第15話 SHARKMAN ATTACK
「ご覧ください将軍」
とある軍の科学研究所で、ずらりと並んだ兵隊を前に博士が言った。将軍はその兵士たちを見て驚いた。なんと頭がサメだったのだ。
「これは、なんだね」
将軍は内心の動揺を悟られないように、努めて威厳に満ちた態度で尋ねた。
「ホホジロザメと人間の夢の競演といった所でしょうか。サメの凶暴さ、強靭さを得た無敵の兵士です。陸を制したサメ、海を制した人間。名付けてシャークマンです」
博士が意気揚々と紹介を終えると、兵士たちの性能実験の映像が映し出された。映像ではサメの頭を持った兵士たちが超人的な身体能力を披露していた。水中での機動力は目を見張るものがあり、強力な牙は厚い鉄板すら容易く貫通させていた。船を使わずに海上の敵船や、海岸沿いの基地を強襲できるのが大きな利点として挙げられ、海から攻めた後は、同じく海から逃げることが可能なので、柔軟性のある作戦が実行できるということも強調されていた。
博士は顔を上気させて口角から泡を飛ばしながら熱心に喋り続けていたが、将軍は複雑な表情を浮かべていた。
「彼らは言葉を話せるのかね。与えられた任務をこなせるのかという意味だが」
「残念ながら、この子たちとの意思疎通はできません。しかし作戦を遂行させることはできます」
博士はうっとりと兵士たちを見渡して、自信満々に言葉を繋げた。
「シャークマンの行動原理は単純明快、食欲です。そして食べるのは人間。生存本能でもって、敵兵を襲い、勇ましく戦って、食います」
「ちょっと待て。こいつらは人間を食べるのか」
将軍は思わず話に割って入ると、額にじっとりと汗を浮かべながら少しずつ後ずさった。
「それはもうバリバリと頭からひとかじりです。でも今は心配ありませんよ。腹いっぱい食べさせていますから。満腹のこの子たちはかわいいものです」
こともなげに言う博士に将軍はめまいがしてきたが、軍の勝利の為を思いギリギリの所で冷静さを保った。
「つまりだな。空腹の猛獣を敵地に放つということかね」
「そういうことです。ただし全くの野放しという訳ではありません。この子たちの脳には機械が埋め込んでありまして、食欲を刺激したり、目的地への誘導、そしていざという時の自爆まで可能になっています」
将軍は軍人らしい冷酷さを取り戻して、頭の中で幾通りもの運用方法が検討してみた。敵軍を威圧するにも持ってこいの見た目をしており、戦意を削ぎ、戦力を刈り取るのにはなかなか有効な兵器に思えた。
「よし。物は試しといこう。ちょうどいい作戦があるのでそれに投入する」
初陣となる戦地にて、シャークマンたちは惨敗を喫した。敵に情報が漏れていたのだ。敵軍はシャークマンに対抗して、頭部がイルカのドルフィンマンを開発していた。サメはイルカの声を嫌うのだ。シャークマンたちは散り散りになって逃げたが、ドルフィンマンたちは海の中にまで執拗な追跡を行い、敵を殲滅したのだった。
敵の研究者は鼻高々な様子で幹部にドルフィンマンの有用さを語っていた。
「イルカはサメよりもずっと賢い。訓練で命令も聞かせられます。しかもサメよりずっと残忍です。食欲で人を殺すなど生ぬるい。こちらが殺す理由はただの遊びに過ぎません」
ドルフィンマンの訓練所で指導員の人間が通路の脇で座り込んでいた。その額からは血が流れ、訓練所の扉は開け放たれている。ドルフィンマンの高い知能があれば、指導員を出し抜くのも、施錠された扉を開くのもわけのないことだった。ドルフィンマンたちは遊びに飢えていた。好奇の目がそこかしこに注がれ、研究所の中を楽し気に泳ぎ回っていた。
敗退したシャークマンたちを見て将軍は落胆していたが、博士の瞳はまだ情熱を失っていなかった。
「今回はサメの特色を強く残しすぎたのが敗因です。その生態を利用されてイルカたちに敗北した。しかしすでに改良実験に手を付けております。頭部をサメにしたのが駄目だったのです。人間の脳を残して、今度は両手をサメの頭にします。名付けてダブルシャークマンです。いかがでしょうか」
将軍は大きなため息をついて、部下に博士を放り出すように指示した。敵の情報を改めて確認する。ドルフィンマンという兵器は所詮シャークマン対策に特化した兵器にすぎない。今後対人兵器として脅威になるようなことがあればダブルシャークマンが必要になるかもしれないが、そんなことは未来永劫こないで欲しいと将軍は願った。