第351話 生命探求
地球外生命体は存在するのか。
そんな未知へのロマンを携えた無人探査機が次々に地球から飛び立った。
生命の発生において、とりわけ重要な要素が水。水が存在する星は、広大な宇宙のなかで、いくつも見つかっていた。
そんな星のひとつ。最も有力な惑星に無人探査機たちが集中して送られた。
その星は常に水蒸気で覆われていた。無人探査機は濃霧で煙る星の上空を飛んで、高性能カメラを駆使して生命を探し回った。霧の向こう側には果てのない海が広がっていた。ずっとずっと海上を観察すると、ぽつりぽつりと尖った山の先端が見える。陸地と言えるのはそれぐらいしかなかった。
地球ではいよいよ異星の生命発見の時が近づいていると各メディアが煽り立て、更なる調査を進めるべく、追加の無人探査機が送られた。数々の探査機が惑星の外周を飛び回る。しかし、執念深い調査が報われることもなく、生命の痕跡は見つからなかった。
一度、海に入って調査すべきだという意見はあったが、それは困難だった。着水してしまうと、海面の無人探査機は技術的な問題により軌道上に戻ることができない。どこかに着陸して、海岸からであれば調査も可能だったが、陸地は鋭い切っ先を持つ山の先端だけなので、不安定過ぎて着陸は不可能。空中に静止して、そこから調査用のアームを伸ばすという方法もあったが、海は惑星の重力場の影響で常に荒れ狂っていた。高い波を浴びながら姿勢制御できるような技術はない。
様々な案が検討され、調査を進める方法が検討されたが、結局は一番単純な手段がとられることになった。それは、無人探査機の回収を放棄すること。海に落とし、そこで得た情報は通信によって上空を飛ぶ別の無人探査機に送られる。そこからリレー方式で地球に情報を持ち帰るのだ。
一台目の無人探査機が海に落とされた。しかしその調査結果は芳しくないものであった。すぐに二台目の無人探査機が落とされ、三、四、と星の海のあちこちに散りばめられていった。
努力むなしく、生命は見つからなかった。海の成分を分析した結果では、生命誕生の条件は揃っており、必ず生命がいるはずだと研究者たちは信じて疑わなかった。
人々は取りつかれたように調査をし続けた。
絶対にこの星に生命がいるはずであり、それを見つけるのだと意気込んだ。
長い、長い、年月が経った。
ついに待望であった生命発見の時。
地球では歓喜の嵐。
やはり、生命はいた。諦めずに探し続けてよかった。誰もがそう思った。
それは原始的な生命だった。ケイ素を主体にした生物。
人々は不思議な異星生命体に魅了され、その生態の解明に向けて、さらに多くの無人探査機が送られた。
地球の人々が送り込んだ大量の無人探査機が、その惑星の海の底には沈んでいた。
地球に情報を送信し続けていたその無人探査機たちは長年、海水にさらされた結果、表面が劣化し、朽ち果てようとしていた。
無人探査機の主な素材はケイ素繊維。
それがが海に溶けだして、ゆっくり、ゆっくりと、命を育んでいた。




