死ぬことが許されない世界へようこそ
寿命が決まってる世界って存在するのだろうか?
いつ他殺か自殺か病気かで死んでしまうか分からないこの世界。
僕は心身にプラスマイナスをしながらいつか来る
最後の日に近づく区切りの日を今日迎えるはずだった。
さっきまでの外の雰囲気とは違う春風に湿度が加わったような風が…
「ちょっと、大丈夫です?」
ありえない力で肩を叩かれ折角の僕の風情の風上におくような情景描写を。
いや止めておこう大した語彙力と言葉回しは想像通りには出てこないから。
とりあえず女性の声に遮られたので目を開いた。
「嗚呼、良かった目が覚めましたね?大丈夫ですか?」
「っ、大丈夫です。」反射的に言ってしまう日本人の悪い癖が出た。
恐らく大丈夫ではない。先ほどまで予想していた瞼の向こう側とは大違いの景色だからだ。
上にある空の色は赤い?黒い?なんて言うか静脈血にタバコの煙を足したような色だ。
周りの建物は昔話に出てきそうな古びた家と
その集落に似合わないようにわざとらしく、ガラスの靴の少女が駆け出してきそうな大きな城があるだけだ。
「あのここはどこ?」静脈を背景にしている黒髪で外はねの助けてくれた女性にお礼を先に言うべきだと思ったが、
先に出てきたのは疑問詞だった。
「あはは。やっぱりここに来る人は開口1番それなんだね。」と女性は笑いながら言った。
「とりあえず起きてください。怪我はしてないと思いますから」
無傷の断定に何がなんだか分からなかったが言われるがまま僕は起きあがった。
起きあがったと同時に女性は
「いきなりで申し訳ないですけどあなた、今日は何月何日でさっきまでどこで居たか言えますか?」
人間ありえない土地と風景に突拍子もないことを言われると反射的に答えてしまうものなのだろうか?
「えっと、今日は3月19日でさっきまで〇〇県の県庁近くのデパートに向かってて…」
初対面の女性に律儀に答えてしまった。……あれっ?その後どうしたんだっけ?
考えれば考えるほどに大きなものが押し寄せてくる感覚になってくる。
鼓動が早くなるのを女性の急な女性の握力で止まった。
「もしかしてトラックに轢かれたりしませんでしたか?」真剣な眼差しで見てくる。
その澄んだ水晶体に吸い込まれそうなるがそれより先にトラックのことが頭に出てきた。
「そうだそうだった!」さらに女性は続けた。
「それで明日3月20日はあなたの誕生日じゃないですか?」
「そうです。何で分かったんですか?...はっ!?もしかして1年前まで家の周り彷徨いてたストーカー!?」
女性は驚いた表情をしたが一変笑いながらこう続けた。
「ストーカーじゃないですよ?ここに倒れてる人って絶対誕生日の前日にトラックに轢かれてくる人なんです。』
「…ん?どう言うこと?」トラックに轢かれて辿り着くのはベッドの上か天国か地獄しかないと思うんだけど。
声に出てたっぽい。女性は
「いえ、ラノベとか読んだことないですか?トラック轢かれて異世界に飛ばされるってベタなやつ」
と言った。「確かに読んだことあるけど、僕はあんな法外な設定作り放題な異世界転生なんて信じないよ。」
「だったら怪我してないのは何でですかね?」被せるように言われた。
……確かに言われてみれば10tトラックを正面から受けたはずなのに何で骨一本折れてないんだ?
「頑丈だったとか?」
「そんなわけないよ!」大きすぎる声に思わず耳を塞いだ。恐る恐る手を緩めながら
「いや、じゃないとこうやって生きてる理由はないと思うんだけど」って
言ったが、「もう認めてください。こんな赤黒い威圧的な空とRPGの最初の貧相な村。
そしてカボチャの馬車が行き来してそうなあの典型を押し込めたような城。それが共存してるなんて日本には無いでしょ。あなたは異世界転生してしまったんです。異世界に来たからって魔王を倒しに行きなさいなんて無理させる世界じゃないから安心して。あなたにそんなことできっこないのは見ればよく分かるから」
捲し立てるような女性の圧迫感と謎のダメ出しに折れて押されて僕は頷くしかなかった。
「はいよく出来ました。」怖い。今までの女性の笑顔で2番目に怖い。
「じゃあ認めてくれたところでまずこの世界について説明させていただきます。
が、その前に私の自己紹介から。私の名前はイブと言います。見た目からしてあなたと年齢はそこまで変わらないと思いますから、気軽に呼んで下さいね。」
僕は齢24だけど、高校生の時から今まで散々初対面の人に30歳と言われ続けた老け顔と図体である。経験と歴が違う。
「見た目だけで年齢変わらないって僕この老け顔でこの姿形ですよ。それにイブさんは未成年でしょうから」
「私は24歳ですが」
「えっ!24!?見えねえ〜。僕も24です!今までの人生で初めて当てられました。」
あまりに普通に当てられたので驚きがオーバーになり過ぎたかも。それくらい当てられたことが驚きなのだ。
にしても、白のワンピースに黒髪外はね汚れたものを見てこなかったのかなと思わせる目と笑顔。
先ほどのダメ出しと恐怖の笑顔がなければ絶対に落ちてた。いや僕は外はねよりロング派だ。
「でしょ、私こういうの得意なんですから。なので敬語とか使わなくていいからね。」
ただ、見た目が限りなく理想に近づけたような感じで、どんなくだらない話でも笑顔で返してくれそうなのに何故だろう。
何か逆らったらやばそう気がする。そう気がするだけだが「うん、分かったよろしく、イブ。」とだけ言っておいた。
「で、続きなんですが、この世界での生活は元の世界と同様の時間の進み方24時間で、生きていくためのギリギリの生活は確約されています。衣食住ってことですね。なので、{伝説の剣に導かれし勇者。魔王を倒せ。さすれば姫と城をやろう}って求めてないのに勝手に任務を与える馬鹿な国王なんて存在しないので安心してください。」
「あの、さっきから気になってたけどそれは色んな人を敵に回すからやめた方が良いよ?」
「そうですか?まあそんなことはどうでも良いんです。続きを話しますね。」
危険な言葉を発さないか心配だが、聞くとしよう。
「この世界では自殺他殺は基本出来ないようになっています。」
「基本?」いきなり話し出す内容ではないと思ったが、まずそこに引っ掛かった。
「はい、まず前提としてこの世界では死ぬまで不老不死です。なのでこの世界に来た時点で年は取らず死ぬことも出来ないんです。」
とりあえず黙って聞いておこう。死ぬまで不死の意味が分からないが、
これだけ世界の終わりをテーマにしたような空をバックに説明されたらそんな支離滅裂不老不死論も一旦飲み込むしかない。
「では自殺から説明します。誰しも苦しくなって消えて無くなりたいと思い、やってしまう可能性がある自殺ですが、死ぬことだけは許されていません。この世界が不死だからと言うのもあるのですが」
寝耳に熱湯をかけられた感覚のように一気に自分が動いたような気がした。
「そんな!?苦しんでる人にさらに苦しめと言うのがルールなのか?ありえない」
「私もここに来た時、聞かされて人の命や気持ちを何だと思ってるんだと思いましたが、
何でも初代国王が決めたルールで「皆が楽園の真ん中で終わるような世界を作り上げたい」という考えのもと作ったそうです。で、初代の願いが”不老不死”だったのでそれがまず決まりました。生きてればいいことあるってのが座右の銘だった人なので。」
何故か仕方ないと感じているようだった。
それにしても身勝手だな。
「死ぬことができないこの後の話を聞いていれば分かると思いますから続けますね」
「分かった」
「で、今度は他殺禁止についてですね。」
「他殺がダメなのは当然だけどね。」当たり前のことを言うからそれにも引っかかってた。
「しちゃいけないとは言ってないんです。この世界では出来ないしやらない方が自分の身の為なんです。」
「どう言うこと?」
「先ほども言いましたが、不老不死なので死ぬことが出来ないんです。」
「まあ不死なら殺害は出来ないな」
「じゃあ自殺の時もそうですけど、なぜ死ぬ行為・殺す行為が許されないのかというと、次の約束事に影響が出てくるからです。」
「次の約束?」トーンが下がったから相当重要なことなんだろう。しっかり耳に入れようと体を傾けた。
「はい、この世界での死後は元いた世界に戻るのですが…」
「えっ?戻れるの?」多分人生で1番出した大声だったと思う。
漫画みたいに世界が少し揺れたと思う。多分。
今度は彼女が耳を押さえて「うるさいです。」と嫌そうな顔をした。
とりあえず冷静になって
「ごめん、取り乱した。けど、戻れるんだ。絶対に戻れないと思ってたから驚いた。」
「まあ無理もありません。ちゃんと条件を満たせれば余程のことがない限りきちんと戻れると決まってます。
決めるのはその死期を迎えた時にこの世界の門番によって決められます。」
なるほど。死んだ時、門番に向こうに戻ってもいいか決められるのか。
「それでこちらの記憶を持ったまま事故当時の年齢で安全な場所に戻ります。」
「じゃあ戻った時は24歳で自宅とかに戻るのか。」
「そんな感じです。で、ここからが重要なんですが、この世界で行なったことが戻った世界の自分に反映されます。」今までの積み重ねでハテナマークがいっぱいになってきた。「どう言うこと?」
「言葉のままなんですが、例えばこっちの世界で道に迷ってる人を助けとしましょう。すると、向こうの世界に戻った時、道に迷ったら他人に助けられるんです。」
「つまりやった行いが自分に返ってくるってことか」
「そう言うことです。」イブは腕組みをし、目を瞑りうんうん頷いた。やっぱり結構可愛い顔してるな…。
ってあれ?
「じゃあ例えばこの世界で相手に殺意を持ってナイフで刺したら向こうの世界でも刺されるのか?」
イブの動きが止まった。「気づきましたか?」片目だけ開け聞いてきた。
なるほど、何となく言いたいことは分かった気がする。
「つまり、殺したくなった相手に危害を加えてもこっちの世界では死なないからやっても意味がない。しかも自分に返ってくるから余計にやるべきことではないってことか」
「そうです。ただ…」イブは腕組みを止め、僕の頬に手を近づけおもいっきり引っ張った。
「痛い痛い痛い」僕は全力で振り解いた。
「そう言うことです」「どう言うことだよ!?」頬を押さえながらいきなりの行動につっこむしかなかった。
「えっと、この世界ではちゃんと痛みを感じるんです。ってことは相手を殺せれないけど痛みつけるのだけ楽しむ輩が現れてしまうんです。」
……「えっなにそれ怖っ!!」一気に恐怖を感じ始めた。
けど僕の顔とは真逆にイブの顔は笑っていた。
「安心してください。そうなった場合相手は追放されて元の世界でもこの世界でもあの世でもない、真っ暗で何もないところに痛みだけを感じたまま生きていくことになるので。そして被害者は外傷はすぐ治療され、元の世界では希望通りの生き方を迎えることが確約されます。」
それは安心なのだろうか?その刺される時の映像は消えないから恐怖だけが残るんじゃないの?
彼女がまた口を開いた。「あとは…」「まだあるの!?これ以上は頭がパンクするよ」
「安心してください。あとちょっとだけですから」
彼女に宥められてとりあえず説明の続きを聞いた。
「先ほども言いましたが、この世界は不老不死です。」
「そうだね」異世界を受け入れてる自分が怖い。
「なのに私の説明で違和感はありませんでした?」
「違和感?」違和感ってあれでいいのかな?
「死ぬまで不老不死?」
「それです。それはこの世界での死。つまり期間を終える時のことを言ってました。
刺されても毒物を飲んでも勇気を出しても死ぬことはできないから不死なんだけど、
絶対に最後の日が決められてる、分かっているのがこの世界なんです。ここまでいいですか?」
うんまあこの世界から消えちゃう日がこの世界での命日。多分転生した日から何日後かに消えるんだな。
十中八九そうだろうと思い頷いた。
「では、その期間なんですが、これがまた長いんです。54…」
54日か、そのくらいなら
「週」
「長!!!!」
「うるさ!!!!、何ですか?」
驚き過ぎて短文に声が込め過ぎた。
「いや、長すぎるよ。日とか時間の間違いじゃないの?」
「そんなに長いかな?ていうか日とか時間なら書ける内容少なくなるよ。まあ重要なところしか書かないからそんな長くないと思うよ。」
書くって何!?いやそんなことはどうでもいい気がする。それよりも、
「流石に54週は長過ぎない?」
「この世界のルールなんですから仕方ないじゃないですか?それに冷静になって?54週って約1年間ですよ?」
「けど1年間娯楽がない環境で」あれ?ちょっと待て。
「待てあのさ、元の世界に帰れるなら今からでも帰れないのか?」
「えっ?」
「いや、だってさ元の世界に帰る何らかの力みたいなのがあるなら門番なり国王なりがどうにかしてくれると思うんだよ。」
「ああ、なるほど。確かに戻れはしますよ。」あっけらかんに言われた。
「やっぱり!」期待通りこのイカれた世界から逃げ出す方法があるんだな。イブ様教えてくれ。
「ただし条件があります。」
「どんと来い。1年待つくらいなら何だってするさ」
さっきとは打って変わって元気になり、期待している眼差しの僕とは対照的にイブは冷めた目で続けた。
「事故からプラス1歳された世界で事故します。」
………「え?どう言うこと?」
「えっと...具体的に言ったら、24歳で事故したあなたは25歳で10tトラックにはねられます。戻った直後に。今度は即死です。」
「 」
「いや喋らないなら鉤括弧使わないでください。」
「えっとこのまま1年間ここで我慢すればそのままの姿で帰れる。
今このまま戻ったら享年アラサーになった直後にトラックに轢かれる…と」
「そうですそうです。年齢を和製英語に変えるくらい余裕出てきたじゃないですか。」
イブはケラケラ笑いながら手を叩いてる。
.........
「何でこんなことになったんだ…」もう頭を抱えるしかない。
10分後
「はい、復活されるまで10分かかりました。」「やめて面倒な体育の先生みたいなこと言わないで、頭が悲しさに追いつかない」
「別に良いじゃないですか、5億年ボタンじゃないんだし」
「あれは記憶消えるし100万もらえるんだぞ。
それに対してこの世界は1年拘束されてこの世界での行いが反映される。
ずっと優等生みたくしてなきゃいけないなんて」
「まあまあそんな落ち込むことないですよ。期間を短くする方法もありますから」
「えっ、そんな裏技があるの?」一気に世界が明るくなったみたいだ。
「単純だなぁ」
「どのくらい短くなるの?」
「そんな藁にも縋る表情しないでください。2週です。」
「たった2週になるの?」「いえ、54週が52週になるだけです。」
拝啓さくら(仮)さん
僕はあなたと同じ、年をとらない世界を暫く強制的に楽しむことにしました。
あなたとの違いはきっと痛みを感じることくらいでしょうか?
こんな形であなたと同じ画面の向こう側みたいな体験したくありませんでした。
「さて、1年間どう過ごそうかな?」
「切り替え早!」
「いや、もう仕方ないと思ったから諦めた。異世界転生は紙か画面の向こうだけでいいな。
こんな世界ク○喰らえ」
「今更そこだけ伏せ字にしてもダメだと思いますけど。
まあ、元の世界にはあなたの性格なら戻れますので安心してください。」
「うん、まあとりあえず楽しんでみるよ。でも何で54週なんてきりの悪い数字なんだ?」
「漸くタイトル回収できる。」
何だ?タイトル回収って。
2人の間に生ぬるい風が流れた。一気に木々揺れ、子ども時に感じた台風に呼吸を無理やり閉じ込められたように感じた。
「それはですね、」
さらに重い空気いや空になった気がする。
「トランプの数で寿命が決まる世界だからです。」




