第1208話 ねじれたパンドラの壺
ギリシアのヘパイストスという神様が、とあるものをつくろうとしていた。
それは、人間の女と、その女に持たせる壺。
泥を材料に、すばらしい女を完成させたヘパイストスであったが、壺のほうは、なかなか満足のゆく出来にならなかった。
疲れたヘパイストスは、ぶらりと旅へ出かけた。
地中海のそばから、北西のバルト海や北海の方向へ。
そこで奇妙な壺を見つけ、製作者である数学者から、つくりかたを教えてもらうことができたのだった。
意気揚々と帰還したヘパイストスは、さっそく壺を完成させた。
つくられた女はパンドラと名付けられ、壺と一緒に、エピメテウスという神様へ贈られた。
その際に、決して壺の蓋を開けてはならないと言われていたのだが、パンドラはうっかり約束を破ってしまった。
ありとあらゆる災厄が、壺から外へと飛び出していく。
なんてことをしてしまったのかとパンドラは絶望したが、それでも希望は残っていた。
というのも、蓋を開ける前と後で、世界はなにも変わらなかったのだ。
災厄は、壺の外にあったり内にあったりした。
壺の内と外が、はじめからつながっていたからだ。
そんな奇妙な壺をヘパイストスに教えた男。その名をクラインというらしい。




