魔王の仕事1
再興郷の戦闘系・支援系魔族の対立を仲裁し、脅威となる軍用ロボットの排除を少しずつ行うことが大事だ。
双方の意見を取り入れた上で、行動をするしかないだろう。
戦闘系ばかりの意見を聞けば、支援系が愛想を尽かすだろうし、逆もまた然り。
つまりは再興郷における戦闘力の増強を行いつつも、現状軍用ロボットの本拠地が不明である以上は無暗に進軍を行えば被害を拡大させるだけなので、万全の準備を整えてから行ったほうがいいだろう。
「シルヴィアさん……顔をあげて下さい。再興郷ついての現状は把握したつもりです。双方の意見の対立についても、私としてはこれらの問題点を解決するために、ガルムさんとしっかり話を付けるつもりです」
「本当でございますか?!本来であれば我々が行うべきことを来て間もないコータ様にお願いする形になってしまって……すみません」
「いえ、いずれにしても対立が長期間すればするほど回復不能なまでに関係悪化を招きかねませんからね。ガルムさんを呼んでもらい、彼とじっくり一対一で話し合いをしたいと思っております。シルヴィアさん、ガルムさんを呼んできてもらってもいいですか?」
「はいっ、只今御呼びいたします!」
シルヴィアさんは一礼してから、ガルムを呼んできてもらうことになった。
朝食を食べた後に一仕事をするというわけだ。
それまでに、何とかガルムを言いくるめるわけではないが、話し合いを行って対立ではなく協力をするように言うしかないだろう。
あと、このステータス画面を見れるようにすれば、相手の身体情報や性格などが分かるはずだ。
さっきシルヴィアさんがいる時に使えばよかったかもしれないな……。
ステータス画面をチェックできる……。
これは何気にスゴイ事なのだろう。
よく、転生小説とかでゲーム世界でステータス画面を確認するシーンがあるが、今の健康状態がどうなっているのかをリアルタイムで確認できる上に、相手の情報を読み解くこともできる。
サーバーの情報を抜き取って確認できている以上は、これは情報という名のアドバンテージで物凄く役立つんじゃないだろうか?
(うまくいけば、魔族全体をまとめ上げることもできる魔法のアイテムというわけか……魔力がない代わりに、ステータス画面を確認できるって何気にチート特典ではないだろうか?下手な魔法アイテムとかもらうより、一番いいやつを貰ったと思った方がいいかな?)
そんなことを考えていると、ドアが開いて数人の薄い緑色をベースにした小柄な人が二人部屋に入ってきた。
容姿からして、彼女たちはゴブリンのようだ。
ゴブリンといえば、ファンタジーゲームなどでは醜い姿をしているのが特徴的であるが、彼女たちは決して醜い姿はしていなかった。
むしろ普通に可愛いと思えるし、少々鼻の位置が高い程度で、至って醜さなどは感じなかった。
二人とも統一された白色のエプロンを身に着けて、俺の前に頭を下げて食べ終わった皿を片づけに来たようだ。
「失礼いたします。魔王様、お皿をお下げいたします」
「ああ、ありがとう。助かるよ」
「いえ、これもメイドの務めですから……」
ペコリと頭を下げながらゴブリンのメイドたちは片付けをしてくれている。
テキパキとテーブルを雑巾で拭きながら、食後のお茶まで用意してくれたのだ。
すごく気の利くサービスをしてくれている。
……いや、魔王となった以上はそうした特別な存在故に、そうした扱いを受けるのが普通のようだ。
一般庶民として生活していた身分としては、まさに贅沢を味わっているといっても過言ではない。
せっかくだから、彼女たちをステータス画面で確認してみようかな。
ステータス画面を意識すると、目の前にポンと表示される。
VRで確認しているみたいだな。
―――――< ゴブリン:リーナ Lv.20 >―――――|×|
種族:ゴブリン
性別:女性
基礎メーター
体力170/200 気力145/160 空腹度90/100 MP100/100
属性:中立
魔族:支援系
概要:リーナ
ゴブリンメイドの長であり、魔王城全般の家事を統括する大役を任されている。
主に支援系魔族にとって、魔王城での憧れの仕事をしていることから尊敬の眼差しを向けられることが多い。
―――――< ゴブリン:フーリ Lv.15 >―――――|×|
種族:ゴブリン
性別:女性
基礎メーター
体力150/170 気力130/140 空腹度90/100 MP100/100
属性:中立
魔族:支援系
概要:フーリ
ゴブリンメイドのリーナの妹であり、姉と同じく魔王城に仕えている。
姉のようなメイド長になりたいと思っており、メイドとしての職務を淡々とこなしている。
休憩時間にお茶を淹れるのを楽しみにしている。
―――――<閉じる>―――――
ゴブリンのメイド二人についての情報を閲覧することが出来た。
……俺よりもレベルが高い!
体力といい、気力も俺の1.4~1.7倍近くあるのに驚いた。
それだけ生身の人間だからまだレベルアップしていないのか……。
それとも魔力であるMPがゼロなので、数値としてこうステータス画面に表示されるのか……。
よくあるRPGゲームのステータス画面のような構成ではあるが、視覚的に分かりやすいので、パッと見ただけでも相手のことを知ることが出来る。
ステータス画面でのぞき込めば、確かに相手の情報などもリアルタイムで把握できるようになっているのは、こちらとしてはとても助かる。
サーバーの残存情報や、相手に視線を合わせるだけで詳細な情報を把握できるこのステータス画面……。
間違いなく転生系の特典だとしたら当たりの部類だ。
(ステータス画面はマジで大事だな……しっかり確認する癖をつけておこう……)
魔王の最初の仕事が身内の関係改善のための交渉になるとは思ってもみなかった。
大抵、こういうのはゲームや物語を進めてから中盤ぐらいで発生するイベントではないのかね?
最初はチュートリアルとして木の棒でモンスターをぶん殴ったり、理不尽なイベント発生で地位やアイテムを全て失ってそこから再興する事を目標とするはずなので、ゲームの世界だとしても転生タイミングがおかしいのだ。
物語を始めるなら、タイミング的にももっと前……初代魔王が死ぬ前辺りに転生したほうが、続編としてのチュートリアルとしては最高だし、そのほうが前作から遊んでいるプレイヤーからしてみれば、初代魔王がどのようにして亡くなったのか知る機会を得られるからだ。
こう……今の俺みたく、転生した直後で申し訳ないが魔族間の仲介やってくれない?と言われる状況だと、まるで他に打つ手なしだから呼び出されたという感じもするんだ。
この世界がザ・ファイナル・ワールドだとすれば、すでに初代における物語の主役が役目を終えて死亡した後の世界……。
早い話が初代TFWゲームクリア後のアフターストーリーとして描く予定であった物語ではないか?
……であれば、この終末世界後に魔族として文明を再建する……。
初代魔王という設定も、もしかしたら初代魔王も俺と同じように異世界から呼び出された転生者だったのかもしれない。
そうした考えに耽っていた時、ついにガルムがやってきたのだ。