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1・世紀末に咲く石楠花

異色ファンタジーを目指して……みます。

それだけじゃなく、いろんな要素を入れていきたいな、と。

よろしければ感想、批評を頂けましたら幸いです。






 ──世界ってのは突然変わるモンだ。なんの脈絡もなく、一言の断りすらないままね。

 昨日まで普通に生きていた人間が今日起きたらいなくなってるなんて事はザラにあるし、数分前には幸せの絶頂にいたのに、今は不幸のどん底なんて話もはいて捨てるほどそこらに転がっている。

 その代わり様は、それこそいきなりされた癌告知のように……もしくは何かの天災のように人間達を掻き乱す。


 ──それを考えれば……まぁ今みたいな自分もありなのかもしれないな。


 そんな愚にも付かない考えが浮かび、そんな自分の思考に小さな笑いが漏れる。

 そう、別にレジスタンスのメンバーに変わるくらいはなんでもないんだろう。

 なにしろ俺はまだ生きてるんだ。死という絶対の変化に比べれば、その度合いも知れてるっちゃ知れてると言えるだろう。

 身近な隣人が殺人犯だったりもする世界だ。テロリストだって世界各国にいる。

 武装レジスタンスなんてそれにちょっと色がついたモノだ、と割り切れば、なおさら変化の度合いもしれてるってモノだ。


 ……まぁ、そんな言い聞かせをしている陳腐な自分には、溜め息混じりに小さな嗤い禁じえないけど。


「シャクナゲ!ヤバいぞ、ヤツら気付いてたみたいだ!第一班、第一班、オクレ、オクレ!」


 隣にいる仲間──今なお通信機に向かって必死に呼びかける仲間の声を聞きながらも、俺はなんとなく耽っていたつまらない思考に嘆息でピリオドを打つ。

 そして地べたに座っていた体をゆっくりと起こしながら小さく伸びをした。

 『オクレ』──簡単に言えば連絡を返せって意味だけど、今の状況から考えて『連絡』が返ってくる事はないんだろうな……そんな冷静な現状分析をしつつも、強張った筋肉を丹念にほぐす。


 連絡が返ってこないと思う理由は簡単だ。1つしかない。

 通信機にかかりきりの仲間が、俺達の行動に敵は気付いていたと言ったのだ。

 そして俺達みたいな存在──つまりレジスタンスの行動が読まれていた、という事がどういう事かを考えれば、自ずとその答えに行き着くだろう。

 まぁそれすら分かっていないのか、その仲間は今なお必死に無言を貫く通信機に呼びびかけていたけど。



 レジスタンスというのは、一般的に権力や特定勢力に対する反抗組織、抵抗組織の事だ。

 つまるところ『レジスタンス』があるからには、それを目障りに思う勢力が当然いる、という事になる。

 そしてこれまた一般的な事なのだが、レジスタンスの力というのはその『特定勢力』よりも劣る事が多い。

 改めて言うまでもなく当たり前の話なのだが、真っ当にぶつかり合って勝てる力があるなら『レジスタンス』なんて組織は作らない。

 勝てないからこそ概ねの『レジスタンス』達は地下に潜り、チマチマと作戦を決行するのだ。


 その作戦が読まれたという事がどういう事か、と言うと……


「ヤ、ヤバい。ヤバいぞ、シャクナゲ!このままじゃ一網打尽にされちまう!!」


 ……まぁ、そういう事になるだろうさ。


「先行していた第一班の事は……まぁ本人達になんとかしてもらうしかないね。とりあえず三班(ウチ)は引くよ。後ろにいる二班のカーリアンにも連絡を」


 それだけを言うと、俺──今はシャクナゲという名前のみ呼ばれる自分はそっと立ち上がる。

 その両手に、俺がコードを貰って以来ずっと握ってきた相棒を手にしながら。


「シャクナゲは……」


「……仕方ないからね、俺はちっと足止めでもしてみるさ。その為のコードだし……あっ、機材は全部捨ててきな。重いだろ」


 まぁその機材一式も今の御時世じゃ貴重なモノではあるけど、機材を運ばせてて仲間も傷つきました……じゃ間抜け過ぎる。

 そう思い、機材も持っていこうとする三班の仲間達にそう諭すと、憂鬱げに溜め息をつきながら相棒を握ったままの手の平をフルフルと振ってみせた。

 いいから先に行け──そう言いたいのが分かったのか、駆けていく仲間達を見やりながらも、俺はゆっくりと目の前を伸びる暗い道を見据える。


 時間は恐らくそうないだろう。作戦行動が読まれ先行部隊が奇襲を受けたなら、長く持つハズがない。

 なにしろ敵方の方が数は圧倒的に多い。その上奇襲という不利な状況で戦う羽目になったとしたら、いかに先行の一班が奮戦しようが長くは保つまい。


 そう状況を把握しながらも……不利な要素を思い浮かべながらも、1人第一班が先行していたハズの道の先を見やる。

 その先からやってくるであろう化け物を見据えるかのように。


「なぁ、『シャクナゲ』。俺らはいっつも損な役回りだよな」


 そう語りかけるも答えは当然なく──


「絶対的な切り(ジョーカー)扱いをされて、最後までババを持つ羽目になる」


 手に握る相棒は冷たい輝きを放ち、死を撒き散らす冷たき2つ顎を覗かせるのみ。


「強いからこそ負けを約束されるなんて、なんの冗談なんだろね?」


 それでも二丁の拳銃、黒いオートマチックである『シャクナゲ』はやはり何も語らない。

 そのいつも通りの沈黙こそが彼らの答えな気がして……

 世界が狂ったのを今更嘆くのは無意味だ、そう諭された気がして、俺はそっと空を見上げた。


 牙のように細い赤き月が浮かぶ狂った世界を──










 10年とちょっと前、世界はいきなり大きな変化に見まわれた。

 世界中に変種が生まれだしたのだ。

 ──『人間』の格好をし、『人間から生まれた』人の変種が。

 最初の10年は何事もなく、変種達も受け入れる方向で世界は流れていた……らしい。


 らしいと推測で語るのは、俺が産まれた時にはすでに変種が存在し、すでに当たり前の存在と化していたから。

 あって当たり前の存在が、当たり前に受け入れられていく課程の世界だったからだ。

 そんな風に変種が受け入れられ、緩やかに流れていた世界がゆっくりと……そして歪に変質しだしたのは、俺がそろそろ義務教育を終え、高校生というステータスを持とうかという時分だった。


 ──世界中にいる変種の一部、全体から見れば本当に僅かな確率の変種が世界中で変革を起こしたのだ。


 人間の世界に馴染んでいたハズの変種達。

 すでに人並みの幸せも、人並みの不幸も、人並みの権利も、人並みの義務も持っていた変種達。


 そんな変種達は人とは違う力を持ち、稀に人とは多少違う姿形を持つモノもいるが、すでに『人間』として……『人間から生まれた新たな人間』として受け入れられてたのに、この変革以来『人外の化け物』と呼ばれるようになったのだ。


 ──人に仇なす化け物、『ヴァンプ』という種に。


 変種、その中でも俗に『ヴァンプ』と呼ばれる連中は、すでに変種に対する法も整備された世の中を全部……仲良く暮らしていた連中全てを巻き込んで、各地で力をもって改革を起こし、世界中を混乱に陥れた。



 世界の中心と呼ばれた国が最初に崩壊したのは、ある意味当然だっただろう。

 なにしろその国は『世界の中心』と認識される国だった上、人道を口にしながらも力を使う事に躊躇しない国だったのだ。

 変種を受け入れる人道と、それを利用しようとする軍拡主義が変種達に自らの力を過信させ、驕らせた。

 その過信こそ、変種達が『ヴァンプ』に変わる土壌となったのだろう。


 とんだマヌケ共だが、それを単なる他人事と笑えないのがこの国の辛い所だ。

 その『壊れゆく大国』に付き従う政策を取り、モロにその崩壊の影響を受けたのだから。

 それまでその『大国』を目の敵にしていた僅かな連中でさえも不安に圧され、流通や経済が悪化するのは文字通りあっという間の事だった。

 ……この国で力あるヴァンプが変革を起こしたのも、それからすぐの事だ。


 以来3年、この国……日本は、すでに四国と九州をギリギリ維持できる規模まで圧され、他は力あるヴァンプ共に好き勝手に切り取られた。

 力のあるヴァンプが他のヴァンプ共を淘汰し、力を持たない人間(既存種)を支配して、各地を分割統治しているのだ。


 それぞれが王だの将軍だの名乗る、強大な力を持つイカレ頭共が──。





 俺達『黒鉄(くろがね)』は、それに対抗する諦めの悪い連中。

 ヴァンプ共の好き勝手を認めたくない、『人間』と『変種』の集まり。

 ……まぁその中でも、俺は飛びっきり諦めの悪いヤツって言えるだろうね。

 そう、ヴァンプ共の支配で落ち着いたこの国を、またメチャクチャにしようとしているんだから。

 二丁拳銃をぶっ放し、かつて根を張っていた世界を取り戻そうと足掻いているんだから。

 ひょっとしたら多くの人はもう望んでいないかもしれない事を、いまだに諦めきれずにいるんだから。


 ──だから俺の名前は『シャクナゲ(石楠花)』。


 雑草のようにしぶとく、諦めの悪いシャクナゲ。

 ……頑なに自身の在り方を主張するだけしか能がないシャクナゲさ。






****






「はぁ!?あのアホ……1人で足留めとかしてんの!?」


「は、はい。私達に先に行けと言って……」


「ったく、あんのバカ」



 赤く染まった髪が風になびく。

 あたしのコードそのものの色をした髪が。

 それを鬱陶しげに払いながらあたしは盛大に舌打ちを漏らしてみせた。

 あたしと同じく符号(コード)持ちでありながら、いつも通りにカッコ付けの雑草野郎へと毒付くように。


「あんのアホ、カッコ付ける余裕があんならとっとと下がれっての!!足留めにしたって、あたしと協力すりゃ簡単な話でしょうが……」


 もちろんアイツの考えくらい分かっている。

 あたしには仲間達の撤退を守らせたいのだろう、そんな考えから1人で足留めをしようと考えたんだろう、それぐらいは分かっているつもりだ。

 それに対しては『アイツらしい』とすら思う。


 それでもここはこうやって悪態をついて見せなきゃならないところなのだ。


「カ、カーリアン、お願いします。シャクナゲを……シャクナゲを助けてやって下さい!!」


 そんなあたしの態度に、そう縋りつくようにして懇願してくる青年にも、思いっきり嫌そうに顔をしかめてみせる。さらにはそれを見せつけるかのようにそちら向いた。

 こうやって形ばかりでも嫌そうにしてみせる事が大事なのだ。そうしなければ軽く見られる事になるし、あのカッコ付け野郎に恩を着せる為にも、『イヤイヤながら』ってポーズは必要不可欠だろう。

 素直になれない、とかじゃない。絶対ない。ありえない。


 あくまでもあたしを軽く見させない為なだけで、ついでに恩を大きく売る為でしかない。


「面倒っくさいわねぇ~。あのアホ、どんだけあたしに迷惑かければ気が済むってのよ」


「そ、そこをなんとか……なんとかお願いします!

今ここ来てるコードフェンサーはカーリアンしかいないんですっ!!」


 そんな泣きそうな調子で言う雑草野郎の副官に、あたしは内心ではほくそ笑みながらも、大袈裟に天を仰いでみせた。

 自らの立場……特殊なコード持ちである変種、『コードフェンサー』たる自身の立場を嘆くように。


「カクリ、二班は三班のマヌケ共と一緒に撤収。機材は三班と分担して運んで」



「機材を……運ぶと手間取ります……」


「雑草野郎が足留めしてんなら、二班の機材くらいは運べるでしょ?三班の連中に持てるだけ持たせりゃいいのよ」


 冷静な副官……カクリの声にそう返しながら、シッシッとばかりに手をヒラヒラ振った。

 その副官が、可愛い顔にはもったいない相変わらずの無表情で小さくコクンと頷くのを見ると、あたしはもう一度イヤそうに舌打ちをしてから歩き始める。


「あたしはカッコ付けの雑草野郎を引っこ抜いてから行くから先に行ってて。多分そんなにかかんないから」


「……はい」


「あんたの優秀さは信じてるから言うまでもないとは思うけど、無理そうなら道具は全部捨ててきなさいね」


「……はい」


 相も変わらずあまり喋らない子に、呆れ混じりに肩をすくめ……あたしは予備動作もなく駆け出した。

 後ろで一つに括った赤いポニーテールを、夜風になびかせながら。

 カーリアンのコードに相応しい、赤一色のコートを着込んだ『コードフェンサー』として。


(……ったく、アイツはあたしがいなきゃ何も出来ないんだから!!)


 なんて事をちょっと嬉しく思ったりもしながら。






****






「えっと、よかったのかい?なんかカーリアンを騙したような気がするんだけど……」


 彼女が去った後にそう語ったのは、三班副官の青年だった。

 その言葉に二班副官たる小柄な少女は、小さくコクンと頷いてみせる。


「カーリアンは素直じゃない……。……逃げろって言ったらムクれてた。……そしてあなたが何も言わなかったら……多分オロオロしてた。……シャクナゲの事が心配なのに自分からは何も言えず……ただひたすらオロオロオロオロしてた」


 そんなカーリアンも可愛いけど……と続ける少女を見ながら、青年は小さな苦笑を浮かべた。

 強大な変種──コードフェンサーであるカーリアンが、自身の副官である小柄な少女に実権を握られているという噂は本当だったんだ、などと納得しながら。


 そして最初に副官である少女に面会した自分の運の良さに感謝しながら、彼は残ったままになっている主がいる方向を振り返る。

 彼が心酔する自分よりも若い変種……1人残ったままになっている少年を見据えるように。


(……シャクナゲ、あなたは必要な『人間』です。あなたはヴァンプとは違う存在なんですよ)


 そんな事を思い、小さく呟きながら。


「……撤退。……二班は数の少ない薬を優先……三班は機材を運んで。……怪我人はいないからすぐに出る」


「残ったままのシャクナゲにはカーリアンが手を貸しに行ってくれました!我らは先に撤退します!ここの殿(しんがり)は私と黒兎小隊で。後のメンバーはカクリさんの指示に従って下さい!」


 そして2人はそう指示を出すと、それぞれ即座に撤退準備に入る。


 『紅』と『黒鉄』の2人が帰るまでは、彼ら2人が班の仲間を纏めなければならないのだ。

 胸の内で小さな不安が消えなくても、それを抑えて彼らが率先して準備に入らなければならない、と2人ともが理解している。

 それは上に立つ者が何事も率先して動くのが、この2つの部隊に共通する在り方だとそれぞれ理解しているからだ。

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