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魔王朝食

「おはようございます、コータ様……体調はいかがでしょうか?」

「おはようございます、シルヴィアさん。んっと……体調に関しては悪くないですよ」

「それは良かったです!昨日は殆どお召し上がりになりませんでしたから……今、ちょうど朝食の準備が出来上がりましたのでお食事をお持ちしてもよろしいでしょうか?」

「そうですね……お願い致します」


思えば昨日は夕飯も半分ほどしか食べていなかった。

いや、夕飯は出されたのだが、あまり喉を通らなかったので殆ど食べれなかったのだ。

決してメシマズだったとかそういうわけじゃない。

何というか……こっちの世界に来てしまったことで色々と自分の心の中で、まだ整理がついていなかったというのもある。


(本当に、夢オチとかでは無かったんだなぁ……)


そう、これがVRではなく、現実の世界であるという事。

何度でも言うが、これが俺が過ごしていく世界であるという事を認知しなければならない。

今後の事を考えてしまうと、手が付けられなかったといえば正しいのかもしれない。


夕飯のメニューとして出されたのはスライム農法で育てた大麦で作ったパンに、原生生物の燻製肉が入ったしょっぱいスープ……。

千切りに刻まれてから盛りつけられた玉ねぎ。

透明なグラスには水が注がれており、デザートにはポンカンが二個付いていた。

割とゲテモノ系ではなく、普通の料理が出されたので安心はしたのだ。


味付けもシンプルで旨い。

素朴ではあるが、この世界においてはかなりのお祝い事でしか出されない料理であるという事は間違いない。

夕食の時には、シルヴィアさんを含めた幹部の人達と一緒に食べたのだが、皆美味しそうに料理を味わっていた。


けど、パンを半分ほど食べて燻製肉を齧ったぐらいから、急にご飯が喉を通らなくなってしまった。

もう二度と元いた世界に戻れないと思うと……心が急に寂しくなる。

演説をし終えた後も、VR側の不具合ということではなく、本当に転移してしまったという事だけが自分の心の中に押し寄せてきたのだ。


『お前は魔王だ。魔王となったからにはふざけたことは出来ないぞ?』

『本当に魔王になったのなら、今後の生活はどうなる?拒否権のないまま魔王になった以上は職務を全うしなければならないんだぞ?』

『数千人の魔族やモンスターがお前の命令一つで死ぬんだ。決して誤った判断はするなよ』


これから魔王に就任したという事実と重圧によって、かなり重苦しくなってしまい食べようにも食べられない……。

何とも言えないもどかしさを感じてしまい、口に入れこんでも食べ物が喉を通らなかった。

食事も出された量の半分も食べきれずに、俺はそのまま夕食を残してしまう。


そして、そのまま魔王として与えられた自室に籠って映像データなどを午前三時までずーっと閲覧していたというわけだ。

ある意味、異世界に転移した事実と向き合わなければならなかった事。

そして、何よりも気を紛らわせたかったのだ。


異世界転生小説でよくあるような、俺が異世界にやってきて無双やチートをしてやるぞ!といったような状況ではなく、今後どうやったらいいのか?

魔王として自分は皆を率いていかなければならないプレッシャーなども重く受け止めたのだ。

重圧と呼ぶに相応しいほどに……。

そう考えるだけでプレッシャーがのしかかる。


(とにかく……分からないことがあればシルヴィアさんに聞いてみよう。それでもって、今後どうしていくか朝食を食べ終えてからしっかり聞いておくか……)


今は少しでも気を紛らわせてリラックスしよう。

昨日の食事が合わなかったのかと思ったのか、シルヴィアさんが持ってきてくれた皿には、焼き魚と蒸しパンが盛りつけられていた。


「今日の朝食は、ほぐした焼き魚と蒸しパンです。簡素なものですが、お腹には良いのでお勧めですよ!」

「ありがとうございます。いただきます」


見た目は悪くない。

焦げ付きすぎず、それでいて魚を箸でゆっくり開いてみると白身であり、中もホカホカとしている。

白身を箸で挟み、ゆっくりと口の中に入れてみる。

一口、二口噛んでみると、歯ごたえがあって且つ味も塩をまぶしたのか中々美味しい。


「この白身魚美味しいですね……これは何処で採れた魚なんですか?」

「それは貯水湖で養殖している魚です。人間の間では”イワナ”という名前で呼ばれていた魚だそうです。私たちも偶に食べますが、この辺りで食べられる魚は、そのイワナとヤマメが主流ですね……」

「イワナとヤマメですか……私も小さい時におじいちゃんと釣り堀でイワナを一緒に釣った事があるので、何だか懐かしいですね……」

「あら、そちらでもイワナは食べられていたのですか?」

「食料品店で購入することが出来ますね。でも、最後に食べたのがキャンプをした時だったから……もうかれこれ十年以上前の話ですよ」


シルヴィアさんと談話しながら朝食を食べる。

談話をしながら食べていることもあってか、昨日の夕飯よりは箸が進む。

パクパクと食べている時に感じたのは、こうした食べ物に関してもステータス画面でチェックが出来るのか試してみる。


すると、目の前にステータス画面が表示されて、イワナの塩焼きと蒸しパンについて詳しい説明が記載されていた。


―――――< イワナの塩焼き >―――――|×|


貴重な川魚のイワナを塩焼きにしたもの。


山間部においてイワナは貴重なタンパク源であり、内陸部ではメジャーな川魚であった。

一時は都市開発によって絶滅危惧種に指定されたイワナであったが、水産省の環境保全活動により個体数が回復傾向であった。


しかし、最終戦争後は大規模な環境変動や混乱に生じた歪みによってイワナはヤマメと共に、川に放流されていた野生の川魚のほとんどが、環境に変化して別種になったか、絶滅したものと思われる。


唯一、外部から隔離されていた貯水池や釣り堀跡地で生存していたニジマスやイワナ、ヤマメといった魚は個体数を減らしながらも、いくつか生き残っている。

そんな、貴重なイワナを塩焼きにして食べるので、よく感謝して味わってもらいたい。


体力+15 気力+5 空腹度-20 


―――――< 蒸しパン >―――――|×|


小麦やライ麦、大麦といった穀類をすり潰した上で、蒸し器でしっかりと蒸したパン。


柔らかい食感と、ほんのりとした甘い香りが漂う蒸しパン。

文明崩壊後も、人類の生存者達が手っ取り早く農耕地から小麦の種を入手して、麦を育ててからパンを生産していた。


その中でも水資源に余力のあるコロニーでは、柔らかくて美味しいパンを作るために蒸し器を使って蒸しパンを生産した。


この蒸しパンは文明崩壊後の世界ではケーキの代用品として重宝され、砂糖だけでなくタマゴといった栄養の高いものも含まれているので、気力の高い回復が見込まれる。


2日程度であれば腐らないので、小分けにして食べるのもよし。

贅沢に丸ごと食べるのもよし。

そのくらいの贅沢を味わうのもまた、この世界では大切な事だ。


体力+5 気力+20 空腹度-5


―――――<閉じる>―――――


どうやらこの朝食もこの世界では【贅沢品】に該当するらしい。

イワナと蒸しパンの説明文はかなり凝った内容だ。

文章を読むだけでも気力がいるが、それでもこのステータスを見ながら食べると、なるべく皆に迷惑をかけないように心掛けていく必要がある。

朝食をしっかり食べて体力を回復してから、俺はシルヴィアさんに再興郷の現状について尋ねた。

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