第83話 護衛
標的に接近して銃でズドン。簡単な任務のはずだったが、どうも雲行きが怪しい。標的は裏社会の大物。各方面から恨みを買っていて、もはや四面楚歌だが、大物と言うだけあってその身辺は厳重に守られている。今は不用心に一人で街中をぶらついているように見えるが、一般人に紛れ込んだ多数の護衛がいるのが分かる。金に物を言わせて揃えたであろう、手練れの者たちだ。
標的が移動する。やはり護衛が邪魔だ。なんとか接近してナイフでズブリといきたい所だが、まるで隙がない。護衛たちは既に俺の存在に気がついているようで、こちらが牙を見せた途端に返り討ちに遭うことは必至だ。慎重に機会を窺う必要がある。
苦労の末に鉄橋の上に先回りできた。下を通る標的にボウガンの矢をストンと撃ち込んでやれば任務達成な訳だが、やはり守りが固すぎる。例え成功したとしても、標的を亡き者にした後に逃げ場がない。無事に帰還できてこその任務。別の手段を考えなければならない。
じりじりと時間だけが過ぎている。こうなったら護衛を減らして、無理やりにでも隙を作るしかなさそうだ。毒針を仕込んだ吹き矢を口に含む。こいつでチクリと刺してやれば、瞬く間に護衛を無力化できるだろう。丁度おあつらえ向きに標的が人通りが少ない場所へと歩いていく。やるなら今しかない。
裏社会の大物。そんな男の周りで突然血みどろの争いが勃発した。銃弾、ナイフ、ボウガン、毒針、様々な暗殺武器が飛び交い、見知らぬ者たちがバタバタと倒れていく。男は驚愕の中で恐れ慄き、今日呑気にも護衛を連れずに外出したことを後悔しながら、慌てて家へ向かって駆け出したのだった。