魔王閲覧
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―――――<魔王城：自室>―――――
魔王に就任してから次の日の朝を迎えた。
昨日はゲームの世界に転生ないし転移した事への実感が湧かないので、実は明晰夢を見ていてゲーム画面が映し出されているんじゃないかと思ったが、生憎時間が経過しても夢が覚める気配はなく、俺は魔王城でシルヴィアさんから案内された自室のベッドの中にいた。
夢であって欲しかったが、夢じゃなかった。
夢ならどれほど良かったことだろうか。
ちくしょう。
魔王城……その名前は凄くカッコイイが、実際には地下貯水施設の制御室やスタッフルームがあった場所を改装しただけであり、かつての人類がこの地で繁栄を遂げていた時代の遺物を再利用しているだけに過ぎない。
名前と見た目のギャップがスゴイ一例である。
外壁などは劣化して崩れてしまった場所もあるが、それでも形を保って補強されているので耐久性は……大丈夫だろう。
特に、俺がこの世界に飛ばされて倒れた儀式の間に関しては、元々レクリエーションルームだった場所らしい。
儀式の間に入ってよく見ると部屋の奥にはソファーや自販機も置かれていたのだ。
何ともファンタジー系のゲームにあまりない設定だなと感じた。
これならコンピューター等の残骸もあるんじゃないかと思って探したら、5分足らずで案の定見つかった。
「おっ……やはりこの世界でも情報端末を収集するサーバー機能は大きな機械のままなんだな……」
それも魔王の自室に置いてあったのだ。
部屋の隅っこに埃を被ったサーバーが一台置かれており、ステータス画面を駆使してサーバー内のデータベースに保存されていたアーカイブスなどを閲覧する事が出来た。
これも「情報解析」というスキルのお陰なのだろう。
そのお陰でまだまだ慣れない感じではあるが、ある程度ステータス画面の開き方などを練習がてら実験を繰り返していた。
もしかしたら先代魔王にも情報解析のスキルを持っていたのかな？
それでこの部屋にサーバーの機械を置いていたのだろう。
それにしてもこの情報解析というスキルはマジで便利だ……。
色々な情報を表示してくれるのでファンタジー世界ではなく、VRゲームで遊んでいる感覚に近い。
よくある転生系がメインのネット小説だと己のステータス画面がポンポンと出てくるが、実際にこのTFW（？）にそっくりな世界に転生した身としては、サイバーパンク風のゲーム感覚で情報を視覚化して出せるのはやりやすい。
サーバーに視線を充ててから凝視すると5秒程でサーバーに関する詳細情報がポンと表示される。
例えるなら手で触れる感じではなく、視線を使って操作をする感じだ。
直感的にスマートフォンやパソコンの画面をタップするように視線を合わせて見たい情報を選択すると、サーバー内部に保存されている情報が表示される。
―――――<電子情報収集処理機【天狗61型】>―――――|×|
○情報記憶媒体生産メーカー 赤坂電子工学株式会社製
○損傷率16%……内部情報取得可能部分84%
○閲覧可能動画数4514本
○動画内訳……（以下略）
アーカイブスには様々な情報が残されており、人気のアイドルグループのコンサートツアーや名作アニメの映像集……そして現在人類が数百万人にまで激減する原因になった最終戦争勃発直前のニュース番組などが記録されていた。
特に俺が気になっていた最終戦争直前のニュース番組の映像は、もはやドキュメンタリー映画のような臨場感に溢れており、この世界の成り立ちを知る上で重要な情報がたんまりと詰まっていた。
俺は与えられた魔王城の魔王の自室で午前3時ごろまでずーっと見ていたのだ。
○臨時・速報ニュースデータ数（914）
▼記録された情報データのうち、サーバーに残されている最新の動画を再生する。
A.D 2067/4/12
【……本日上海で開かれた大陸条約機構と自由協商共同体による貿易交渉は決裂し、各陣営による貿易制裁措置が明日午前0時をもって施行されるのを前に、我が帝国政府は両陣営との間で引き起こされるであろう問題に関しては中立を貫くことを宣言いたしました。大陸条約機構は電化製品や電子部品への課税を70パーセントに、対して自由協商共同体は穀類などの食料に対して90パーセントもの課税制裁を加えると発表しております】
A.D 2067/4/18
【去年7月末にスカンジナビア半島で大陸条約機構軍の管理下で起こった遺伝子組み換え動物の脱走事件を巡り、自由協商共同体はスカンジナビア半島で生態系への影響が大規模且つ深刻な状況に陥っているとの報告を議会に提出、議会は同日中に多数決で圧倒的な賛成票を投じて大陸条約機構に対しスカンジナビア半島への賠償請求を行いました。脱走したのはオスとメスの熊や狼など肉食動物数十匹で、現地の草食動物への影響が……】
A.D 2067/5/1
【国際宇宙開発事業で本年度の第六期火星移住配分権が自由協商共同体に有利な決定をされた事を巡り、大陸条約機構は自由協商共同体による介入があったとして決定を認めない声明を発表しました。自由協商共同体は全く根拠がない説得力に欠けた発言だとして大陸条約機構を強く非難しました。各国で宇宙移民競争が始まって50年目の節目の年になりますが、今年は波乱万丈の年になりそうです】
A.D 2067/5/16
【先程アデン湾にて大陸条約機構軍所属のエネルギー資源運搬船がミサイル攻撃を受けて沈没したとの情報が入ってまいりました。これを受けて大陸条約機構の報道担当官は全軍に対して戦時体制下に突入したと宣言しました！】
A.D 2067/5/20
【臨時ニュースを申し上げます。たった今入ってきた情報によりますと、自由協商共同体の複数の都市が大陸条約機構軍からのミサイル攻撃を受けた模様です！繰り返しお伝えいたします。先程自由協商共同体の複数の都市が大陸条約機構軍からのミサイル攻撃を受けた模様です！現在我が帝国政府は情報収集を急いでいるとの事です！また今回の件で両国の全面戦争の可能性は……】
A.D 2067/5/22
【……自由協商共同体と大陸条約機構との戦争が始まって48時間が経過しました。大西洋、北極海で両国海軍が交戦し銃火を交えておりますが、戦火は地球だけではなく両国が植民を進めている火星にも及んでいます。火星では生命維持に欠かせない第三期移住区画の酸素生産プラントが何者かに破壊されたことを受けて、自由協商共同体は声明で大陸条約機構の工作員によって破壊されたと主張。これにより、火星のプラットフォームでは自由協商共同体出身者が大陸条約機構に属する構成国移住者に対しての迫害・虐殺が相次いでおり……】
A.D 2067/5/23
【国民保護情報……国民保護情報……現在、自由協商共同体と大陸条約機構間戦争において大量報復兵器が使用されました。これを受けて帝国領全域に特別非常事態宣言が発令されました。帝国が保有する全ての民間用ネットワークシステム並びにインフラ関連の設備は特別非常事態宣言に伴う特措法の施行によって帝国軍により移管されます。また非常事態宣言下に伴い治安維持の為に帝国陸軍の戦闘ロボットを投入致します。理由なき外出は罰金刑以上の量刑が下されますので、特別非常事態宣言が解除されるまで家にとどまって下さい……繰り返し……】
A.D 2067/5/24
【現在、ネットワークシステムが遮断された事により放送を受信できません】
……これが、この世界で最終戦争勃発直前まで続けられていた放送の内容だ。
TFWの物語冒頭に語られていた最終戦争が勃発する直前のニュースの数々。
そして最後はネットワークシステムが遮断されて放送が見れない事を伝える画面を映して映像は終わったのだ。
恐らく、特別非常事態宣言が発令されてから次の日の間に攻撃を受けたのだろう。
何というか……本当にゲームの世界にしては良く出来ている。
シナリオデザイナーやグラフィックデザイナーによって良く練られて作られたからだろうか？
それかゲーム世界が既に作られていたからとか？
いずれにしても、ゲームの物語冒頭で神々は大天使に終焉を告げるラッパを吹かせたって言っていたような気がするけど、アレは多分攻撃に伴う緊急サイレンの事を言っているんじゃないかなぁ……。
世界を牛耳ってきた「自由協商共同体」と「大陸条約機構」の二大陣営間による大戦争の末に人類は激減して文明が維持できなくなってそのまま転落するように国家も崩壊か……。
何ともあっけない末路だと俺は思った。
既に再興郷の外は文明崩壊後の無秩序な世界。
恐らく原生生物というのは最終戦争直前にスカンジナビア半島で大陸条約機構が脱走してしまった遺伝子組み換え動物の事だろうし、攻撃的なロボットに関しても帝国軍が治安維持の為に解き放った戦闘用ロボットなのだろう。
もはや国が無くなってもロボットはプログラムされた命令通りに動いていると思うと悲壮感が漂ってくるね。
データを閲覧して分かったことだが……魔族の方が人間に取って代わって人間らしいようにも思えてくる。
まがりなりにも人類の絶頂期に建造された施設を再利用して都市を作って、かつての人類文明の残り火に薪をくべている状態だ。
「なんともいえないが……この世界でやって行くしかなさそうだ……」
クリック詐欺みたいなポップアップ表示を出して、俺をこの世界に引きずり込んだ件については文句をギャーギャー喚いてもどうしようもない。
今後、この世界で魔王として生きていくのであれば周囲との亀裂や摩擦は避けるべきだ。
それから間もなくして、シルヴィアさんが自室に入ってきたのであった。
