第11話 希望
苦難の多い人生だった。思い返せば良い事なんてまるでなかった。それでも常に希望だけは心に持ち続けた。親友のおかげだ。物心ついた時から共に遊び、学び、成長して、死の床にある今も傍にいてくれる。
親友はいつだって俺を励ましてくれた。大学側の不手際で落第させられた時。恋人が通り魔に殺された時。両親が事故で死んだ時。上司の違法行為に巻き込まれてクビになった時。
何度も、もう俺の人生はだめだと思った。絶望のどん底に叩き落とされた。けれど親友の支えがあったから、先に進むことができた。
俺の親友。こいつはいつも俺に希望を抱かせてくれる。死がひたひたと忍び寄ってくるのが分かる。それでも親友は、まだ助かると言い聞かせてくれる。親友の言うことならと俺は思い、助かると信じた。しかし、もはや避けようのない死が眼前に突き付けられている。
希望が絶望へと変わっていくこの瞬間は幾度となく経験している。最後の最後まで同じことの繰り返しだ。
俺の人生に良い事なんてなかった。ただ無数の絶望だけが走馬灯となって脳裏を流れていく。
親友には申し訳ない。こいつが与えてくれた希望に、一度だって報いることはできなかった。こいつは俺の希望そのものだったのに。
親友が言う。もう苦しみは終わるのだと。俺はその言葉に安心する。また希望を与えられたのだ。
最後の力を振り絞って目を開ける。薄く開いたまぶたから、親友の顔がうっすらと見えた。その口元は醜く歪み、頭には角が生えている。
――ああ、ここは地獄だったのか。
こいつは俺を苦しめる鬼だったのだ。