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第9話 除霊出会い相談所

「あのう。除霊をお願いしたいんですが」

 訪ねて来た男がおずおずと言う。

「はい。こちらへどうぞ」

 俺が椅子を勧めると、男はおっかなびっくりといった様子で浅く腰掛けた。

「やっぱり憑かれてますか?」

 男は恐る恐る自分の頭の上あたりに視線を向けた。

「そうですね。ライオンの霊です」

 経験上、こういうことはあっさり言った方がいいことは分かっている。男は一度目を見開いて、次には固く閉じると「祓えますか」と尋ねた。俺は数えきれないほど繰り返した説明をする。

「まず、当サービスの説明をさせて頂きます。初めにお客様には当相談所に除霊師として登録していただくことになっています。そして最低一週間は当相談所の除霊活動にご協力していただき、一週間以降に改めて、ご自身の霊を祓うご依頼をしていただくことになっています。その後、お客様に憑りついた霊を祓うことになります」

「いますぐ祓ってもらうことはできないんですか。それに私、除霊なんて…」

 男は心配そうに言ったが、こちらは慣れたものだ。

「一週間後には必ずお祓いすることをお約束します。大丈夫ですよ。除霊と言っても、ただ人に会うだけなんです。お客様ご自身に何か特別なことをしていただく必要はありません。相性のいい霊同士を会わせて、霊に霊を退治してもらうのです。お客様の霊の場合は、まずはキリンの霊を祓っていただくことになります。逆にお客様に憑いたライオンの霊を祓う場合は、サーカスの猛獣使いの霊に憑かれた方をご紹介いたします」

 登録されている客のリストに目を通しながら説明すると、男はまだ少し不安そうに「なるほど」と言って頷いた。俺は追撃の手を緩めずに説明を続けた。

「除霊をしていただいた方には、当相談所から謝礼をお渡しするシステムとなっているんですよ」

 謝礼の内容を説明すると男は徐々に乗り気になってきて、実際の除霊現場の話や除霊をきっかけに出会った男女のロマンスなどを聞くと、最後にはすっかりやる気に変わっていた。

 男は契約書にサインすると帰っていった。ライオンの霊には需要がある。できれば一週間経っても祓わずに、除霊師として登録を継続してもらえると相談所としては非常に助かる。謝礼を少し多めにして交渉してみようかなどと考えながら、俺は椅子に深く腰掛けて手足をぐっと伸ばした。


 この相談所を立ち上げてからもう大分長い歳月が経った。今ではかなりの数の登録者がいて、うまく除霊のサイクルができあがっている。商売としてはかなり順調と言える。妙な霊も多いのだが、いずれもどうにか問題解決に導くことができていた。

 ある時はユーカリの霊に憑かれた奴がやってきたが、コアラの霊で祓ってやった。鬼の霊に憑りつかれた奴は、桃太郎の霊で対処した。桃太郎の霊の方も満足して消えてしまったのは誤算だったが、成仏という形でも除霊できることが分かったのは収穫だった。アポロ11号の霊に憑りつかれた奴は、月の霊でなんとかなったし、月の霊は超巨大隕石の霊で、超巨大隕石の霊はそれに人類が挑む映画の霊で祓うことができた。

 だが、こんな俺にも唯一祓えない霊がいた。自分の背後を見ると、長い白髭をたなびかせ、ボロの布切れをまとった爺さんの霊がいる。何事も見通しているといったその表情にはうんざりさせられる。こいつを祓う為にこの相談所を立ち上げたというのに、いまだ目的は達成できていない。神様の霊らしいのだが、どんな霊に会わしてみても、涼しい顔で除霊などできやしない。

 誰かニーチェの霊にでも憑かれてきてくれないかと思いながら、俺は深くため息をついて、今日も仕事に励むのだった。

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