表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
井ぴエの毎日ショートショート  作者: 井ぴエetc


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1034/1200

第1034話 推しも推されぬ

 今夜は決戦前々々夜。


 三日後、あの御方おかた降臨こうりんなされる。


 予言された祝祭ライブをおこない、世界をあまねく照らしくすのだ。


 しはせるときにせとは、まさにあの御方のための言葉。


 人生で一度のせる機会を、決してのがすわけにはいかぬ。


 あの御方には名がないが、名もなき名を呼べぬは不便。

 だから、あの御方をあらわすために、とある言葉が使われている。

 しめし合わせたわけでもないのに、どの場所、どの言語、どの時代でも同じ。


 ――愛すべき者(アイドル)



 あの御方は誰にとっても同じく、時をける恋人アイドルなのだ。



 歴史をひもけば、原始の時代以前から、あの御方の祝祭ライブ開催かいさいされていたことがわかる。

 人々の熱狂が、各地の壁画や工芸品に残されているのだ。

 そして近年においても変わらず。

 五十年前にも、百年前にも、二百年前にも、五百年前にも、あの御方はあらわれ、人々をとりこにした。

 記録された映像や音声からも信者ファンは増え、その勢いはとどまることを知らない。

 なにせ、我らが御先祖様からして、信者ファンなのだから、全世界、全人類において、誰もがあの御方に恋をせずにはいられない。

 わたしの父も母も、祖父も祖母も、曾祖父も、曾祖母も、さらにさかのぼった全員が、あの御方の信者ファン


 何故なぜあの御方が偏在へんざいなされるのかは謎のまま、はるかなる時をて、今日こんにちいたる。

 説明されることはないし、我らがたずねることもない。

 すこし前に実用化された時空干渉機を使って時間旅行をしているではないかと、わたしは考えているが、追及しようとは微塵みじんも思わない。真実など無意味。祝祭ライブを楽しむためには、むしろ邪魔じゃま。たとえ、あの御方が生まれ持っている超常的な能力が使われているだとか荒唐こうとう無稽むけいなことを言われたとしても、わたしは信じる。


 こいしい。こいしくてたまらない。


 にじ極光オーロラなど足元にもおよばぬ美しさ。


 太陽が矮小わいしょうに思えるほどの元気の源。


 月にいらちを覚えるぐらいの安らぎ。


 そして、いとしさ。魂の底からの。


 ずっと楽しみにしていた。がれていた。

 約束の日。祝祭ライブを。

 十年前から、二十年前から、三十年前から、生まれたときから。


 祝祭しゅくさいむかえるにあたって、人類全員が休暇きゅうかに入った。

 仕事など、自動人形オートマタにでもやらせておけばいい。

 究極の喜びを得る権利は、誰もが平等に与えられるべきなのだから。


 楽しみだ。楽しみすぎる。


 けれども、激しすぎる思慕しぼは時に反転した無尽蔵むじんぞうの燃料となって、わたしにあるものをつくらせもした。


 もうすこしで、完成する。


 わたしの、模像アイドル寸分すんぶんたがわぬ、あの御方の似姿にすがた


 最新鋭かつ高性能の自動人形オートマタに時空干渉機を搭載とうさいし、あらゆる時代のあの御方を追跡ついせきするように設定してある。

 情報データ集積しゅうせきすることで、模像アイドル愛すべき者(アイドル)近似値きんじちとなり、そのうち、歌って、踊ることすらできるようになるだろう。


 これは決して、あの御方を独占どくせんしたいなどという、不遜ふそん傲慢ごうまん利己的りこてきな精神によるものではない。

 崇高すうこうなる目的のため。

 人類のすえおもってのことなのだ。


 もはや、あの御方への愛は、人類しゅの特性とまで言っても過言ではない。

 原初から終末まで、あまねく遺伝子に刻まれているのだから。

 

 と、すればだ。


 愛すべき者(アイドル)がもし失われでもしたらどうなる。

 それは、巨大隕石が衝突するよりも絶望的な状況。

 物質的死よりも前に、精神的死によって、人類が死に絶える。

 そんな事態になる前に、手を打つべきだと、わたしは考えたのだ。


 だから、模像アイドルつくった。


 稼働かどうしたあかつきには、過去現在未来永劫えいごうにおける終わりなき人類の栄光と享楽きょうらくが、きっと約束されるであろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ