第181話 ひとしずく
空中に投げ出されたかと思うと、俺は空を切り裂きながら、大地に向かって真っ逆さまに落ちていった。危うく大地に叩きつけられる寸前、濃く生い茂った樹の葉に優しく受け止められる。それから、枝を伝うように滑り落ちると、無事に着陸することができた。
一息つこうと思ったのも束の間、地面がぐらぐらと揺れ始めた。いや、これは、地面ではない。俺は樹の下で休憩していた獣の背に降り立ってしまっていたのだ。
毛に絡めとられて身動きができない。風のように野を掛ける獣の背で振り回される。目がぐるぐると回り始めた頃、やっと解放されて、獣道の途中に放り出された。
しかし、俺が落ちたのは激流のなかであった。川の流れに呑まれて凄まじい勢いで運ばれていく。岩にぶつかり、滝から落ち、波乱万丈の道のりを越えて、やがて街中に辿り着いた。
川はいくつもの橋の下をくぐり、何艘もの船が行き交っている。俺はといえば、されるがままの流されるままだ。そうしているうちに、魚にパクリと食べられてしまった。魚の体のなかで揺られて、揉まれるのもほんの一瞬、今度は、ふっ、と浮き上がる。
俺を食った魚が、さらに鳥に食われてしまったらしい。食物連鎖の縮図のような入れ子状態で、俺は空を運ばれていく。
突然、大きな音が響いたかと思うと、覚えのある浮遊感が戻ってきた。落下しているのだ。
今度こそ地面に叩きつけられる。だが、鳥の体がクッションになってくれたおかげで、ふわりと草の上に着地することができた。
人間がやってきた。鳥の死体を担いで去っていく。俺は真っ赤に染まって鳥の影に転がっており、見向きもされない。
太陽が高く昇り、強烈な日差しが俺を焼く。
長い時間をかけて、徐々に俺は宙に浮かび上がっていく。やっとあるべき場所に帰れそうだ。
ふわふわと漂いながら、雲の上に戻る。俺たちは集まって雲になる。空をぷかぷかと漂いながら、またひとしずくの雨となって地上へ零れ落ちるのを、じっと待ち続けるのだ。




