第750話 アレ
「おまえアレどこやった」
「あなたアレならアレしたから、いまはアレでしょ」
「あっ。そうだったそうだった。アレはアレしてたんだったな」
「それよりアレのアレはどうしたのよ」
「アレならアレだ。アレがアレで」
「ああアレだったの」
「ちがうアレだ」
「アレのほう?」
「うん。だからアレしないとな」
「わかった。じゃあわたしがアレしておくから、あなたはアレをおねがいね」
「おれが? いやあ、アレはアレだなあ」
「アレなだけましでしょ」
「でもアレだよ」
「そうねえ。じゃあアレにしましょう」
「アレにするか」
「ええアレで」
「アレだな」
「アレよ」
「アレ」
地球の衛星軌道上にこっそりと浮かぶ宇宙船。
監視装置から送られてくる地球の音声に、真剣な表情で耳を傾ける宇宙人たち。
現在、地球との交渉に向け、言語の解析中。ランダムに対象が選ばれた結果、仲睦まじい熟年夫婦の会話をサンプルにすることに決まった。
翻訳は難航。難解かつ精妙、捉えどころのない言語に四苦八苦。
しかし、学者たちが総力を挙げ、とうとう解析に成功したのであった。
翻訳機が完成すると、地球人類との接触をはかるべく、記念すべき交渉の第一声が電波に乗せて発信された。
「われわれはアレである。アレとアレすることをアレしている。ぜひともアレをおねがいしたい。もしもアレならアレだ。アレはアレであるからして、アレをアレのアレしてくれればアレになる。ではアレ」




