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第462話 守護霊

「どうもなにかにかれているような気がしてならない」

 裏社会のボスがでっぷりとした体を柔らかいソファに沈み込ませて、横柄な態度で言った。

「ほほう。では、さっそくみてみましょう」

 祈祷師きとうし玉串たまぐしを天にかかげ、えいやっ、と気合を込める。さかきの香りがぷんとあたりに漂って、部屋は一瞬で厳粛げんしゅくな空気に満たされた。

 ボスの話ではすこし前から自身の周囲で不審死が相次いでいるらしい。とはいえ死んだのはいずれも商売敵や、自分にとっては邪魔な警察組織の面々。痛くもかゆくもない。のだが、気味の悪いことには変わりはなかった。いつ自分の身にもなにか起こるかもしれぬと思うと、気が気ではない。原因を調べても判然とせず、いよいよ霊的なものではないかと考えて、祈祷師に依頼したということであった。

「うむむむむ」

 けわしい顔でうなる祈祷師に「どうだ」と、ボスが傷痕きずあとが刻まれたすごみのある顔を近づけて、低い声でたずねる。

「ちょっと、いま集中しているところなので、お静かにお願いします」

「しかし、聞かなきゃなにも分からんだろうが。こっちは高い金を払ってるんだ。ごちゃごちゃ言わずにさっさとやれ」

 横暴な態度。祈祷師は顔をしかめて、ほんのすこし口をとがらせたが、すぐに祈祷に没頭ぼっとうする。トランス状態というやつになってがくがくと体をゆすると、かっ、と瞳を見開いて、ボスにとり憑くものの正体を見定めた。

 その瞬間、

「わあっ」

 と、思わず尻もち。

 見えたのは大量の霊。おそろしいほどの数の幽霊がボスに憑りつき、その塊が積乱雲のようにふくれあがっていた。

 祈祷師はおののきながら、おぞましい姿をしたどす黒い霊たちを見上げる、長らくフリーの祈祷師として数多の霊媒れいばい案件をけ負ってきたが、そんな自分がこれまでに見たこともないような大悪霊。悪霊と悪霊が結びつき、強大なパワーとなっている。とてもじゃないが、こんなものをはらうことなどできなかった。

「どうなんだ」

 ボスが鼻を鳴らす。威圧感のある嫌な態度。普段からもそうなのだろう。悪霊を呼び寄せやすい人柄。類は友を呼ぶ、というように、悪い人間には悪い霊が引きつけられるものなのだ。

「そのう」祈祷師は言いずらそうにしながらも、「かなり重症ですね」と、医者のような言葉をもらした。その言葉にすこし不安になったのか、「何とかしてくれ。金なら払う」と、懐から札束が取り出されて、ばさり、と祈祷師の前に積まれる。

 金の問題ではない。どうやったって祈祷師の手には負えない事態。しかし、このまま放っておけば依頼人の命に関わるのは明白。取り殺されるのは時間の問題。いけ好かない依頼人とはいえ、尽力しないのはポリシーに反する。

「やれるだけのことはやってみましょう」

 祈祷師はそう答えて、玉串を激しく振り回した。

「はらいたまえ、きよめたまえ……」

 祝詞のりとを唱えてみるがまったくの効果なし。全身をびっしょりと汗がおおう。

 しばらくして祈祷師は、はらうのは無理だと判断し、交渉できないかと悪霊に話しかけてみることにした。

 ――祈りに応えたまえ。

 呼びかける。すると、

『なんだ』

 と、悪霊のひとりが返してきた。

『この方にとりつくのをやめてください。どうか安らかに成仏してはもらえませんか』

 ぎゅっとまぶたを閉じて念じる。

『そういうわけにはいかん』悪霊は言って『守護の仕事をまっとうしなければならんのだからな』と予想外の答えを返してきた。

『守護? では、あなた様方は守護霊なので?』

 祈祷師がたずねると『そうだ』『そうだ』と霊たちから肯定の念が返ってきた。

 そうなると話は変わってくる。依頼人の周囲で死が多発していたのは、死んだ人物に依頼人が危害を加えられそうになっており、それを阻止するため守護霊が働いた、と、そういうことだったらしい。

 悪霊でないことが分かって、肩の力が抜けつつも、祈祷師は持ち前のお節介な性格から、不審な死を蔓延まんえんさせる暴力的な働きについては、なんとかやめさせられないものかと考えた。

『守護霊様。差し出口かもしれませんが、あまり手荒なことはおやめください。人の命は尊いもの。あなた様方もかつては生者であらせられたでしょう。命を奪う以外の方法で、この方を守ってはくださいませんか』

 そううったえかけると、守護霊たちは、はっはっは、と笑いだした。

『なにか勘違いしておるようだな』

 守護霊のリーダーと思われる大柄な霊が前に出てきて、依頼人には見えない霊の指先で、その顔を押さえつけるように示した。

『このような奴を守るわけがなかろう』

『へっ?』と、祈祷師は困惑して、『では、なぜ?』と、首をひねる。

『我らが守護するは霊界。こやつが死ねば、こやつの魂が霊界に来ることになる。このようなにごった魂がこられても困るので、できるだけ長生きして、来るのを先送りにしようというわけだ。逆に良い魂はすぐに霊界に来させることにしている』

 霊界の守護霊たちはそれから祈祷師をねめつけて、何度かうなずくと、こう言った。

『……ふむ。お主もなかなかいい魂をしておるな。どれ、ここで会ったのもなにかのえんだ。霊界に連れていってやろうではないか』

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最低だこの霊。せめて冥界がいいとこでありますように。
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