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井ぴエの毎日ショートショート  作者: 井ぴエetc


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第235話 奇術師、魔術師、超能力者、宇宙人

 うらぶれた酒場の舞台の上で奇術師が見事な芸を披露ひろうしていた。大きなシルクハットをくるりと回すと、どこからかハトやウサギが出現する。お次はトランプを取り出して、客の一人に目をつぶった状態で一枚を引かせた。そして裏側に置かれたそのトランプの絵柄をズバリ言い当てた。客たちは酒臭い息を吐きながら喝采かっさいを送り、まばらな拍手が巻き起こった。

「本日は僕のマジックショーをお楽しみいただきありがとうございました」

 奇術師が舞台を下りて、楽屋に帰ろうとした時、突然、舞台に上がった者がいた。

「なんだ。そのぐらいのことなら、わしにはもっとすごいことができるぞ。こんなタネがある芸なんてつまらないだろう。本物の魔術ってやつを見せてやる」

 そう言ったのは魔術師だった。真っ黒なローブで全身を包んだあやしげな人物で、杖を一振りすると、空中に炎のかたまりが現れた。魔術師が杖を動かすと、それに合わせて炎は店のなかをおどる。

 客たちはおどろくやら、こわがるやらだったが、酔いが随分ずいぶんと回った者がほとんどだったので、どちらかというと好奇が勝って、やんややんやのお祭り騒ぎとなった。

 そんな、祭りの中心である舞台に、別の者が飛び込んでいった。

「俺からしたら、どちらも大差ないね。本当に素晴らしいのは超能力さ。とりゃ」

 超能力者が気合を入れると、店中の酒瓶さかびんが浮き上がった。

念動力ねんどうりょくってやつだ。他にも透視とうし、テレパシー、パイロキネシス、なんでもできるぞ」

「ふんっ、なんだそのぐらい。儂にだってできるわい」

 魔術師が対抗して魔法を使うと、客たちが浮き上がって、酒場のなかはちょっとした宇宙空間といった様相ようそうであった。

「ちょっと待って下さい。奇術だって負けてません」

 いつの間にか楽屋から大がかりな装置を持ってきた奇術師は、一世一代の消失しょうしつマジックを披露した。これには観客も大いに満足して、力強い拍手が送られた。

 そうして誰が一番優れているかと、三人の言い争いがはじまったが、そうこうしているうちに、四人目が舞台に上がった。

みなさん、所詮しょせんは地球規模です。私のほうがずっとすごいでしょう。なにせ私は宇宙人なのです」

 そう言ったのは正真正銘、宇宙人にしか見えない多数の触手をたずさえた生き物だった。酒場のどこにいたのか分からないが、それこそ宇宙人の技術なのだろう。宇宙人が光線銃のような物を取り出して、その引き金を引くと、向けられていたテーブルがちぢんだり巨大化したりした。それに一瞬で透明になったり、現れたりといった擬態ぎたい能力も披露した。

 客たちはもはやこの騒動を大いに楽しんでおり、今日この日にたまたまこの酒場で酔っ払いにきたことを神に感謝しながら、飲めや歌えやの大騒ぎであった。たくさんのチップが、酔っ払いたちの財布から舞台の上へと投げ込まれた。そんななか一人の男が、どれが一番面白かったか決めよう、と言い出した。

「さあさあ、前代未聞のショーだねこれは。奇術師、魔術師、超能力者に宇宙人。異種格闘技、無差別級もいいところだ。娯楽の王は何なのか、今この世界の片隅にあるボロい酒場で決めてやろうじゃないか。投票用紙を配りますからね、皆さん番号を書いてくださいな。いいですか、どれがどの番号なのかは紙の裏をよく見てくださいよ。ただ決めるだけじゃ味気ないから、今夜のこの奇術師さんの出演料に加えて、皆さんが投げたチップの全部を一番票を集めた人に賞金として贈呈ぞうていしようじゃありませんか」

「ちょっと待って下さいよ。勝手に僕の出演料をけるなんて……」

「おやおや、自信がないので?」

「……いや、いいでしょう。相手は全員、人を楽しませることを主眼に置いていないごろつきみたいなものです。負ける道理はありません」

 こうして奇術師の了承りょうしょうも得て、娯楽の王をめぐる戦いの火蓋ひぶたが切られた。そしてその結果は酔っ払いたちの手にゆだねられたのだった。

「それじゃあ。皆さんどうです。最後のアピールということで、それぞれの技を披露されては」

 男にうながされると、四人は並んで次々に大技をくり出した。酒場のあちこちでは思ったより真剣に投票用紙と向かい合う客たちの姿が見えた。

「やっぱり見ていて一番楽しいのは奇術だよ」

「でもタネがあると思うとなあ。他の方がすごいような気がするよ」

「タネがないって話なら魔術が一番理解できないもんだな」

「でも分からな過ぎて面白いより先に、怖いがくるなあ」

「じゃあ超能力か」

「なんかタネのない奇術って感じですげえよな」

「でもパッとしないよ、はなやかさでは奇術の方だろ」

「宇宙人はどうだ」

「インパクトはすごいわな」

珍奇ちんきさでは一番かな。びっくりはするけど面白いのは一瞬かもな」

「いやでもやっぱりすげえよ。なんたって宇宙人だぜ。初めて見たよ」

「悩むなコレは」

「まあ、そうだな、でも決めたよ。とりあえず書くか、ええっと番号は…」

 そうして投票用紙が集められ、舞台上の四人はそれを集計する男を囲んで、固唾かたずんで結果を待った。

「…ひい、ふう、みい。うん、数え間違いはありませんね。というわけで、皆さんを一番楽しませたのは五番でございます」

「五?」

 四人は聞き間違えかと思って、一斉に首をひねった。

「そうです。つまり、わたくし、というわけで。へへへ。皆さんけが好きでござんすねえ。見てるだけじゃなくてける、これですよ」

 そう言って、男は約束していたお金を全て持って、ぽかんとしている奇術師、魔術師、超能力者、宇宙人を残して、酒場をさっさと出て行ったのだった。

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