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二代目魔王の鈴木くん

……………。

………。

…。


「ん?ここは……?」


目が覚める。

俺はTFWをプレイしていたハズなんだが……。

よくわからない豪華な部屋で目を覚ました。


どうやら床に倒れるように寝ていたようだ。

見知らぬ天井どころか見慣れない景色だな。

あれ?これもしかして夢だよね?

夢の中なのに臭いとか地面に足がしっかりついている感覚とか附属されるものなのかな?


それに目の前にいるのおもっきしモンスターや亜人のキャラクターじゃん。

彼らはTFWに登場するゲームキャラクターだ。


ダークエルフに……魔術師のフードとローブを被っているリザードマンに……斧やら剣を構えて俺をにらみつけるように見つめているオークやウルフがいた。


すっごい瞳と瞳が合ってしまっているぞ。

ちょっと夢でも気まずいです。

身体を起こしてから俺は周囲を見渡す。


「なんだ、ここは……俺はゲームの世界の夢でも見ているのか?」


それが俺の第一声だった。

だって目の前にファンタジー色全開のキャラクターがいたらそう言うべきじゃん?

VRゴーグルを掛けている感触も無いし、もしかしたら夢の中を見ているのかもしれない。


超絶リアルな夢の世界ってやつをね。

なので三回ほど頬を抓ったり叩いたりしたが夢から醒める気配はなく、抓ったり叩いたところが赤く膨れてしまった。

地味に痛い。


その様子を見ていた全員が俺をみて驚いた表情をしている。

倒れていた奴がいきなり頬を全力で抓ったり叩いたりすればそういう反応をするよね。

しばらくして、鎧を着たウルフの獣人が隣にいたローブを身に纏った魔術師っぽいリザードマンに声を上げた。


「なぁ、ウィザードよ本当に彼が魔王様なのか?魔王様が選んだ新しい魔王が人間なのか?!」

「……そのようだなガルム、彼が新しい魔王様になられる御方のようだ……」

「だが、人間に我らをまとめ上げる魔王を務める力量はあるのか?見た限り……筋力もあまりなさそうだし、これといってぱっと冴えない男のようだぞ……ウィザード、彼に忠誠を誓うのか?」

「そうだ……ガルムは不服か?」

「……いや、ただ信じられないだけだ……少し頭を冷やしてくる」


いきなり失礼な事を言う人だなと思った。

筋力があまりないのは認めるが、それにしてもその紹介の仕方は些か心外だ。

魔王になるのには何か必要なものがあるのか?

学歴か?それとも特殊な資格か?


一応ボイラー技士とフォークリフト免許の資格なら持っているぞ。


ここでは多分役に立たないだろうけど。

ガルムというウルフの獣人が俺を指さして文句を言った後、部屋を出て行った。

ざわつく部屋。

俺は期待外れだったのかもしれない。


「……あの、俺魔王として役不足だったんですかね?なんか……申し訳ないです」


俺が困惑した表情でそう言うと部屋の空気が更に凍る。

明らかに数名の表情が失敗したなぁ……と後悔をしているような顔をしている。

あちゃー……という感じにね。


部屋の対人温度がバッチリ冷えてますよホント。

ビールでも冷やしたらすぐにキンキンに冷えた状態で出されるんじゃないかな?

でもお酒を飲むにはあと2年ほど早いからまだコーラで十分だな。


そんな空気を破るように、一人のダークエルフのお姉さんが申し訳なさそうに俺の前にサッと出てきた。

谷間を強調させるようなV字のネックラインが特徴的な紺色のワンピースを着ている。

出てきた途端にぷるるんっと胸の谷間が揺れながら俺に頭を下げた。


「申し訳ございません鈴木様!魔王様としての使命を快く受諾された御方に対してご無礼を致した事を深くお詫び申し上げます……どうか、どうかお許しください!!!」

「ええ、俺は大丈夫ですし怒っていませんから……」

「なんと!流石魔王様に選ばれた御方です!寛容な精神をお持ちでいらしゃる……」

「寛容な精神……アハハ……えっと、まず貴方の名前を教えて貰いたいのですがよろしいでしょうか?」


弾力の弾んでいる胸の谷間に目線が一瞬だけ行ってしまったが、すぐに顔のほうを見てみる。

サラサラとした白銀の髪の毛に健康的な褐色肌をしている女性だ。

そして長い耳が特徴的だ……うーむ、実にファンタジー。


それに俺の名前を知っているという事は、彼女は俺の事を知っている事になるな……。

何処でこの人に名前教えたっけ?

というか何処かで見た事あるような気がするなぁ……。

ダークエルフのお姉さんは頭を上げて即座に名前を名乗る。


「あっ、申し遅れました!私は魔王様の仕官を勤めているシルヴィアと申します。鈴木様を異空間から転移魔法を使ってこちらに召喚させていただきました……!」

「召喚……転移魔法?あの……TFWをやっていたときに映し出されたコマンドみたいなやつですか?」

「はい、亡き魔王様が残してくださった魔力と魔術師達の総力を上げて異空間召喚魔法を使い、ありとあらゆる次元や世界から魔王として適任とされる鈴木様を選んだのです。そして選ばれたのが鈴木様……貴方様でございます!」


異空間召喚魔法???

よく分からないがすっごい心にときめく単語だな。

あと人から初めて様付けしてもらったよ。


ちょっと嬉しい。

リアルの世界では名前を呼んでもらうことは殆ど無かった。

病院の待合室にいる時以来だよ。


でも待って欲しい、異空間から召喚されたということは……これ夢じゃないってことか?

そういえば匂いも自室とは違うし、何よりしっかりと感触がある。

小さい雑音や周囲の空気の流れなんかまでは夢で再現できるわけじゃないしな。

シルヴィアさんの話を聞いていると、TFWのオープニングで流れていた映像が頭をよぎった。


魔物と人間の戦争……。

人間が神様を怒らせた結果、文明社会が崩壊。

異界からやってきた魔王が文明崩壊後の地球に戻ってきて再興する。


そして、病で倒れた亡き魔王の後継者として召喚される者……。

極めつけはシルヴィアさんは魔王の仕官をやっていたという事……。

これさっき見たTFWのオープニングのシーンじゃないか!


もしかしてその後継者として召喚されたのが、NPCとかじゃなくてリアルの俺が魔王になってしまったのか?

つまるところゲームの世界にやってきてしまったのか?

おいおいおいおい!!!!


今話題の異世界転生……じゃなくて転移かよ!

まるで量産型ネット小説のテンプレートじゃねぇかよぉ!

ありえん……あり得ない!これはきっと夢の中の出来事に違いない。

そう思いたかったが否定されてしまう。


「これって夢じゃないですよね……?」

「はい、これは夢でも幻でもありません。現実です!!!鈴木様、是非とも魔王として才を奮って下さい!」


――デデデン!!!


なんてこった。

こんな感触や匂いまでリアルなVRゲームなんて聞いた事が無い。

つまりマジで転移してしまったというわけか。

信じられない、何という事だ。

誰か説明してくれよ!


……いや説明はしてくれているよな、シルヴィアさんがね。

話の内容は分かるけど、この身体がゲームの世界に召喚される理由が分からない。

魔王から選ばれたって事か?あまり友達も作らずに家でゲームにどっぷり浸かっているこの俺が?


魔王の選択ミスじゃないのかなぁ……。

こんな殆ど冴えない人間が魔王に選ばれて転移しました?

嘘だろうと言いたくなる。

情報量が脳の容量を超えそうになって頭がパーンと破裂しそうになるほどの衝撃がやってきたが、なんとか暴発を抑えて俺はシルヴィアさんに質問する。


「えっと……シルヴィアさんでしたっけ?色々と言いたいことはあるんですけど、とりあえず俺はこの肉体ごと転移したってことですか?」

「その通りです、鈴木様は魔王国の統帥である魔王様としての資格があると判断なさいました。そして、意思表示の選択で『はい』と答えましたので、転移魔法による移動をさせていただきました」

「えっ、あれが同意したって意味だったんですか!」


魔王になる選択肢のコマンドがチュートリアル画面じゃなかったのか……。

初めてゲームをプレイしただけにてっきりチュートリアルだと思ったよ。

チュートリアルじゃなくて異世界転移の承諾書とは恐れ入った。


完全に初心者トラップじゃないか……。

というか下手したら詐欺じゃねーかそれ。

ワンクリック詐欺広告に出てくる広告レベルの詐欺やぞ。

とにかくシルヴィアさんに元の世界に帰還する事は可能かどうか尋ねた。


「転移魔法ですか……ちなみにその魔法を応用すれば元の世界に帰還することはできますか?」


その質問に、シルヴィアさんは一瞬目をそらして申し訳なさそうに言った。


「……残念ながら鈴木様を元いた世界に帰還させることはできません。転移魔法は膨大な魔力を必要とするものです。前魔王様が鈴木様を召喚する際に全ての魔力を注いだので、元となる魔力のリソースが無くなりました……それに、転移魔法というものは非常に複雑で高度な魔法を必要とするものです。今は戻れる手段が無いのです」

「……つまり転移魔法は一回きりのもので、その魔法で召喚されてしまった俺は元の世界に帰れないというわけですか……」

「……はい、その通りです」


……どうやら片道切符で俺は召喚されたらしい。

トホホ……。

これじゃあ幸先が思いやられるぜ。

せめてステータスなり何か表示されたら有り難いんだがね……。

そう思った瞬間に突然目の前で音が鳴り出した。


――ポン!


「うぉっ?!これは?!」


目を瞑って考えようとした直後、突然目の前にゲームでよくあるステータス画面のようなものが音を立てて視界に浮かび上がってきたんだ。

左端にはご丁寧にも閉じるボタンまで付いているぞ。


―――――< 魔王:鈴木コータ Lv.1 >―――――|×|


種族:人間


基礎メーター


体力98/100 気力90/100 空腹度70/100 MP0/0


属性:善


魔力:皆無につきMPは無し


メリットスキル▽


:堅実経営者 計画性があり、プロジェクトの進行に不備が生じるリスクを減らします。  

:情報解析班 物や人物を注視すると情報を閲覧する事が出来ます。

:平等主義者 全種族の支持を上げて、仲裁などを行う能力を付与します。


デメリットスキル▼


:魔力値皆無 魔法や魔術が一切覚えられません。

:のんびり屋 基本的に学習取得スピードが遅いです。

        

現在位置:再興郷魔王城 儀式の間


―――――< Lvアップまであと50Exp必要です >―――――


どうみても目の前に浮かび上がっているのはステータス画面だ……。

これはTFWのステータス画面なのかな?

メリットスキルとか色々と書かれているな。


俺は内政特化のようだが……これゲームでは役立っているのかな?

後でしっかりと見ておこう。

ステータス画面の端っこにはご丁寧に×ボタンがあった。

×ボタンに視線を合わせると直ぐにステータス画面は視界から消え去った。


「如何なさいましたか?」

「……いえ、なんでもありません。これから俺はどうすればいいんですか?」

「先に国民の皆様に鈴木様を新しい魔王様として広場にて紹介します。その際に軽く挨拶だけお願いしてもらってもよろしいでしょうか?お時間はそれほどお取りになりませんので」

「……そうですね、スピーチは得意ではありませんがやってみましょう」

「ありがとうございます!!では、国民の皆様は既に広場にてお待ちしております故、こちらにいらしてください!」


……俺はこれ以上場の空気を凍らせないために、さすがに空気を読んで魔王就任のスピーチをやることになった。

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