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井ぴエの毎日ショートショート  作者: 井ぴエetc


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1023/1207

第1023話 明日はイイ日

「ああ。なにかイイコトがないものか。昨日きのうも、一昨日おとといも、平凡へいぼんな日だった。今日もだ。かわえしない毎日。明日はイイ日であってくれればいいのだが。宝くじが当たるとか、ステキな人と出会うとか、通勤電車がいているだけでもいい……」


 ひとりごちながら、川辺を歩いていると、つま先にかたいものがぶつかった。

 カツンっ、という音に視線を落とすと、そこにあったのは、ちいさなびん

 ガラスっぽい質感。濃い色合いでいろどられており、不透明で、なかは見えない。

 水面みなもに反射する光をびて、ステンドグラスみたいに、きらきらとかがやいている。


 しぶきにまれて、川に流されそうになったのを、思わずひろいあげた。


 手のひらにおさまるぐらいの大きさ。形はなんの変哲へんてつもないつつ型。口はコルクでぴったりとせんがしてある。傷はなく、新品のようにきれいだ。

 軽くってみたが、音はなし。重さは軽い。

 どうしようかと首をかしげていると、ふとひらめいた。


 ――もしかしたら、ボトルメールかもしれない。


 びんに入れた手紙を、海や川に流して、見知らぬ人と交流しようというあれだ。

 この偶然ぐうぜんの出会いがスバラシイ明日をおれにもたらしてくれるかもしれない。


 そう思って、意気いき揚々ようようふたを開けたのだが、おれの予想を裏切って、出てきたのはけむり


 き出してきた黒煙に、びっくりしてびんを取り落としてしまう。


 カラコロところがるびん

 突風が煙をらすと、びんのそばに、みょうちきりんな小人が立っていた。


「いやあ。ありがとうございます」


 体格に似合わぬ、よく通る声で、


びんめにされてしまって、外に出られなかったんですよ」


 そして、小人はお礼として、おれの望みを魔法でなんでも叶えてくれると言ってきた。

 しかし、突然のことで、なにも思いかばない。

 咄嗟とっさに口をついたのは、


「だったら、明日が今日よりイイ日になるようにしてくれないか」


「おやす御用ごようで」


 小人はムニャムニャと呪文じゅもんのようなものをとなえると、


「これであなたの”明日”は”今日”よりイイ日になりましたよ」


 そうげて、口笛をぴゅうと高らかに吹いた。

 すると、どこからともなく小鳥が飛んできて、小人を乗せると、あっという間に空の彼方かなたへ消え去った。


-×-×-×-×-×-


 以来いらい、おれは明日を待ち続けている。


 けれど、おれが明日に辿たどり着くことは決してない。


 おれの居場所は常に今日。

 今日から見れば明日でも、明日になると、それは今日なのだ。


 屁理屈へりくつみたいな話だが、どうやらそういうことらしい。


 今日の時点では、明日にイイコトがあるような強い予感がしているのだが、日をまたいだ途端とたん、煙のごとくにかき消えてしまう。


 そんなことが続くと、意識せざるをえなくなった。


 イイ日はいつまでも手の届かない場所。


 今日は明日よりヨクナイ日。


 これなら、先のことなどなにもわからず、想像をこねまわしていた前のほうが、ずっとずっとマシだ。

 小人を探し出して、魔法をかせようにも、どこにいるのやら。

 つのるのは明日への希望ではなく、昨日の後悔こうかいばかり……

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― 新着の感想 ―
ちゃんとカレンダーに準拠するように言えばよかったですね。
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