第225話 六性
通勤途中、十字路の向こう側から浮浪者らしき三人組が歩いてきた。横を通り過ぎようとしたが、ちょうどその時、左右の道から学生と老人が歩いてきた。俺たち六人は交わって、それから別れた。
駅に着くと多くの人が行きかっている。六人ずつで列を作り、交わりながら待っているとすぐに電車がやってきた。電車に乗ると六人掛けの座席に座る。六人が揃うたびに交わっていると、目的の駅に到着するまでの間、俺は七回も交わることになった。
出社すると見慣れた顔ばかりだが、それでも何度か交わった。多様な交わりをする為にそろそろ他の部署と社員を交換すべきかもしれない。もしくは交わり用の派遣社員を雇うという手もある。
俺は取引先へ営業に向かう。道端で何度か交わっていたので少し遅れてしまったが、理由を説明すると許してもらえた。五人いる取引先の受付たちと交わり、六人乗りのエレベーターで交わり、取引相手たちとも交わった。交わるのに夢中で結局、取引はできなかったが、それだけ真剣に交わっていたのでしょうがない。帰りにもエレベーターと受付で交わってから、会社に戻った。
会社で自分の席について仕事をしようとした時であった。俺は妊娠していることに気がついた。その事実を社内伝達すると社内全体が祝福ムードに包まれた。俺は社長や重役、同僚たちに称賛の声をかけられた。
六人でつくった一つの命。無事に産んで、大切に育てなければならない。きっと個性的な子が生まれるだろう。この世は個性で溢れている。この子もその一員となるのだ。
もしこの世の性が六つより少なかったとすれば、例えば二つであったとしたら、さぞかし同じような人間ばかりが生まれることだろう。俺はそうでなくてよかったと心から思う。この子の親は分析調査ですぐに分かる。六人の親に育まれ、子は立派に育つのだ。もし親が二人であれば、たった二つという狭い見識を叩き込まれる子供は可哀想だ。やっぱり六だ。もっともっと多くてもいい。その分たくさん交わって、多くの子を産まねばならないが、それこそ生命の本分だ。誰もが真剣に交わりに取り組んでいるし、それがおのずと結果に出ている。俺にも既に十数人の子供がいる。これからも俺たちの繁栄は約束されているようなものだ。
道行く人々を見渡せば、同じ姿をした者など一人として存在しない。誰もが全く別の世界から来た別の生き物のようだ。とても、とても素晴らしい世界だ。




