第14話 ある殺し屋
どこの国にも属さず、地図にも載っていない島。その一角に建てられた豪邸の一室。広々とした部屋の中央にゆったりと座った男が目の前のボタンを押すと、どこかで一人の人間が死んだ。
男は殺し屋だった。いくつもある大きなモニターの一つに依頼のリストが表示されている。依頼はコンピューターによって達成可能なものが自動的に選定された。
机の上にある小さなランプが赤く灯る。準備完了の合図だ。改めて依頼に目を通して、その殺しを請け負うかどうかの最終確認をする。男には殺し屋なりの信念があり、それにそぐわない依頼は断ることもあったが、今回の依頼は問題がなさそうであった。
男がボタンを押すと、またどこかで人が死んだ。男はこのシステムを長い時間をかけて注意深く、執念深く作り上げたのだった。殺し屋家業を始めてからしばらくすると、迅速かつ正確な男の仕事の噂は瞬く間に広がり、依頼が殺到するようになった。
月日が流れ、男の殺しは淡々と続いていたが、ある日を境にして加速度的に処理速度が上がっていった。世界中で男の仕業だと思われる殺人事件が続出した。警察組織は暴走とも言えるような暴虐ぶりを目の当たりにして、全能力を振り絞って捜査を行った。そうしてやっとのことで男の居場所が特定されたのだった。
もはや一刻の猶予もなく、男が住む島には多数の捜査官が上陸していった。島には様々な動物たちが野放し同然の状態で飼われており、豊かな自然の中で獣や鳥や魚たちが身を寄せ合って暮らしていた。さながら楽園のような島だったが、どこにも人の姿はない。屋敷の中へと捜査の手が伸びても、家族や恋人、使用人といった類の人間すらいなかった。
島は男の用心深さと孤独とを表しているようであった。
捜査官たちが男の部屋に辿り着く。扉が開け放たれ、激しい足音が地響きのように部屋になだれ込んだ。部屋の中央に置かれた椅子にいくつもの銃口が向けられたが、男の姿はそこにはなかった。
そこには一匹のサルが陣取っていた。サルは定期的に輝く赤いランプに喜ぶようにボタンを押し続けている。そしてその椅子の足元には、朽ち果てた骸が横たわっていたのであった。