第96話 警告
宇宙の片隅。地球から遥か遠く離れた場所に作られた宇宙観測所で、恐ろしい現象が確認された。膨大な力の奔流が、凄まじい速度で成長している。観測所の科学者が計算したところによると、それはやがて地球にまで到達して太陽系を壊滅させる可能性があった。
観測所はすぐさま地球へ向かって警告を発信した。それは電波に乗って精一杯の速さで宇宙を切り裂き進んでいったが、地球までは距離がありすぎて到着には数百年の歳月がかかった。その間にも脅威は刻々と地球に近づいており、それはさながら警告と驚異の追いかけっこであった。
警告の方が僅かに早い速度で進んでいたが、脅威は徐々に膨れ上がって加速しており、近い未来に警告を抜き去るであろうことは明白であった。
一方、地球では目覚ましい技術の発展に伴い、宇宙開発が急速に進んでいた。地球を取り囲むように数多くの宇宙基地が作られ、それを足掛かりにして、蜘蛛の巣を張り巡らせるように宇宙に基地が広がっていた。
そうして作られた宇宙基地のひとつ、蜘蛛の巣の最遠部に位置する基地が、警告の電波を受信した。その基地には最初に電波を発信した観測所よりも高性能の通信装置が備えられており、改めて警告の電波が高速通信により発信された。それにより警告は脅威より一歩先を走り出すことができたのだった。
度々警告は脅威に追いつかれそうになりながらも、あと一歩の所で引き離すことに成功していた。地球に近い基地ほど、より最先端の通信装置を備えており、より速く、より強い力でもって警告という名のボールを地球へパスすることができた。数多の基地が警告を受け取り、それは無数の矢となって地球へと送り直された。
警告が地球へと到着する頃には、電波同士が干渉し、増幅されて、凄まじい嵐へと成長していた。強烈な警告の竜巻に呑み込まれた地球では、あらゆる電子機器が使い物にならなくなり、人類は大混乱に陥った。
そんな地球のあわただしさをよそに、かつて脅威と断定された現象は、長い時を経て今や無害なそよ風となり、地球を優しく撫でるようにして通り過ぎていった。




