第8話 明日の歴史
朝寝坊してしまった。学校に遅れてしまう。僕は慌ててカバンに荷物を詰め込むと、朝ごはんも食べずに家を飛び出した。
通学路。急ぎ足で歩きながら端末を取り出す。同じ学校に通う生徒の、遅刻の歴史を検索する。すると昨日、一昨日と、何件もの検索結果が表示された。歴史によると、近道をして遅刻をまぬがれたらしい。僕はさっそく歴史をたどり、学校についたのはいつもよりむしろ早い時間だった。
起きてすぐに調べれば朝ごはんを食べれたのにと思い、僕は後悔した。次からはきちんと歴史を調べてから行動しようと誓う。
自分の席について授業の準備をしていると、忘れ物をしていることに気がついた。筆記用具がない。僕はすぐさま端末で歴史を検索した。
学校で筆記用具を忘れた歴史は無数にあった。けれど絞り込みは手慣れたもので、すぐに良さそうな歴史を見つけることができた。その歴史によると、隣席の生徒に筆記用具を借りて、その後友達になり死ぬまで親友として付き合いがあったらしい。
僕は同じ歴史をたどることにした。隣席の子に筆記用具を貸してくれるようにお願いした。併せて先程調べた歴史をその子の端末に転送した。こうすることで滞りのないやり取りができるのだ。
その子は端末を操作し始めた。僕はその時、自分の失敗に気がついた。おそらくこの子は筆記用具を貸した側の歴史について検索しているのだ。相手の方の歴史でも良いことがなければ、この交渉は成立しないだろう。今更気づいてももう遅かった。後は良い検索結果を見つけてくれることを祈るばかりだ。
しばらく緊張しながら待っていたが、筆記用具を貸してもらえることになった。歴史に照らし合わせれば、これで僕たちは友達になったのだ。
休憩時間になって次の授業でテストがあることを思い出した。しかも昨日テスト勉強をし忘れている。急いで端末で歴史を検索する。カンニングをしてテストでいい結果を出したという歴史が何件も見つかった。カンニングの方法を調べ始めようとした時、ふと思い当たって、その人たちが歩んだそれ以降の歴史を確認した。するとテストで良い結果を取ったものの、大多数がその報いを受けているようだった。
僕は思い直し、今度はテスト勉強をし忘れて、更にその歴史を調べて行動した人の歴史を検索した。歴史の先生が「歴史に学んだ行動こそが、真に価値ある歴史になる」と言っていたのを思い出したのだ。
歴史に学んだ結果、とにかく一生懸命に回答欄を埋めることにした。歴史によれば、テストの結果が振るわなくても親や先生からの評価が得られないわけではないと分かったのだ。がむしゃらにテストと向き合うと意外にすらすらと答えることができた。僕は歴史の先生が言っていたことは正しかったのだと思った。
なんとか授業を終えて帰宅の時間になった。僕は隣席の子に一緒に帰らないかと声をかけた。筆記用具を借りた人の歴史通りの行動だ。隣席の子はまた端末で歴史を検索しているようだったが、すぐに快く了承してくれた。僕らは歴史に基づいて友情を育むだろう。
僕は自身の素晴らしい人生について思いを馳せた。今日の僕の行動は、明日には価値ある歴史となって永遠に刻まれるのだと思うと、誇らしい気持ちでいっぱいになった。