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第1話 最後の二人

 俺は惑星調査員。遥か遠くにある惑星を調査するはずだったが、宇宙船の故障で、道中のとある星に不時着することになってしまった。

 壊れた宇宙船を何とか修理しようと試みたが、地表近くを低空飛行するのがやっとの状態だった。それに、燃料の大半を不時着時に失っていた。

 何か物資がないかと必死で探索したが、この星にあるのは広大な海と、わずかな陸地、そして、そこで暮らすたった二人の住人だけだった。やがて、俺は諦めて、この星に住む覚悟を決めた。

 二人っきりの住民が、この星最後の生き物らしかった。この星の命の終焉と運命を共にするのも悪くないように思えた。

 幸い宇宙船には惑星調査用の、未知の異星人との遭遇時に使う万能翻訳機が積んであった。それを使って何とか大まかな意思疎通ができるようになった。

 彼らは親切で、温和な性格をしており、食料を分けてもらうことができた。俺が一緒に暮らすことにも抵抗はないようだった。

 異星人と言っても、姿形は人間とほとんど変わらない。唯一の差異と言っていいのが、全身に鱗のようなものが生えていることだ。海の多いこの星で、水の中で不自由なく動くために進化した結果なのだろう。二人は男と女が一人ずつで、男は若く、女は少し年長に見えた。

 俺たちは泳いだり、歌ったり、真っ赤な海藻を採って食べたりして日々を過ごした。長い間、惑星調査員をしていて、異星人と接触する機会は何度もあったが、彼らは今まで出会った異星人の中でも、とびきり魅力的に思えた。

 万能翻訳機を通じて、彼らの話を聞くと、この星では何万年もの間、たった二人で過ごしているらしかった。俺とは時間感覚が違うのか、それとも途方もない程の長命の種族なのか、翻訳の精度が高くない為、判然とはしなかったが、ともかく、俺は彼らに看取ってもらうことになりそうだった。

 不時着から数年が経ったある時、彼らから信じられない話を聞いた。異星人の女の方が、そう遠くない未来に死ぬという意味のことを伝えてきたのだ。

 俺は耐えられなかった。俺は深刻な問題を抱えていた。女のことを深く愛してしまっていたのだ。

 俺と異星人の男は女を巡って争った。そして決闘の末、ついに男を殺してしまった。俺は自分に言い聞かせた。彼らは絶滅寸前だったのだ。俺が手を下さなくても、結局は同じ結末になっていたはずなのだ。

 女は衝撃を受けていたものの、俺を受け入れてくれた。もうこの星には俺たち二人しかいないのだ。お互いを慰め合って、残された時間を過ごすしかない。

 やがて女は俺の子を産んだ。子を産むと、女はあっさりと死んでしまった。死の淵にあっても女は冷静で、どうやら彼らの種族は、子を生むと確実に命を落としてしまうらしかった。後には俺と息子だけが残された。

 長い歳月が経つと、息子の体に変化が現れた。男性的な特徴が消え、女性になっているようだった。俺は気がついた。彼らは絶滅の危機に瀕してなどいなかった。最後の二人などではなかったのだ。

 彼らの種族は生まれた時は男で、歳を重ねると女になるのだ。かつて彼らから聞いた話は、俺が出会った二人のことではなく、何万年もの間、種族を維持するのに二人だけで十分だったということなのだ。異星人の男が生きていれば、やがて女になり、息子の子を産んで、次の世代に命を受け継がせただろう。

 俺は息子の父と妻になるべき男を殺してしまったのだ。

 娘がじっと俺を見ている。種の本能に従おうとしているらしい。

 やがて、娘は俺の子を産んで、死んでしまった。俺は生まれたばかりの我が子を、できるだけ苦しまないようにと祈りながら、力いっぱい岩に叩き付けた。

 真っ赤な海藻が海から這い上がり、陸地を覆い始めている。もはや海藻を採る者はいなくなり、支配権は譲り渡されたのだ。

 俺はたった一人、海岸に座り、遠くの海を眺めた。

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