第306話 。
。不可思議な物体。我々の身近にあるこの。の正体を解明できたものはいない。丸? 玉? 球? いずれでもない。ただいくつも存在していることだけは確かだ。そしてこのように我々の行く手を阻み歩みを止めようとしているのだ。このっ! と蹴りつけてみると遠く遠くへと飛んでいく。しかしほら。すぐに現れる。蹴つまづかせようとでもしているかのようだ。それっ! もう一度蹴る。今度はもっと強く。しかし同じ結果。むしろ増殖しているではないか。これでは本末転倒。だが安心して欲しい。ついに我々の待望とも言える装置を開発した。この煩わしい。を全て消し去る装置だ。このスイッチをぽちりと押せば立ちどころに。は全てなくなってしまう。どんなもんだと全世界に言ってやりたい。しかし言ってやるのは実行してからだ。いままでこの研究を進めるために様々な場所に支援を求めたが認められなかった。馬鹿な奴らだ。それをいま思い知らせてやる。こんなにも素晴らしい装置を作る礎になれなかったことを後悔させてやる。さあ押すぞ。スイッチに指先を。ゆっくりと力を込める。えいっ!
おおっ
すばらしい
なんと明瞭な世界なんだ
何にも煩わされることなく
どこまでも行ける
なんだ?
悲鳴が聞こえる
家の外だ
おや
おかしいな
足元が滑る
止まることができない
いてっ
扉にぶつかった
くそう
踏ん張れない
よし
やっと扉が開いた
あっ
人々がすごい勢いで転がり回っている
なんてことだ
あれは世界に必要なものだったとでも言うのだろうか
おっと
しまった
転んでしまった
止まれない
だれか
止めてくれ
助けてくれ!
だれか!
だれ
だ




