第603話 あの子に会いたい by.カッコウ
「さあ本日もはじまりました。感動のリアルドキュメンタリー番組”あの子に会いたい”。お送りするのはわたくしカッコウカコ郎、と」
「はい。わたしカッコウカコ美になります」
司会者とアシスタントの快活なあいさつと共に大人気番組がスタートした。
「よろしくお願いします。カコ美さん。今日はどんな感動のご対面が待っているのか楽しみですね」
「そうですねカコ郎さん。想像するだけで、もう涙がでてきそうですよ」
「いやいや、それはちょっとはやすぎですよ」
「ははは。そうですね。はたして番組に応募されたお母さんのお子さんが見つかるのか。ドキドキです」
「本番組はリアルなドキュメンタリー番組ですから、探した末に見つからなかったということもありえます。けれどそんなことは過去に数回のみ。敏腕の探偵をとりそろえていますからね」
「鵜の目鷹の目で全国津々浦々、渡り鳥の一匹も逃しませんからね。番組をごらんくださっているみなさんも、よそ見厳禁ですよ」
アシスタントの軽妙な語りに、スタジオにどっと笑いが溢れた。さざめきのような声がおさまるのを待ってから、司会者が段取りよく進行していく。
「それではお待たせしました。本日の依頼者にさっそくご登場いただきましょう」
垂れ幕の裏から依頼者の登場。アシスタントによる簡単な紹介。いつもと変わらぬお決まりの文句。子供と生き別れてしまった。なんとかしてひと目会うことはできないかという内容だ。
母親は涙ながらにうったえる。
「あの子を他にあずけたのが間違いだったんです。あのときはそれでいいと思いました。そうするしかなかったんです。我が子のためを考えれば、モズ代さんにあずけるのが一番だと。モズ代さんの子供にかわって、我が子をおいてきたんです」
「そのモズ代さんとは連絡をとられたんですか?」
司会者がたずねると、母親はおおきくかぶりをふった。
「そんな。まさか。できませんよ。それにあの方は最低の母親です。私の子を追い出したんですからね」
「ひどいですね」
アシスタントがおおげさに眉をひそめる。
「それですっかり消息がわからなくなってしまって。この番組に応募させていただいたんです」
「なるほど」司会者がうなずいて、視聴者たちにむきなおった。
「番組をごらんの皆さん。我々番組スタッフは全力をあげてこのお母さんのお子さんを探しました。その結果は……CMのあとで!」
思わせぶりな目配せで画面が切り替わると、雑然とした宣伝の数々がたれ流される。羽毛の艶がよくなるクリーム。ひとくちついばむのに手頃なサイズのお菓子。夜目疲れ目に効果のある目薬などなど。
CMがあけると、厳粛な空気のスタジオが映し出される。スタッフが裏でばたばたと動いているような気配。司会者は画面の外に一瞬目をやって、すぐにカメラに視線をむけると、
「お待たせしました。では結果をお知らせしましょう」
垂れ幕が指し示される。そこにはほんのりとだれかの影が透けて見えているようにも思える。期待感が高まっていく。
母親は祈るような態度で、我が子が待っているかもしれない垂れ幕を食い入るように見つめている。
「お母さん。いまのお気持ちは」
司会者のじらしに、母親はくちをとがらせて、
「はやくあの子に会いたいです。もう心臓が持ちません。おねがいします」
と、なきそうな声でせかす。
「そうですよね」
あまり感情のこもっていない同情をしながら、アシスタントが母親をなだめて、
「いいですか。いいですね」
と、もったいぶりながら、
「いきますよ。では、ご登場いただきましょう!」
高らかな声とともに、ばっ、と幕があけられた。
そこに立っていたのはまさしく探していた息子。ひと目でわかるような面影がある。
「ああっ!」
「母さん!」
お互いに言葉をなくしてひっしと抱き合う。
嗚咽がスタジオに響き渡り、司会者やアシスタントも涙をぬぐうようなしぐさをした。
感情の高まりがピークをこえて、徐々に落ち着いてくると、司会者が息子に声をかける。
「いやあ。息子さん。お母さんに会えてよかったですね」
「ええ。このたびは本当にありがとうございました。これまで希望を捨てずに生きてきて、やっと報われたような気分です」
「大変でしたか。その、モズ代さんのところでの生活は」
「大変なんてものではありません。やはりぼくひとりだけが異分子なのでね。自分の居場所を確保するのに必死でした。他のきょうだいたちを蹴り落とさなければ生きられませんでした。けれど、モズ代母さん。いや、モズ代さんには目の仇にされてしまってね。ずいぶんいじめられましたよ。ただ、ぼくは負けませんでした。運命に立ち向かって、きょうだいたちから食べ物をうばいとって、なんとかここまで立派に成長することができたんです」
母親がわっと泣きながら、息子にすがりついた。
「ごめんなさい。ごめんなさいね。母さんが悪かったの」
「母さんは悪くないよ。なにも悪くない。モズ代さんだって。ぼくだってね。運命がこうなるように仕組まれていたんだ。いま、またこうして巡り合えたのだから、それでいいじゃないか」
「なんて感動的なんでしょうか」
アシスタントが声をふるわせながら、視聴者たちに同意を求める。
「まったくです。番組史上、これほどかたい絆で結ばれた親子がいたでしょうか」
司会者は拍手喝采。スタジオのスタッフたちも雰囲気の盛り上げに加わった。
感動の余韻にひたる親子の顔がドアップで映されて、それがゆっくりとフェードアウト。司会者の方へとカメラが寄っていって、次回についてひとことふたこと告知がなされると、そこで番組は終了。
「このあとは”早煮え厳禁! 料理研究家モズ道の簡単クッキング”のお時間になります。そちらも引き続きお楽しみください」




