第55話 二匹の悪魔
「私を呼び出した人間よ。ひとつだけ願いを叶えてやろう。ただし願いが叶ったあかつきにはお前の魂を頂くぞ」
二匹の悪魔が同時に言ってから、互いの存在に気がついて顔を見合わせた。悪魔たちの前には彼らを呼び出した男がおり、腰を低くしてその様子を見つめていた。
男はにやにやと口元を歪めながら手をすり合わせて、
「いやあ。どうもどうも。悪魔様方。わたくしめの願いをぜひとも叶えてくださいませ」
と、猫なで声で言った。悪魔たちはあっさりと、
「いいだろう」
と、同時に答えて男が願いを告げるのを待った。
「へっへっへ。お二方とも、わたくしにもう一方の悪魔様よりも大きな富を与えてくださいませんか」
男は狡賢い目を光らせた。悪魔であれば無尽蔵の富を与えることが可能に違いないと男は考えており、それは正しかった。つまりこれは決着のつかない勝負になり、永遠に富が与えられ続けるばかりか、勝敗がなければ願いが叶ったとは言えず魂を持っていかれることもないはずだった。
「その願い叶えよう」
悪魔たちは言って何やら呪文を唱え始めた。自身の策があっさりとうまくいきそうなので、男は心の中でほくそ笑んで期待に胸を躍らせた。
一方の悪魔は部屋の天井まで届くかというぐらいに札束を積み上げた。もう一方の悪魔はきらきらと輝く握りこぶし程のダイヤモンドを差し出した。
札束の山は見るからにダイヤモンドより大きく、ダイヤモンドの価値は札束の山よりも大きかった。
「では魂を頂くぞ」
男は慌てて逃げようとしたが、瞬く間に魂を真っ二つに引き裂かれた。悪魔たちは高笑いしながら、半分になった魂をごくりと呑み込んだのだった。