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第908話 懲役1分
その国には犯罪がなかった。
犯罪がないから、警察もなかった。
けれど、刑法だけはあった。
――悪いことしたら懲役1分
それが、罪に対する唯一の罰。
ある日、旅人がやってきて、国民を殺してしまった。
そうして、罰を受けることになった。
罰は当然、懲役1分。
1分のあいだ、刑務所に入らなければならない。
その国には警察がないから、刑務所もなかった。
だから、悪人は皆、隣の国の刑務所に収監されることになっている。
運ぶのはとっても賢い牛。
隣国までの道のりをきちんと覚えて、人の手を借りずに往復ができる。
縛り上げられた悪人は、牛に固く結びつけられ、門の外へと牽かれていった。
そうして、山を越えた先へと向けて、遠く遠くへ旅立っていく。
何日も、何ヶ月も、何年もかかる隣国を目指して。
