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第38話 歓迎の食事

 俺は宇宙船の船長だ。今回の任務はある惑星の調査と資源調達だったが、いざ到着してみると想定外の事態になった。観測時点では荒廃していると思われていたその惑星には既に生命が息づいており、文明を築いていたのだ。

 俺たちは惑星に着陸し、彼らとの接触を図ることにした。町外れの空き地に宇宙船を降ろすと、たくさんの宇宙人が集まってきて、我々の宇宙船を興味深げに眺めていた。彼らの見た目は我々とそっくりで、惑星の大気の成分なども我々の惑星と類似しているようだった。

 万能翻訳機を準備して外に出ると、彼らの代表と思われる宇宙人が前に進み出た。俺は相手を刺激しないように、できるだけ丁寧に話しかけた。

「我々はここから遥か遠くにある別の星からやってきました。敵意はありません。あなた方と友好的な関係を結びたいのです」

「なるほど、そうですか。私はこの町の町長を務めている者です。空からこのようなものが降ってくるなど思いもよらぬことでして、町の者もこんなにも集まってしまっているのです。ご無礼に当たらなければよいのですが」

 辺りを見ると、街の者たちは好奇を瞳の中いっぱいに湛え、今にも宇宙船に飛び掛かって触れてみたいというようにうずうずとしている様子であった。

「構いませんよ。色々と不審に思われることもあるでしょうから、少人数であれば中の様子などを見学して頂いても結構です。こちらでご案内します。ただ、お互いの安全の為に少し身体検査はさせて頂きます」

 宇宙船の浅い層を見せるのは一向に構わない。それで相手の警戒心を和らげることができるとすれば安いものだ。しかも検査と称して宇宙人の体を解析することもできる。

「それは素晴らしいですね。ご厚意をありがたく頂戴致します。よろしければ皆さんを私の家にご招待したいのですがどうでしょうか。食卓を囲いながらお互いのことを語り合いましょう」

 俺はその提案を受けることにした。友好を築く為でもあるし、この惑星の文明を一刻も早く把握したかったからでもある。数名の部下を連れて案内されるままに移動する。ついでに町中を見学させてもらったが、科学技術についてはあまり発展していないようだった。建物は全て木造で、調度品は陶器や石造りのものばかりだ。金属を加工する技術がまだないのかもしれなかった。

「皆があなたたちを童話の住人のようだと言っていますよ」

 道すがら町長が童話をひとつ教えてくれたが、それは我々がよく知っている”ヘンゼルとグレーテル”という童話と似通っていた。お菓子の家と魔法使い、我々は懐かしさで胸が温かくなり、姿形だけでなく文化にも似たものを持つ彼らに強い親近感を覚えたのだった。

 そうしているうちにも我々は町長の家に到着した。

「歓迎の準備を致しますので、皆さんどうぞお席に」

 促されて木製の立派な椅子に座ると、木目の美しい大きなテーブルに金、銀、鉄製の皿が並べられた。皿にはわずかな肉がちょこんと盛り付けられ、可憐な花がそっと添えられた。

 俺はこの惑星の文明について思考を巡らせた。どうやら金属を加工する技術はあるらしいが、町の様子を見る限り、非常に希少なものなのかもしれなかった。しかしそうなると我々が求めている資源調達に影が差すことになる。思わしくない結果を想像して、俺は内心で少しがっかりした。

 見た目は牛肉にスミレといった風であったが、さすがに異星の食べ物なので用心が必要だ。念の為に成分分析をさせてもらいたいと申し出ると、快く了承された。装置を食べ物に向けてスイッチを押す。有毒な成分は検出されなかったが、花から少量ながら未知の成分が感知された。

「この飾り…も食べられるのでしょうか」

 俺が花を指差して質問すると、町長は軽く手を振って笑った。

「いえいえ、ただの彩りですから食べる時には横にどけてください。私どもも食べません」

「そうですか。分かりました」

「こんな少量で申し訳ありません。今は食料が手に入り難く、皆腹を空かせている状況なのです。せめてお口に合うといいのですが」

 それを聞いて肉のあまりの小ささにも合点がいった。部下に絶対に残さず思い切って食べろ、と目配せで合図する。こんなことで関係に亀裂が入るようなことがあってはならない。

「それでは友好を祈願して頂きましょう」

 そう言うと町長はおもむろに皿の上の肉と花を脇にどけると、金属の皿をばりばりと食べ始めた。俺と部下たちが唖然とする中、通信機が鳴り響いて慌てた声が聞こえてきた。

「船長、奴ら宇宙船をかじってます! このままでは全部食べられてしまいますよ!」

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