第263話 大いなる敵を求めて
俺は血気盛んな若者だった。猛者を求めて各地を放浪し、そうしている内に森の主の噂を耳にした。
森に面した平原にたくさんの力自慢が集まっていた。抜き身の刀を手に持った、いかにも喧嘩っ早そうな奴ら。その中心には白いひげを蓄えた選定者を名乗る老人がおり、選定者に選ばれた者だけが森の主に挑戦する権利を得られるのだという。審査を受けることについて不服を訴える者もいたが、そんな者たちは瞬く間に選定者に打ち据えられて倒れ伏した。凄まじい実力者。それを目にしてしまうと、口を閉ざさざるをえなかった。選定者は俺たちのなかから精鋭を選ぶという名目で、鍛錬を課してきた。
俺は厳しい訓練に耐え、刀の腕は自分でも信じられないぐらいにメキメキと上達した。そうして見事、討伐隊に選ばれることになったのだった。
選定者は討伐隊に乗馬を教え、全員の馬の扱いが達人級になった時、いよいよ森に攻め込むことになった。
森は暗く死角が多い。いつ、どこから襲われるかも分からない、鬱蒼とした植物の檻であった。
そんな森のなかを馬に乗って進んでいく。選定者から与えられた馬は立派な体躯と鍛え上げられた四肢を持っていた。器用に植物を避け、あるいは木っ端を散らしながら、俊敏に駆け抜けていく。
敵が現れた。これが森の主らしい。相手も馬に乗っている。俺は選定者仕込みの乗馬術で敵を翻弄し、一太刀でその首を刈り取ることに成功した。
首級をあげて、味方と合流すると、皆それぞれ敵の首を掲げている。森の主は複数いたのか。これはどうしたことかと思っていると、選定者が現れた。
選定者によると、森の主など存在せず、本当の敵は山の主なのだという。この森は山の主を倒す精鋭を選び出す為の選定場。そして選定者は山の主を討ち果たすべく、俺たちに訓練を課した。
銃だ。的を狙い、引き金を引く。そうして百発百中になるまで己を鍛え上げた。
全員が銃の達人となった時、いよいよ山に攻め込むことになった。
馬を駆り、山を登る。そうして、頂上付近までやって来た時、敵が現れた。山の主だ。
俺は電光の如く銃を構え、一発の銃弾を撃ち出した。その銃弾は敵の額の真ん中を貫き、一瞬で命を奪った。
首級を持って帰った俺だったが、味方の元にはまたも大量の首が並べられていた。
選定者が言う、これは空の主を倒せる者を選ぶ選定場だったのだと。
俺たちはまた訓練に明け暮れた。
空の主を討ち果たすのには戦闘機が必要だった。戦闘機を己の体の一部のように扱う技術を身に着け、機関銃の照準を正確に合わせる。
全員が歴戦の戦闘機乗りになった時、いよいよ空に攻め込むことになった。
空での戦いは熾烈を極めた。
別の山から飛んできた敵は、編隊を組んでやってきた。空の主たち。
俺たちもまた編隊を組み、常に有利な位置取りを崩さなかった。
そうして一機、また一機と敵の戦闘機を撃ち落としていき、遂に最後の敵を討ち滅ぼしたのだった。
地上に降り立った俺たちに、選定者が言った。これもまた、宇宙の主を倒す者を選ぶ選定所だったのだという。そして、宇宙の主を討つ為には、宇宙船の操縦に熟達する必要があった。
俺たちは宇宙に旅立った。宇宙船を駆り、その複雑な操縦と、数多ある機能の効果的な使い方を叩き込まれた。
そうして、全員が宇宙船の隅々までを自分の脳と一体化したかのように動かせるようになった時、いよいよ宇宙の彼方にある惑星へと攻め込むことになった。
惑星には無数の敵宇宙船が群れを成していた。宇宙の主たちだ。
俺たちは宇宙船の全装備を駆使して、敵を殲滅していった。
敵味方共に宇宙船に損傷を受けると、宇宙船を捨て、搭載されていた戦闘機で脱出する。そうして惑星表面近くに戦いの場は移った。俺もまた宇宙船から戦闘機に乗り換えて、惑星の空へと発進していった。
敵の戦闘機を次々に撃ち落とす。しかし、戦闘機もまた航行不能の事態に陥ってしまう。
それでもまだ俺は戦いを諦めなかった。戦闘機に共に乗っていた相棒、苦楽を共にしてきた愛馬を駆って惑星表面に降り立ち、戦場へと躍り出る。敵もまた同様に、不時着した戦闘機のコックピットから飛び出してきた。
手に馴染み切った銃を構え、敵を一体でも多く屠っていく。弾が尽きても、まだ刀がある。馬を失っても、まだ己の足がある。
戦い続けて、味方は全滅し、敵はただ一人になった。残された俺と、敵が睨み合う。勝負は一瞬。刀が閃き、俺は敵の首を落とした。そうして念願の勝利を手にしたのだった。
歓喜の雄叫びを上げる俺の前に、選定者が現れた。これこそが、次の選定者を選ぶための選定場だったのだという。
俺は選定者に選ばれたのだ。
選定者は時空移動装置を俺に装着させると、俺を過去へと送った。俺を送る刹那、選定者は敵を討ち果たす為に選定をしろと言い残した。
俺は平原にいた。長い修行と戦いの日々のなかで、俺はいつの間にか白いひげを蓄えた老人に成り果てていた。
森の主の噂を聞きつけた血気盛んな若者たちが続々と集まってくる。
俺は敵を倒す為、彼らを鍛え上げるのだ。




