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井ぴエの毎日ショートショート  作者: 井ぴエetc


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333/1178

第333話 五十音刑事

 ”あ”は刑事。容疑者を捜索そうさく中。しかし、どこを見渡しても、その痕跡こんせきすら見つからなかった。

「どこに逃げたのでしょうか」

 相棒の若い刑事が空をそらめて途方とほうれる。

地道じみちに行くしかないな」

 そう言いながら、刑事は歩き出した。

 町には文字たちが行きっているが、目当ての者の姿はない。一体どこに隠れたのだ、と”あ”はするど眼差まなざしを走らせる。

 きりのようにけぶった町のよどんだ空気をかき混ぜながら車が走り去っていく。アスファルトをつらいて伸びる生命力にあふれた雑草たちが、足元でカサコソと音を立てた。

 角ばった奴、丸い奴、複雑に曲がりくねった奴。とめ、はね、はらい、が視界しかいおどる。奴は目立つ。身をかくすのはそう容易たやすくなさそうであったが、今はじっと息をひそめて、刑事たちの捜査網そうさもうをかいくぐっていた。

 捜索が開始されてから、かなりの文字数が経過けいかしているものの、新たな手掛かりは見つからない。

 こうなっては、と刑事は思い切った手を使うことにした。

「おい! 聞いてるだろ! もう逃げられはしないぞ!」

 町中で刑事が叫ぶ。影の奥で何かがうごめく気配がした。やはり近くいるのだ。刑事と容疑者は分かちがたい者たち。

「大人しく姿を現せ! お前はいつも誰かの後ろに隠れるしか能がない奴だ! 一度ぐらい、前に立って見ればどうだ!」

 容疑者は刑事の元相棒。だからどうしてもみずからの手で捕まえないと気が済まなかった。刑事は走り出した。おのれの行く末に、容疑者が待っていることを知っていたのだ。

 全ては己で始まり、相手で終わる。

 いくつもの町角を曲がった。括弧かっこの扉をくぐり、句読くとうの邪魔を乗り越えて、ルビのひとつも見逃さず、中黒たちの雑踏をかきわけ、雨だれ、耳だれの森を抜けた。

 そうしてついに、

「見つけたぞ!」

 刑事がえた。さがし求めた姿が立ちはだかる。二人は激しい感情をつのらせて、お互いの名を喉の奥からほとばしらせる。

!」

うん!」

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