表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
井ぴエの毎日ショートショート  作者: 井ぴエetc


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

589/1207

第589話 不規則な飛行物体

「UFOだ!」

 だれかが叫んで空を指差した。

 人々の視線が望遠鏡になって、一斉に空の一角へと向けられる。

 暗く、のっぺりとした夜にちりばめられた星々に混ざって、ちかちかと明滅しながら移動する光があった。ちいさな光の粒にすぎないが、星よりもずっと大きい。

 ひゅー、と右に移動していたと思えば、急カーブして左へ。ふらふらと波を描いて、今度は上昇。そして下降。また上昇。

「あの動きはたしかにUFOに違いない」

 だれかが自信ありげに断言してうなずいた。

 上空の飛行物体となるとまず飛行機と考えるのが普通だが、飛行機にあそこまで急激な方向転換はできない。地球にはない優れた技術を彷彿ほうふつとさせる機敏な動き。

 写真を撮影したり、動画を録画するべく、いくつものレンズがかかげられる。

「UFOはなにをしているんだろう」

 子供が言った。するととなりの大人が、

「ああやって地球人を監視しているのさ」

「かんし?」

「そうだ。文明の発展具合だとか、地球人がなにか宇宙にたいして悪いことをしでかさないか、見張ってるんだな」

 耳をかたむけていた子供はぽかんと口を開けたまま、不規則にゆれ動く流れ星のようなUFOをながめた。

「降りてくるぞ!」

 悲鳴。光が近づいてくる。人々は蜘蛛の子をちらすように方々へと走りだす。

「はやく逃げないと」

 肩がぶつかりあう。転んで落っこちたカメラが踏みつけられる。怒号。混乱。

 子供が引っ張られていく。

「逃げないとどうなるの?」

「つかまっちまうんだよ。アブダクションか、キャトルミューティレーションされちまう」

 音もなく地上に一時接近したUFOは、ビルの屋上をかすめると、すぐに上昇していった。円盤型の飛行物体。接合部のひとつも見あたらない滑らかな表面。

「なんだったんだ」

威嚇いかく行動だろう。それにしてもすごい。まさしく驚異の技術。空を自由自在に飛んでいる」

 恐怖を通り越して、感心する人も現れる。それに同調するように、ほう、とか、はあ、とかいう感嘆かんたんの声があふれた。

 そうして宇宙人というものは、なにかとんでもない力を持った地球人よりも優れた存在として、人々の意識に刻まれた。

 UFOが空の一角に静止した。注目が集まる。次はどんな動きを見せるのか。そんな期待混じりの視線を一身に受けていたUFOは、ややあって、ふっ、と消えてしまった。

 落胆らくたんとも安堵あんどともしれない息がこぼれてあふれる。

 舞台の幕がさっと下ろされたかのように、平穏へいおんで静かな夜が戻ってきた。

 それでもまだしばらく真っ暗な夜空のスクリーンをながめていたものもいたが、ひとり、またひとりと日常へと戻っていった。


 地球の上空。高高度。

 宇宙船のなかでは宇宙人が水をがぶがぶと飲んでいた。

「あぁ。やっと酔いがめてきた」

 ぶるる、とみぶるいすると、さきほど切られたばかりの違反切符に目を通す。

 ステルス状態の宇宙交通警察の宇宙船に見とがめられて、呼び止められたのだ。

 飲酒運転。地表スレスレを飛ぶ危険行為。ステルス装置未使用飛行。

 まったく肝が冷えた。いい気分が台無しだ。

「さっさと帰ろう」

 大きな溜息。酔っぱらってたまたま訪れただけの名も知らない星を離れていく。遠ざかっていく青い星には目もくれず、宇宙人は眠たげに目をこすった。

「酒はほどほどにせにゃならんなあ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ