第32話 こぶとりゾウさん
砂漠にほど近い草原で、ゾウが大樹に頭をぶつけました。額がぷくりと膨れ上がり、大きなこぶができました。そこに通りかかったラクダがそのこぶを見て言いました。
「ゾウさん。ゾウさん。そのこぶ私にくださいな。代わりにとってもいいことを教えてあげますよ」
「おお。それは助かる。ぜひお願いするよ」
ラクダはゾウのこぶをとって自分の背中にぺたりとくっつけました。ラクダのこぶはふたつになって、ゾウのこぶはきれいさっぱりなくなりました。そしてラクダは砂漠にあるという素晴らしいオアシスの場所を教えてくれたのです。
「ありがとう。そのオアシスに行ってみるよ」
ゾウはお礼を言って、砂漠の中へと足を踏み入れました。
その話を聞いた別のゾウが自分もオアシスに行ってみたいと思い、こぶを作って砂漠の近くへとやってきました。するとラクダが現れて、話の通りにこぶをとってくれました。ラクダは鼻がにょろりと伸びて、こぶの数が合っていませんでしたが、オアシスのことで頭がいっぱいのゾウは気がつきませんでした。
ゾウが砂漠を渡ります。
どこまでいっても砂、砂、砂。オアシスなんて見つかりません。
やがてゾウは疲れ果て、力尽きようとしていました。そんな時です。あのラクダがゾウの傍へとやってきました。
「やあゾウさん。今にも倒れてしまいそうだね。よかったら私のこぶをあげよう。これがあれば、砂漠の外まで歩いていけるよ」
ラクダのこぶには栄養がいっぱいつまっているのです。確かにこぶをもらえれば、ゾウは砂漠を脱出することができそうでした。ゾウがその申し出を受けようと身を乗り出すと、ラクダは大げさに身を引いて下卑た笑いを浮かべました。
「おっと、待った。タダじゃあないよ。こぶひとつと君の耳を交換さ。ふたつで両耳をもらうよ」
ラクダは自分の背中についたふたつのこぶを長い鼻で指し示しながら言いました。ゾウは騙されていたことに気がつきましたが、怒ろうにももはやその気力はありません。ラクダの提案に乗るほかに生きる道はないのです。
両耳を渡して、ふたつのこぶを受け取ります。その栄養で何とか体力を回復して歩き出した時にはもうラクダはどこかへと逃げ去っていました。
ラクダは意気揚々と草原を歩いていました。
長い鼻と大きな耳。こぶはありません。もう気分はゾウです。
次は牙でももらおうかと考えていると、突然銃声が鳴り響きました。銃弾がこぶのない薄い背中を貫きます。
密猟者です。倒れたラクダに駆け寄って、舌打ちをしました。
「なんだこいつ。やせっぽちのゾウめ。象牙も生えていやがらねえ」
ラクダは流れ出す血を眺めながら思いました。
――ああ。長い鼻や大きな耳なんていらない。こぶがあれば助かったかもしれないのに。