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第202話 百年寝太郎

 ある所に、昏睡状態で産まれてきた男の子がいた。担当の医師はもはや打つ手なしと匙を投げたが、その子の両親は決して諦めることなく、大金を投じて最新鋭の医療技術を使い、小さな命を繋ぎとめた。

 男の子が目を覚ますことはなかった。しかし眠り続けたままでの生命維持には成功した。回復の目途は立たなかったが、それでもいつか我が子がそのまぶたを開けて、声を聞かせてくれることを願って、両親は男の子の世話をし続けた。

 男の子は眠ったまま成長して、小学校に入学するような歳になっていた。けれど、決して夢から覚めることはない。その頃になると、両親は我が子の生命維持の為の費用が底をついてしまって、どうやっても命を手放さなくてはならないというような状況に追い込まれていた。両親は助けを求めた。世間は彼らの至上の愛を称えて、募金活動が始まった。集まったのは想像を越えるような額であり、それら全てが男の子の為に使われることになった。

 一度話題に火が付くと、男の子の事は度々報じられるようになった。大学生ほどの年齢に成長した男の子は中々の美少年であり、”寝太郎”と愛称までつけられて、世間の人々に親しまれた。

 それからも生命維持の資金が尽きそうになる度に募金活動が展開され、寝太郎の命は三十年、四十年、それを越えても繋がれていった。

 やがて寝太郎よりも先にその両親が天寿を全うすることになった。それでも寝太郎は眠ったままであった。ついに両親をその瞳に映し、声を聞くこともなく永遠に別れることになってしまったのだ。世間はその事実を哀れみ、せめて両親の死後も寝太郎の延命を続けようという支援団体が結成された。

 寝太郎が生まれてから百年が経とうとしていた。寝太郎はよぼよぼのお爺さんとなっていたが、それでもまだ生きて、そして眠り続けていた。

 寝太郎の百歳の誕生日を祝おうと各地から人が集まっていた。それぞれ思い思いのお見舞い品を手にして、眠り続ける寝太郎に続々と祝いの言葉が投げかけられた。

 その時であった。寝太郎がパチリと目を覚ました。人々は驚き、歓喜の声を上げた。そんな周りの様子に寝太郎は怯えたように震え、「おぎゃあ」と一声泣くと、その命は尽きてしまった。

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