18話 秘密基地
次話より章が変わります。一人称で書くことに慣れてないので、しばらく三人称で殴り書きっぽくなります。違和感があるでしょうが、よろしくお願いします。
そこは崖の下に出来た天然の空洞であった。父が発見した頃は小規模なコウモリの群れが巣くっていたそうだが、どうしてもこの場所が欲しかった父は、容赦なくコウモリを焼き払い奪い取った。日頃、魔物に対してさえ優しい面をみせたりもする父だったが、いざ目的の為ならブレーキが効かなくなる。今にして思えばだが、父は妙にアンバランスなところがあった。オークに対してもそうだ。ともかく、父はここを整備して、山岳地帯侵入用秘密基地をつくったのである。
当初は、コウモリの糞尿でかなり臭かったらしく、消毒消臭が一番大変だったと零していた。また川側に開いた穴が大き過ぎて、秘密基地感がまるでなかったことが気に入らなかったらしく、大きな岩を積み重ねて完全に塞ぎつつも、さも空洞などなかったかのように巧みに擬装したとのことだった。人がやっと通れる程の薄い岩が張り付けられた小さな扉も、その(父にとっての)美観を損なわない為の配慮なのだそうだ。逆に、亀裂側には、人工物であることをまるで隠すつもりがない木のドアが取り付けられていた。『もし誤って亀裂に落ちた人がいたら、ここにドアがあると助かるだろ?』とよく判らない優しさを見せるのである。
俺がここへ来たのは四年振りだった。父とワイバーンを倒した時以来のことだが、人も魔物も動物も、誰かがここへ入ったという形跡はなかった。
真っ暗な秘密基地の中で、俺は、手探りで備え付けのベッドに気絶した女を寝かせると、幾つかある壁掛けのランタンにオイルを注ぎ入れ、明かりを灯した。室内は多少の湿気を感じるが、以前のままで設備にも問題はないようだった。
室内には、二つのベッドと食卓テーブルに椅子。それから、ちょっとした料理ぐらいは出来るキッチン。冬用に薪ストーブも備えてあり、風呂とトイレさえあれば、春まで住めそうな設備と安全性であった。
取り合えず、俺はストーブに薪を放り込んで火を入れる。そして、今のうちにと。川側の小さな扉から川辺へと出ると、『魔法の鞄』の中からカヌーを取り出した。ちなみに、これは父が作ったものではなく、ランベールの街郊外にある河川港に放置してあったのを拾ってきたものだ。
ここへ来るまでは、どうやって、このカヌーを『魔法の袋』から取り出したものかと悩んでいた。元々ここへ置いてあったと言っても、すこし不自然だし、リュックサックの中から出したと言うのも、さすがに無理があった。ここはもう、『魔法の袋』のことを女に話してしまうしかないかと、半分諦めていたのだが、女が気絶してくれたのは不幸中の幸いだったとも言える。
「おい、起きろ」
俺は、ベッドに寝ている女の肩を揺する。
女は、ハッと慌てた顔でキョロキョロしていたが、俺の顔を見て、安心したように息をついた。
「大丈夫か?」
「はい、ご心配をお掛け致しましたわ」
そして、改めて周囲を見渡している。
「えっと、ここは? もしかして! 気絶している間に山小屋に着いたのですか?」
女は顔を明るくしたが、そんな都合の良い話はない。
「いや、違う。ここは秘密基地だ」
「秘密基地ですか……?」
「そうだ。今日はここに泊まる」
俺は夕食の準備を始めた。ここで火を起こすわけにはいかないので、使えるのは薪ストーブの上だけになる。
「これをそこのポンプの水で洗ってくれ。やり方は判るよな?」
俺は、コムエをカップ5杯取り出して、笊に入れると、それを女に渡した。
「はい、コムエですね! 畏まりました」
と張り切って笊を受け取った女だったが、そのまま固まった。
「どうした?」
「えっと……ポンプとは?」
――「はい」って言ったじゃねーか!――と言おうとしたが、俺は思い出す。ポンプはユレイブの街にもなかったことを。これも父の発明品の一つであった。低い位置にある水を高い場所まで運ぶ装置だ。山小屋では普通に使っているので忘れがちだが、改めて言葉にすると凄い発明である。
俺はキッチンにあるポンプの傍まで行くと、上部にある穴の中へ水差しから水を注ぎこむ。そして、ハンドルを何度か上下させると、ボコボコと音がして、少し濁った水が水口から出て来た。それをしばらく繰り返していると、透明な綺麗な水が出て来るようになった。
「こ、これは、凄いですね。どうなっているのですか?」
女は目をむいて驚き、水が出ているポンプをあらゆる方向から眺めていた。
「父がつくったものだ。地下から水を引いているらしいが、その構造がどうなっているのか、俺にはさっぱり判らない」
これもまたそうだ。俺は、どうして父の子でありながら、父の作ったものや、その考えが判らないのだろうか。遺品とも言えるその便利道具に囲まれながら、俺は何一つ理解できなかった。父が死んで翌春に山小屋に戻ってからは、やたら焦燥感に駆られて父の残した論文を読み漁る日々をおくった。それでも、判ったことは、判らないということだけだった。あれから三年経って自分では割り切ったつもりでいたが、やはりこうやって訊ねられても、説明も出来ない自分が、父の息子である資格がないような、そんな気分にさせられる。
「これまでも、いろいろお話をお聞きしましたが、お父様は天才であられますね。さすがは勇者様と言ったところでしょうか」
俺は、女が『勇者』と言ったことに引っ掛かりを覚えた。
評価。よろしくお願いしますm(__)m




