第827話 事前予防
「ついに究極の兵器が完成したぞ!」
研究倉庫に博士の感嘆の声が響く。
目の前に鎮座するのは巨大な戦車。
あらゆる悪路を走破可能な無限軌道。
銃弾の雨をもはじく滑らかな曲面の特殊装甲。
そして、太い砲身から発射される弾丸はどんなに頑丈な砦をも貫いて破壊する。
どこをとっても一級品。
一騎当千の活躍をすること間違いなしの発明であった。
やってきた軍の士官が感心しきりで戦車を眺め、満足げな顔で頷く。
「これは素晴らしい」
称賛の言葉に博士はいい気分。
だが、しばらくして、士官はこんなことを尋ねてきた。
「この戦車に弱点はないのか?」
「そんなものありません」
自信満々の回答。しかし、それを聞いた士官は眉をしかめた。
「それだと困る」
「困る? なぜです?」
「君は研究三昧で実際の戦場というものを知らないだろう。戦場における兵器とは敵に奪われることがあるのだ。常に最悪の事態を想定しておかなければならない。鹵獲され、敵に使われた場合に、こちらが対処ができなければならないのだ」
「ははあ。なるほど」
博士はそういうものかと考える。
過酷な戦においては、二手も三手も先のことを考えておかなければならないのだろう。確かに、この戦車が敵の手に渡るようなことがあれば大惨事になる。
「博士。敵に奪われた際の対処法を考えておいてくれ。無力化するための発明が必要だ。それが完成するまでは、この戦車を実践投入することはできない」
「と、言われましても……」
弱り切ってうなだれる。一部の隙なく絶対無敵というコンセプトで作られた兵器なのだ。弱点などあってはならない。
完全なる研究成果を不完全にする研究。
博士はおおいに悩んだが、命令とあってはやるしかない。
苦心の末に、発明品を台無しにする発明をなんとか完成させた。
特殊装甲を腐食させる薬品。戦車に浴びせれば、容易に破壊可能になる上、履帯の動きが鈍くなって、身動きを封じる作用がある。
士官に報告すると、やっと戦車が実践投入されることになった。
戦場で敵を蹴散らし、砦を踏みつぶし、華々しい戦果をあげるに違いない。
博士はそう信じ切っていた。
しかし、送り出した戦車が戻ってくることはなかった。
なんともはや、あっさりと打ち破られてしまったらしい。
敵軍が腐食液を使ってきたのだ。
詳しい状況を聞くために博士が士官室を訪れると、そこはからっぽ。
部屋の様子を確かめた博士は地団太を踏んで悔しがる。
「ちくしょう!」
いくら嘆いても後の祭り。士官はどこにも見つからず、腐食液の生成法を書いた書類も同時に消えてなくなっていた。




