第61話 透明人間
研究所に入り込んだ泥棒が、博士に向かって銃を突きつけた。
「おい。ここで透明人間になれる薬が完成したというのは本当だろうな」
助手たちは散々痛めつけられて気絶しており、銃を手に凄んでくる泥棒に博士は縮み上がった。
「ああ、本当だ」
「じゃあ、今すぐその薬を出せ」
博士は恐怖しながら、震える手で薬を取り出して泥棒に渡した。
その時、誰かが通報していたらしく、大量の警官たちがなだれ込んできた。泥棒はとっさに机の陰に身を隠したが、捕まるのは時間の問題だった。
泥棒は手に持った薬を見て少し思い悩んだが、意を決してそれを飲み干したのだった。
「どこへ行った。見つからないぞ」
警官たちが口々に言って、首をひねった。そのうち一人が博士に近付き、
「博士、無事でしたか」
と、気遣いながら博士を助け起こすと、困った顔をして辺りを見回した。
「犯人は一体どこへ?」
「薬を飲んで透明人間になってしまったのです」
警官はぎくりとして鋭い目付きで視線を走らせたが、透明な相手を見つける事はできなかった。
「どうにか見つける方法はないんですか」
警官の緊迫ぶりに対して、博士はいささか能天気と言えるほどに落ち着いており、椅子に腰を下ろすとほっと息を吐いた。
「あの完成品は、効果が強力すぎるが故に光だけでなくあらゆる物質を通過する能力をも有してしまうのです」
それを聞いた警官は、
「それじゃあ、壁をすり抜けて逃げてしまったということですか」
と、聞きながら驚愕と絶望で顔を染めたが、博士は小さな笑みを浮かべて窓の外に広がる空を見上げた。
「心配いりませんよ。この地面も、地球をもすり抜けて、今頃宇宙のどこかを漂っているでしょうから。誰も試したがらないような代物だったので、貴重な実験結果が得られて助かりました」




