったりもする。
灰色を追いかけて関西まで来ており、その結果黒鉄に所属する事にはなったが、黒鉄の創設者である《アカツキ》には色々と含むものがあるらしい。
基本的にあらゆる面で非常に高いスペックを誇る少女であるが、表に立ち、上に立てば身内を優先出来なくなる可能性がある為、目立つ事を望まない。
つまり、過去は《道》に所属し、現在は黒鉄に所属してはいるものの、彼女は組織に所属しているわけではなく、そこに属する人間にひっついているだけだったりするのだ。
山吹――?歳。
言葉が力を持つ世界を構築する純正型。
ライトブラウンの長い髪と薄い紫紺の瞳を持った女性。
サンライトイエローを冠しているのは、彼女の造る世界が山吹色に染まる領域である為。また右腕には、彼女の色である山吹色のスカーフを巻いている。
皮肉げな物言いと、不吉な印象を滲ませる女性で、白銀からは嫌われており、濃紺や灰色からも警戒されていた。
言葉として意味を持たせた声を力に変えて、炎を産み出したり風の刃を作ったりするが、その産み出された力は他の四人に比べると大したものではない……らしい。
ただ生物に対する《暗示》、無機物に対する《指示》、現実空間そのものに対する《変化》など、特殊な使い方をもって新皇の四番となった。
暗示とは、生物に対して《他者の思考、感覚、行動を操作・誘導する言葉》の事であり、生物の肉体そのものに対して、行動を制約させる言葉の力。
簡単に例えれば、彼女が『動くな』というだけでも強制力を持つ。
指示とは『飛べ』と石に命ずる言葉などのように、無機物に行動をあたえる言葉。
変化とは、辺りのフィールドの環境をある程度変えるようなものの事(指示と変化については、本文にはまだ記載していない為、簡単に書いている)
生まれは関東地方ではないらしく、出身地すらも今は謎。
それらを組み合わせ、上手く相乗させて自らに有利な状況を作る事に長けており、力押し一辺倒な傾向にある他の四人とは違うタイプ。
新皇の五人は四部まで間違いなく物語の中心に位置する人物で、それだけに人物はかなり凝って作っています。
先にも述べましたが……多分どこかで記載したはず……マスターシヴァは、濃紺に殺される事を前提に作りました。濃紺の能力が生まれて、それに不利な力を持つシヴァが生まれて、その立場が生まれたといっても過言ではありません。
マスターシヴァの終わり方を見れば、彼と因縁があるみたくしているカーリアンはどうなる? と思われるかもしれませんが、周りが思っているほど(一部ラスト辺りでスズカが気にしていたほど)カーリアン自身にはシヴァに対して思うところはなさげに書いているはずです。
シヴァは気にかけてましたが、そこまで強く気にかけた風には書いてはいないはずです。
つまりシヴァは元々グライの引き立て役であり、そこに因縁を色々付与してちょっと大事な役割を持ってそうに見せただけです。
他の四人もそれぞれ多くのキャラクターを作る上で、色々と影響を与えた人物であったりします。
そういった意味でも、この五人は物語の中心に位置づけられていると言えるでしょう。
作られたコンセプトとしては、
無色は『寂しがりの王様』『反則的な力』
濃紺は『孤独』『偽りの最強』
灰色は『堕ちた王様』『ネガティブ』
白銀は『偏執狂』『純粋過ぎるゆえの狂気』
山吹は……秘密にしておきます。
関西の情勢は、灰色がアカツキと共に作り、それ以東は無色や濃紺、山吹が作ったとすれば、彼らが物語の起因となった事は明らかであり、それが今後どのように集束してどんな結果が出るのか。
全く手も足も出なかった無色に対して、灰色がどうするのかという面以外でも、勢力間の動きなどを含めて楽しみにして頂ければ幸いです。
とは言っても、次のページの題名は……決まってないんですよね、これが。
いくら話を決めてても、途中で書けなくなる可能性はあり、ページを変える事まで考えてなかったりして。
だから新たなページに移るには、そのページの名前が問題になってたりします。
案はいくつかありますが、決まっていません。
四部は黒鉄色のラプソディア《狂想曲》にする予定……本来のラプソディアは《狂詩曲》であり、狂想曲はカプリチオ、だったかな? だと思うのですが、響きや話的に狂想曲でラプソディアというイメージなので……で、五部はレクイエム《鎮魂歌》にする予定ですから、黒鉄色の小夜曲でセレナーデ?
《黒鉄色のセレナーデ》……………
う〜ん、夜想曲のノクターンの次に《小》夜曲ってなんか違う気が……セレナーデって響きも幸せそうだし。
弄ってセレナディアとか?
ワルツやタンゴは違いますし、デュオとかは誰とデュエットだよ、って話だし。
これは案があれば募集します。浮かばなければ書けませんので。
ではこれにてこのページは終幕とあいなります。
また新しいページにてよろしくお願いします。
長々とお付き合いありがとうございました。
これについては書く事はもうありません。
今までありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
早ければ2月頭に……遅くても末には公開します。