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井ぴエの毎日ショートショート  作者: 井ぴエetc


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713/1196

第713話 のぞき魔

 ちぇっ、と心のなかに嫌な気分がじんわりと広がっていく。

 私の素敵なおうち。

 海の底にあるおうち。

 そこから水面みなもを見上げると、あいつがいた。

 のぞき魔だ。いやんなっちゃう。

 大空洞におさまった刺激的な海。壺の形にふくらんで、海底は丸みをびている。底は横穴に伸びて、上に曲がり、また下がる。海底洞窟。そこが私のおうち。

 あいつはぴかぴかと瞳を輝かせ、ぐねんぐねんと左右を見回し、なにかを探しまわっている。そうして、海中にある大空洞の壁面を丹念たんねんに眺めると、私のすんでいる狭く細い洞窟の近くにまで、ぐぐぐっ、と伸びてきた。入り口がぎらぎらと照らされる。しばらくのあいだ、こちらをのぞき込んでいたが、逆移動をしてするすると戻っていった。

 帰ってくれたようだ。

 けれど、きっとまたやってくる。

 何度も何度も、あいつはしつこくあらわれるのだ。

 あいつがはじめて姿を見せたのは、刺激的な海で満たされた大空洞の壁面に穴があいたときだった。白っぽく変色した部分がぼろぼろになって、クレーターみたいに壊れた。その頃から私は嫌な予感がしていた。不吉なことが起きるとおもった。天変地異の前触れだ。

 いろんなものが海には投棄とうきされる。ふっくらしたものだとか、ほそながいものだとか、つぶつぶしたものだとか。それらは、みずみずしかったり、ぱさぱさだったり、あぶらぎっていたりする。

 海でも浄化しきれなかった投棄物が、きっと毒を出したのだ。波は大荒れ。異常気象。それが壁面の穴の原因となった。そして、のぞき魔がやってきた。

 はじめてのぞき魔を見たわたしはびっくり仰天。びっくりしすぎて、体がちぎれるところだった。一体何者なのだろうか。正体はいまだにわからない。わかっているのは、いやらしい目つきをしたやつだということだけ。

 のぞき魔がやってきてから、海にさらさらしたものがそそがれるようになった。あいつの手引きなのだろうか。

 繰り返し。繰り返し。

 縦になり、横になるたびに。

 波は徐々に低くなり、鳴動めいどうはゆるやかに。

 のぞき魔は海の平穏へいおんを取り戻そうとしているのかもしれない。

 けれど、あいつがのぞき魔であることは変わらない。

 許可なく私のおうちをじろじろと。いやらしいったらありゃしない。

 縦になったり、横になったり、形を変える刺激的な海を眺めていると、大空洞の壁面にあった穴がいつの間にか修復されていた。

 なにもかもが元通りになった。

 元通り以上だった。

 海底洞窟に流れ込んだ投棄物の残りカスたちが、なめらかに通り抜けていく。

 のぞき魔は相変わらずやってきた。

 とても長い期間をおいて、一定の間隔で。

 付き合いが長くなると、のぞかれるのにもちょっぴり慣れてしまった。

 慣れたくもないけど。

 水面をあおいであいつをにらみ返す。

 嫌な奴。嫌な奴。

 あっ。

 目が合った。


「どうでしたか?」

 苦しそうな声。せきこんで、口元をぬぐう。

「ちょっと。いいですか」

 医者がモニターを指差す。

「ほらここ」

「はあ」患者は眼鏡のふちを持ちあげながら「なんですかね」

「サナダムシですね」

 胃カメラを片付けながら医者が言うと、患者はギョッとして、

「えっ! そんな……、胃潰瘍いかいようが治ったばっかりなのに」

 がっくりとうなだれる。

「大丈夫ですよ。任せてください」

 医者はにっこりと笑って薬を探す。

駆虫薬くちゅうやくで追い出しちゃいましょう。まったく、人体に対する不法滞在ですよ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] のぞき魔VS不法侵入  サナダムシに勝ち目はないが、もしサナダムシがレーザービームとか出せたら人間がサナダムシにヘコヘコして機嫌とってそう。なんせ機嫌損ねたら胃に穴が空くし
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