第811話 誰かの狂気
「うおおおおおおおお!」
街道を走る。
狂気のおたけび。
手に持った刃物をふりまわす。
誰でもいい。殺してしまいたかった。
なにせ、もう、おれの命はないのだ。
誰かを道連れに、あの世でもどこでもいってやる。
警察どもがおれを捕まえることはできない。
おれはすぐにでも、手の届かない世界に高飛びするのだから。
余命一日を宣告された。
こんなことってあるだろうか。
最後の最後。それなら、自由にやらせてもらうだけのこと。
別に人殺しが好きなわけじゃない。人を殺したことなどない。
こうなれば、やけっぱちというだけ。
やってみれば、案外楽しいかもしれない。
なにごとも経験。こんなときでなければできない経験だ。
道の向こうから誰かが走ってきた。
誰でもいい。
あいつでいい。
おれは刃物をふりかざす。
しかし、相手の手にもまた、ぎらぎら輝く刃物がにぎられていた。
返り討ちにあったおれは凶刃に倒れ、命を落とす。
最期の瞬間、おれを殺した誰かさんの声が聞こえた。
「ぼくの命は今日までなんだ。こうなれば好きにしてやるさ……」




