15話 地図
地図的なものを載せてみましたよ。
「この辺りで一旦休憩しよう」
昼下がり。川が見渡せ、かつ対岸から身を隠せる樹木に覆われた場所で俺は止まった。
「川辺まで行かないのですか?」
「あぁ、まずは飯だ」
俺は、女に背を向けると、『魔法の袋』からこっそりと焼きオヌギリを取り出した。まだ焼き立てと言わんばかりにホカホカだ。
「リュックサック、背負ったままですわよ」
女が、呆れたような、勝ち誇ったような目を向けてきた。
「ポ、ポケットだ! ポケットから出した!」
しくじった。しかしここは強気で押すしかなかった。俺はベストの両端にあるポケットを両手でパンパンと叩いた。
「あらあら、道中はそんなに膨らんでませんでしたわよ……。まあ良いですわ」
まるで子供の我儘に付き合うような女の仕草に、すこしイラっとした。
また、まだ完全にゴブリンのテリトリーから抜けていなかったのもあって、ご苦労なことにゴブリンの斥候は相変らず、付かず離れずついてきていた。
「おい、お前らも食うか!」
俺は、八つ当たりでもするように、隠れていたゴブリンたちに話しかける。
二匹のゴブリンが、木陰からおずおずと出て来た。そいつらに、葉に包んだ焼きオヌギリをを一つずつくれてやると、しばらく焼きオヌギリを両手で持って固まっていたが、そのまま再び元の木陰に戻っていった。
「この焼きオヌギリも香ばしくて美味ですわね。 エスウユーでしたか? これもカレライセウ同様、不思議な味がしますわ。それはまるで――「もういいって」――」
「あっ、はい」
俺がうんざりしているのが判ったのか、女はモクモクと焼きオヌギリを口に運んでいた。が、終始、何か言いたげに、体をムズムズさせていた。
その時、木陰から「ギッ、ギーーーィ」と、ゴブリンの歓喜する声が聴こえてきた。美味かったのだろう。女の長ったらしい感想より、余程、伝わってくるものがある。
「じゃあ、ここで少し場所の説明をしておく」
俺は、棒っ切れを手に取って、地面に近辺の地図を描いていく。
まずは起点として、森の北東から蛇行して森を通り、草原に向かって、延いてはユレイブの街近郊にまで続く川、『北東の川』を描いた。そして、それに流れ込む、水量としてはこちらの方が本流と言って良いかもしれない北西の山奥から流れてくる川、『北西の川』を付け加えていく。
「俺たちが今いる場所はここだ」と『北東の川』と『北西の川』が合流する地点の東岸を丸で囲んで、『ゴブリン』と書き込み、そこへ現在地を示す小石を置く。
「この辺りがオークのテリトリーになる」
ゴブリンのテリトリーから川を挟んで西側に『オーク』と書いた。
女は、地面に描いた地図を真剣に見て頷いた。
「それで、オークのテリトリーと北西の川を挟んで北側にあるのが、山岳地帯だ」
俺は北の方を指で差し、岩肌が目立つ場所を実際女に目視させて確認させると、地図に山の絵を描いた。
「えっ、えっと、遠くで白く霞んでいる一際高いあの山は、もしかして竜王山でしょうか?」
女が指す方向を確認して、俺は首を横に振る。竜王山は大陸で最も高い山であり、国境より向う側にある山だった。天気が良い時には、遠く離れた王都からも見えるのだと、父が言っていた。
「いや、違う。あれは黒龍の巣がある山だ。竜王山はもっと大きい。山小屋についたら見せてやるよ」
当然のように答えたが、女はかなり驚いているようだった。それは一旦、置いておいて、地図の山岳地帯の真ん中に、少し大きめの山を描き、『黒龍の巣』と書き込んだ。
「なぜ、そんなに驚いているんだ?」
尚も口に手を当て驚きの表情をしている女に、改めて質問した。
「いえいえ、旦那様が、随分、お優しいので……」
女は顔を赤らめている。
――旦那様って誰?――と敢えて突っ込んだりはしない。揶揄ってくるヤツの相手をすると、さらに助長させるだけであるからだ。それは母との暮らしで、痛い程学んだことである。
「はい!」と女が、突然、手を挙げる。
「なんだ?」
「あなた様と初めてお逢いしたクスノキはどの辺りでしょうか?」
俺は、そんな無意味な質問に、一瞬「はっ?」と思ったが、地図を描き足していき、「この辺りだ」と『木』の絵を描く。
「ふむふむ、では洞窟はどこですか?」
「ここだ!」
何なんだ?と思いながらも答える。
「えっと、ならばユレイブの街はどの辺りになるのでしょう?」
「はぁ? それは意味があるのか?」
「えっと、一応、知っておきたいのです」
俺は溜息をついて地図を描き足していく。座って描いていたが、範囲がやたら広くなってしまったので、立たざるを得ず、三歩ほど先を小さな四角で囲んで煙突代わりに小枝を刺し込んだ。
「ならば俺からも質問だが、盗賊のアジトの正確な場所はどこだ?」
女はじっくり地図を見渡し「この辺だと思います」と、森に入ってすぐ、川が蛇行している辺りを示した。そこへ俺は『盗賊』と書き込む。
そして、この際だと、街道や草原、ユレイブの街の東に広がる砂漠。砂漠を挟んだ東西の街の位置。 『浅い森』にある狩人が泊まれる場所も▲でマークした。
また興が乗ってしまい、この先おいおい説明していくつもりだった山小屋までの道のりにある森の奥も、ついでに記してしまうことにした。
https://40085.mitemin.net/i681511/
評価をよろしくお願いします。
短編をアップしました。良かった読んで下さい。
『特別な存在」 https://ncode.syosetu.com/n1688hw/




