第62話 イカタコ星人
遠い宇宙の海を越えて、太陽風の波に乗って、イカタコ星人たちはやって来た。この惑星にすまう自分たちそっくりな生き物たちと友好関係をきずく為に。
イカタコ星人は四角形の頭に九本足。しかし、その惑星には三角頭の十本足と丸頭の八本足がいた。どちらもイカタコ星人に似てはいるが、少しずつ違っている。しかもその生き物たちは十本足と八本足の勢力に別れて争っていたのだった。
どちらの陣営に行ってもイカタコ星人は敵として排斥された。武力を行使して制圧することは簡単だったが、できれば平和的に解決したいとイカタコ星人たちは思っていた。
争いの原因を調べると、十本足は足が多い分自分たちの方が優れていると主張し、相手は隷属すべきだとしていた。一方八本足はといえば、足の少なさは洗練された進化の結果であり、相手を原始的で野蛮なものだと決めつけていた。
イカタコ星人は何とか争いを治めようと考えて、十本足たちの足を一本ずつちぎると、八本足たちにくっつけた。みんなが九本足のお揃いの姿になれば争いも止まるだろうと考えたのだった。
しかし、そううまくはいかなかった。両陣営は大混乱になり、敵と味方を何とか判別しようとして疑心暗鬼が広がっていった。ところかまわず墨が噴射されて、辺りは暗雲に覆われたように闇に沈んでしまった。
イカタコ星人たちはすっかり困ってしまい、墨の中をかき分けると、足をちぎってはくっつけ、くっつけてはちぎった。
やがて八本足と十本足の生き物たちの数は以前と同じ割合に戻った。混乱も静まり、争いは睨み合いが続く膠着状態へと移行していった。
イカタコ星人はほっと一息ついたが、とんでもないことに気がついた。イカタコ星人たちの数名が行方不明になっていたのだ。どさくさに紛れて八本足や十本足になってしまい、それぞれの集団に混ざってしまったようであった。
海は広く、はぐれた仲間を見つけ出すのは困難だった。だがイカタコ星人は決して諦めなかった。仲間に対する情愛が何より深い種族なのだ。この惑星にすみついて辛抱強く捜索する道を選んだのだった。
漁船がイカやタコを釣り上げていた。甲板にあげられた十本足と八本足の生き物を見て、子供たちがはしゃいでいる。宇宙人みたいだねと冗談を言って、子供たちの父親は笑った。
釣り上げられたイカやタコは今にも鉄板で焼かれそうになり、苦しそうに身をよじっていた。頭が四角張っているそれが本当にイカやタコなのか疑問に思う者はいなかった。
イカタコ星人たちは仲間を決して見捨てない。仲間に危害が及んだと知れば宇宙船に搭載された強力な兵器群を使っての報復もやむなしと考えている。特に、自分たちの姿と似ても似つかない二本足の生き物になどには一片の同情すらないに違いなかった。