第796話 のっぺらぼうロボ
妖怪博士がロボットを作った。
その名も、のっぺらぼうロボ。
のっぺらぼうというと顔がない妖怪。
のっぺらぼうロボにも顔がない。
ただし、義眼、義鼻、義口などの拡張パーツを装着可能。
妖怪博士はのっぺらぼうロボに完全装備をほどこして、研究所から発進させた。
電子頭脳に搭載された高性能AIがロボットを動かす。
目的はひとつ。恐怖をふりまくこと。その使命を果たすため、さっそく山のふもとへとおりていった。
顔のない月が落とす明かりのなかで、古びた家々がほこりにまみれている。
暗い街路をぺたぺたと踏む足取りは立派な妖怪。
人影発見。こそこそと近づいて、
「ちょいとあんた」
合成音声だが、違和感のないなめらかな発音。わずかな掠れが怖ろしさを演出。
「なんだい」
ふり返った顔。そこには、顔がなかった。
「おや?」「おや?」
見合った顔と顔とが鏡に映したみたいに首を傾げる。
「お前さん。のっぺらぼうだね」と、のっぺらぼうロボ。
「そうだ。そう言うお前さんは大かむろかい?」
のっぺらぼうが尋ねる。
「違う」
「なら子泣き爺かい?」
「違う」
「オバリヨン?」
「違う」
「小豆洗いか?」
「違う」
「鬼の類かい?」
「違う」
「わかったよ山精だろう」
「違う」
「河童の子供かい?」
「違う」
「いが坊?」
「違う」
「一つ目小僧?」
「違う」
「からかさ小僧の親戚かい?」
「違う」
「泥田坊?」
「違う」
「大入道?」
「違う」
「青坊主?」
「違う」
「ワロドンだろ?」
「違う」
「……じゃあいったいなんなのさ」
困惑しきりの顔のない顔に、のっぺらぼうロボが教えてやった。
「のっぺらぼう、だよ」
それを聞いたのっぺらぼうは肝をつぶし、恐怖の叫びをあげた。
「うわああああ!」
叫び散らしながら道の彼方へと這う這うの体で走り去っていった。




