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第2話 怪物だ!

「怪物だ!」

 山を駆け下りて来て、街に入るやいなや男は叫んだ。街の人々はその声に振り返り、男の方へ目を向けると、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

 逃げないでくれ。助けてくれ。と男は心の中で訴えていたが、口から飛び出すのは「怪物だ!」という叫びだけであった。

 男は走った。全力で逃げた。すぐそこまで怪物が迫ってきている。どすんどすんという大きな足音が全身に響いてくる。生臭い吐息が背中にかかり、荒々しい息遣いが聞こえてくる。少しでも速度を落とそうものなら、瞬く間に鋭い牙に引き裂かれ、血に濡れた体は胃の腑に納められてしまうだろう。

 限界を超えて、男は走った。何とか引き離せたかと思っても、怪物はどこからか現れて、男を追い詰めた。

「怪物だ!」

 男は叫んだ。叫びながら、どこまでも走り続けた。


「びっくりしましたよ」

 目撃者は、警官に聞かれて一部始終を語り始めた。

「怪物、怪物、って叫びながら、すごい形相で走って行ったんです。とても正気には見えませんでした」

 聞き込みと数多くの通報から、警官は男を見つけ出した。男は「怪物だ!」と喚き散らしながら走り続けていた。

「止まってください!」

 警官は追いかけながら、男に呼び掛けた。しかし、男は止まらなかった。声が届いているのかどうかも分からなかった。

「怪物はいません! 落ち着いて、周りをよく見て!」

 男の様子は尋常ではなく、とても話が通じるようには見えない。警官は男を追いかけ続けた。早く取り押さえないと、何をしでかすか分からなかった。男の足は速く、警官も全力で追いかけた。

 いくつかの街を通り抜け、山を駆け上がった所で、ようやく警官は男に追いついた。警官に飛びつかれ、男は勢いよく押し倒された。

 そこは、山の上にある墓場であった。男はぴくりとも動かず、辺りは静まり返っている。

 警官が男を抱え起こすと、その喉元には、引き裂かれたかのような傷口があり、とめどなく血が流れだした。男が倒れた辺りには、猛獣の牙の様に尖った岩が並んでおり、血に濡れたそれは月の光を浴びて妖しく輝いていた。

 何かに追い立てられるように、警官は走り出した。その相貌は恐怖に歪み、疲弊しきった足は壊れた操り人形の様にばたばたと振り回された。

 山の樹々が風に吹かれてざわざわと音を立てた。草むらに潜む無数の生き物たちが、逃げ惑う警官の姿を見ていた。

 息を切らしながらも足を止めずに走り続け、警官は山を駆け下り、街へと飛び出した。

「怪物だ!」

 その叫び声は、冷たい夜の街の遠く遠く彼方まで、こだまして響いた。

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