10・ミスリード
この次から週1更新開始です。
更新は土・日・月のどれかになると思います。
元が早筆ですし、早く書けるようにもしますが、週1が限界です。
応援、感想、批評よろしくお願いします。
なお、文章の編集はちょこちょこ致します。
「大丈夫ですか?やっぱり痛みますか!?あぁ〜、変われるモノなら変わってあげたい……」
そう言いながらウロウロと病室内を歩き回っているのは、我が三班に所属するコードフェンサー『ヒナギク』だった。
小柄で愛嬌のある顔立ちをしている彼女は、作戦時行動時に見せる緊張感溢れる表情とも、班内で仲間達に甘えてみせる顔付きとも違う、今にも泣き出しそうな表情で落ち着きなく室内を歩き回っている。
「あぁ、まぁさすがに無茶しすぎたからかな?まだちょっと体のあちこちが痛むんだ」
「あぁ……どうしよう、どうしよう〜。わ、わたしに出来る事って何かあります?」
「いいから落ち着いて。君がオロオロしてたら他の班員達も不安になるだろう?君は我が三班が誇るコードフェンサー『音速のヒナギク』なんだからね」
苦笑を漏らしながらアオイがそう宥めるも、ヒナギクは相変わらず落ち着きがなく──
「これが落ち着いていられますかっ!?
……あ、シャクナゲ。何か甘いモノでも欲しくないですか?なんなら二班からもらってきましょうか?果物も今は不足してますけど、シャクナゲの為だったらふんだくって──」
「……頼むからカーリアンとゴタゴタは起こさいでくれよ?」
腕捲りをしながら物騒な事を言い出すヒナギクを、俺は寝転がったままでなんとか引き留めた。
このヒナギク、三班の中では──いや黒鉄全体の中でもかなり強い力を持つ変種だ。
コードを持つに相応しい能力と、高い身体能力も秘めてはいるのだが、その性格にはかなり子供っぽいところもあるのが困りものでもあった。
『音速』のコードと共に、その名前は知らぬ者がいないほどの強者なのは間違いない。だが、普段の彼女をみて『音速』という単語とリンク出来る者が少ないのも間違いないだろう。
天真爛漫でそれゆえ破天荒。それが『音速』のコードフェンサー・ヒナギクだ
……まぁそんな性格なワケだから、我が三班で他班と問題を起こすのは、大抵ヒナギクだったりもするのだけど。
そんな言動からか、能力の割に他班からは軽く見られがちな彼女だが、三班のメンバーからの評判は非常にいい。
動きやすいようにショートに切りそろえた青みがかった黒髪と、それを纏める黄色のカチューシャ。表情がコロコロと変わるところも相まって、班内では『ヒナちゃん』と呼ばれ、みんなの妹分として可愛がられているのだ。
まぁそれは、最もコード持ちらしからぬコード持ち、とも言えるのだろうが。
「あぁ〜、シャクナゲ〜。痛いですか?痛いですよね?痛みますよねっ!?その痛みの借りは、クサレな将軍や役立たずの救急班に、わたしがキッチリ倍返しにしてやりますからぁ!」
「……間違ってもカーリアンの前でそんな事言うなよ?」
そして班員みんなに可愛がられているだけに、班の仲間を誰よりも大事に……家族のように思っている少女である。
……それゆえに暴走しがちな点については、頭が非常に痛いのだが。
今日彼女がここに見舞いに来たのにはワケがある。
いや、普段ならカーリアンが、三班のメンバーが押しかけて来ないように目を光らせているのに、今日に限ってそれをしていないのにはワケがある──というべきか。
今日は『班長会議』の日なのだ。
普段ならカーリアンは出席もせず、副官であるカクリに任せがちな定例会議ではあるが、今日だけは彼女が1人で出席をしていたりする。
もちろん自主的に彼女が会議に出向いたワケではない。
最初は散々『忙しい』だの『面倒くさい』だのと、ブーブー文句を言っていたが
『俺は出席出来ないから、代わりに見ていてくれないか?
三班からは『スイレン』を代理に出すけど、カーリアンにはスイレンと一緒に、他班が無茶をしないか見ていて欲しい』
そう俺が言うと唸り出ししかめっ面をしながら黙りこみ、カクリが
『……シャクナゲは……カーリアンを信頼してるんだね』
そう言うと仕方なさそうに……でも思っていたよりは簡単に了解してくれたのだ。
もちろん、『貸し1だからね!』と恩を着せられてはしまったけど。
そう言った事情でカーリアンがいない今、ヒナギクはアオイに『見舞いの名目』で連れて来られたのである。
もちろんヒナギクからしたら『見舞いそのもの』でしかないのだろうが。
「病室で騒ぐから三班は出禁!なんて、カーリアンのヤツはなんの権限があってそんな事言いやがるんですかね!?」
「いや、なんのって、救急班班長の権限だろ?」
「それって横暴です!無茶苦茶です!!職権乱用ですっ!!シャクナゲはわたし達のリーダーなんですよっ!?見舞いもダメなんておかしいです!!」
「い、いや、ヒナ?出来れば声のトーンを落としてくれないかな?ほ、ほら、病室だしね?」
カーリアンがいない為か盛大に文句を撒き散らすヒナギクを、アオイは冷や汗を垂らしつつもなんとか宥めていた。
アオイのそんな態度も当然と言えば当然だろう。二班や他の班との応対は、三班ではアオイの仕事と言えるのだから。
他班とのトラブルとなるような発言はいつも彼の頭を悩ませる出来事である。
ましてやカーリアンは、二班の班長でもある強力なコードフェンサーだ。
副官であり実質二班を動かし、運営しているカクリは、救急班の頭脳とも言える存在ではあるが、彼女は絶対にカーリアンにしか従わない。
そういう面からしても二班のトップはやはりカーリアンであり、その彼女への不満はアオイからすれば頭の痛い問題であろう。
「スイレン達はなんにも言わないんですけど、わたしはやっぱり不満ですっ!!シャクナゲが療養するなら、こんな二班の施設なんかじゃなくてウチの休憩所でいいハズですっ!!」
「ヒナ、いい子だからワガママ言わないで。元々シャクナゲには一度ゆっくりと休んでもらうつもりでいたんだ。その意味で言えば今回はいい機会なんだよ。健康診断やメンタルケアなんかもついでに済ませられるからね。それはここでしか出来ない事なんだよ」
そう宥めるようにヒナギクの頭を撫でてやりながら、アオイは困ったように小さく笑う。
その姿は、機嫌を損ね、拗ねてしまった妹を宥める兄の姿のようであり、小さな子供をあやす父親のようでもある。
頭を撫でられても、最初は不満そうに唇を尖らせていたヒナギクも、いつしかポワ〜っとした表情を浮かべていた。
「それにヒナだって、シャクナゲは少し頑張り過ぎだって思うだろう?たまにはゆっくり休んで欲しい……そう思わないかい?」
「そ、そりゃ思いますけど……」
「それにシャクナゲは実際無理をしすぎていたみたいでね。カクリさんにも大分怒られちゃったんだ。『変種とは言え人間なんだ。いくらシャクナゲでも、人並みの休みも取らずに体を酷使し続けるなんて』ってね」
もちろん、そんな事をカクリに言われた覚えなんかない。というより、彼女にそんな医者らしい気遣いをされた覚えすらなかった。
問答無用で『退院不可』としか言われなかったから。
それを思えば苦笑の1つくらいは浮かぶってモノだ。
まぁ、もし言われていたとしても、何もそんなヒナギクを脅すような事を言わなくても……と普段ならば思っただろう。
思慮深いアオイが、こんな不安を煽る事を言い出すのは解せない、とも思ったハズだ。
俺じゃなくても、ヒナギクよりは達観しているスイレンならば、アオイの言葉に疑念を抱いていただろう。
だが、今の俺はアオイをたしなめるような真似はせず、無意味に小さく笑ってみせる。
「まぁ、俺も昔からここで戦ってきたからね。古傷はいくつでもあるし、体も痛みはするさ」
「そ、そんなに体調悪いんですかっ!?」
案の定ヒナギクはオロオロしだし、目にはいっぱいの涙を浮かべていく。
今にも俺にすがりつかんばかりのその様子に、やはり多少……いやかなり心が痛むが、敢えて曖昧に笑ってみせた。
「心配しなくてもいいよ。ただ、しばらくは三班の活動に顔は出せないかな」
「シャクナゲが……」
そんな俺の言葉に、見舞いに来た頃の上機嫌さも、俺を心配しながらも笑っていた笑みも消え、ヒナギクはただどんよりと表情を曇らせる。
その表情は単純に悲しんでるワケでも俺を心配しているだけでもなく、『不安』を最も如実に表していた。
彼女が何を不安に思っているのか……それが分からないほど俺もバカなつもりはない。
その不安は我が三班の最大にして唯一の弱点についてなのだ、という事ぐらいは自覚出来た。
「しばらくはスイレンにいざという時の指揮は任せる事になると思う。もちろん私も協力はする。ヨツバもね」
そうアオイが続けるも、ヒナギクは聞いているのかどうかも分からない茫洋とした表情で、小さくコクンと頷くだけだ。
それほどまでに彼女の不安は大きいのだろう。
そんな彼女の様子は、そのまま我が三班の弱点が、いかに重大なモノかを物語っていた。
そして、その欠点を知りつつもなんの手も打たなかった俺が、いかに浅はかだったかも……。
「シャクナゲがいない以上、我が三班は作戦行動は起こせない……それはヒナにも分かるよね?」
「はい」
「そう、一般班員の不安は大きいだろう。彼らはシャクナゲの指揮だから疑いなく動ける。シャクナゲがすぐ側にいると思えばこそ、勇敢に戦えるんだ。
それに何より、スイレンやヨツバはシャクナゲが動かなきゃ動いてくれないからね」
──そう、我が三班は、俺の指揮下以外では、作戦行動を行った事がないのだ。
ただの一度たりとも。
作戦上別行動を要する際には、同じコードフェンサーである『スイレン』が別働隊の指揮を執るが、スイレンが三班全体の頭となった事は一度もない。
それは良く言えば決戦班……戦いを決する班ゆえの特性とも言えるかもしれない。
一致団結して1つの目的に向かって戦う場合は無類の強さを誇るが、その頭がなければ途端に脆くなる……それが我が三班唯一無二の弱点なのである。
スイレンもヨツバも頑固者だから──と言えば拙い言い訳になるだろうが、あの2人が絶対に俺以外の指揮を認めない事も大きな理由だろう。
『シャクナゲがいなければ戦えない決戦班』と、他班から揶揄される由縁だ。
「だからヒナギクには出来るだけの協力をしてほしい。スイレンもヨツバも私に協力的ではあるけど、絶対に一線を引いてるからね」
「……でも何をすれば?」
アオイの言葉には力が籠もり、それを受けたヒナギクは躊躇いがちながらも顔を上げる。
そんな様子を見ながらも、アオイの言葉に込められた別の意味を俺は悟り、思わず苦笑が浮かびそうになった。
アオイの言葉は単にヒナギクだけに向けられたモノなどではなく、俺に対して『あてつけ』でもあるのだろう。
『あなたがいなければこんなに私は苦労する羽目になるんです』
そう言外に込められているのが分かった。
それが分かったからこそ、見せつけるように小さく嘆息を漏らしてみせる。
「まずヒナギクにはね、シャクナゲが休んでる間は自然にしていて欲しい」
「そんな事……?」
そんな俺の態度にも一瞥もくれず、アオイはこの作戦の核心──茶番とも言える『見舞い』の目的へと話を進めていく。
こんな風に裏で勝手に動いているのがバレたら、また三班は『俺の独裁で動く班』なんて言われるな。
そんな事をちょっと憂鬱に思いながら。
だが、動き出した茶番(舞台)は、これから行う作戦……『内通者のあぶり出し』には絶対に必要な事で──
内心でヒナギクに謝りながらも、俺もその舞台に上がるべく彼女へと向き直ったのだった。
ヒナギク……三班所属の一般班員。自然発生型変種。
15歳という最も年若いコードフェンサーでもある。
コードは『音速』。その能力は後の話で記載。
無邪気で天真爛漫、甘えん坊な所を持つ少女。
怖いモノ知らずでトラブルメーカーな部分もあるが、班の仲間達にはそれも含めて大事にされている妹分。
同じ三班のコードフェンサーであり、各班長にも匹敵しうる発言力と能力を持つ『水鏡』のスイレンに、『いずれは私を超える』と言わしめた強力な能力者である。
……その見た目や行動からはそうは見えないが。
スキル
能力・B(現時点で。今後の成長ではまだ伸びると思われる)
身体能力・B(これだけはすでにシャクナゲに次いで二番目)
経験・D(身体能力では勝っているはずなのに、訓練では他の三班のコードフェンサーに遊ばれるランク)
カリスマ・C(班の仲間の心は掴めているランク)
直感・B(天性のモノ。なんとなくの考えナシで真実を見抜く事がある)
妹属性・A+(これは一生モノだと思われるランク)
トラブルメーカー・B
天真爛漫・A
家族想い・A+(家族第一ランク。今の家族は班の仲間)
怖いモノ知らず・S(カーリアンやスズカにも平気で喧嘩を売るランク。見ていた仲間の顔色が真っ青を越え真っ白になり、卒倒しかけても気にしない)