スライム農園5
「それじゃあ肥料の作り方について説明するわね、ここでは肥料は草木を燃やした灰と藁を使っているわ」
「草木灰というやつだね。俺のおばあちゃんが家庭菜園で同じ肥料を使っていたよ」
「あら、それだと魔王様がいた世界でも使われていたのかい?」
「うん、同じ材料ではないかもしれないけど、草木灰は使っていたよ」
「成程、それじゃあ話は早い。その草木灰と藁と土の上に置いて、水をバケツ一杯分掛けてからこうするのよ」
そう言って、リリーは足元に撒いた灰と土、藁、そしてバケツ一杯分の水をかけてから足踏みをしている。
土をかき混ぜるしながらかき混ぜている。
鼻歌を歌いながら、歌のリズムに合わせて足踏みをしてかき混ぜる。
「足先を使ってかき混ぜているのか……」
「そうよ、仕事は楽しくやらないとね。手でもかき混ぜる事はできるけど、足のほうが頑丈でやりやすいからこうやってかき混ぜているのよ」
「鼻歌を歌いながらかき混ぜるのは楽しそうだね」
「勿論!自分の好きな環境で仕事が出来るのが一番よ。楽しいに決まっているじゃない!」
鼻歌を歌っているリリーを見ると、彼女の頭に生えている白い花が、一段と輝いて見える。
いや、確かに輝いている!
倉庫の天窓から差し込んでいる太陽光に、花粉が反射してキラキラと輝いていたのだ。
すると花粉が落ちた次第に土の色が変わっていき、先ほどまで白い灰に覆われていた土は、一瞬で濃い茶色の土へと変貌していったのだ。
これがスライム農法を行う上で欠かせない肥料となるという。
「じゃーん!これがアルラウネ特製肥料よ。これが無いとスライム農法で使っている作物は、急成長に耐えきれなくなって自壊してしまうわ」
「つまり、普通の土よりも沢山栄養を蓄えて、急成長にも耐えきれるようにしているって事だね?」
「その通りよ魔王様。私の作った肥料で、花粉で……アルラウネがいなければスライム農法も出来ない……つまり、再興郷で私は欠かせない存在なのよ!」
ドン!と、俺に顔を近づけて自己PRを強調してくるリリー。
リリーの説明はどうやら本当のようで、シルヴィアさんも「リリーさんの仰っている事は本当です」と耳元で囁いてくれた。
この土が栄養満点の肥料であり、且つスライム農法に耐えられるのだろう。
普通の土では急成長に耐えきれなくなって作物が自壊する。
しかし、アルラウネが調整した肥料ではそうならずに、恐るべき短時間で収穫が可能になる。
「本当に、スゴイなぁ……あっという間に肥料を作るなんて……」
もし人間の俺が、同じような手法でやると物凄い時間が掛かるだろう。
おまけに、リリーの足踏みもタダの足踏みではない。
足先が木の根みたいになっていることから、人間の足とは違ってスコップみたいに硬いのだろう。
人力でやったら、同じ作業でも三倍以上は時間をかけないとやっていけない。
リリーは面白いものを見れたと言わんばかりに、にこやかな笑顔でこう言った。
「ね?簡単でしょう?……魔王様も作ってみる?」
「いやいや、それ人間の俺だと無理だから!でも簡単というより魔法みたいにあっという間に土を肥料に変えるなんて信じられないよ……」
「あら?でも実際にこれは私の……アルラウネの力と魔法の力を組み合わせて作られているのよ?」
「えっ、どういうことなんだい?」
「ふふふっ、さっき土を混ぜている時に私の頭の花から花粉が飛んでいたでしょう?」
「あー……確かに飛んでいたね」
「あれはね、私が魔法を付与した花粉なのよ」
「えっ?!そうだったのか……」
なんと、さっきキラキラと輝いていた花粉には魔法を掛けていたという。
何の魔法を掛けたのかさっぱりわからない俺を後目に、どんな魔法を掛けたのかクイズまで出してきた。
「さーて、何の魔法を掛けたでしょう?」
「えーっと……すまん、魔法はさっぱりわからないんだ……」
「もう、リリーさん。魔王様を揶揄うのはお控えください」
「そうだよリリー、魔王様困っているわよ」
「ちぇっ、でもいいわ。魔王様の驚いている顔をみれたし……まだ時間はあるかしら?」
「ええ、まだお時間は大丈夫ですわ」
「ミントも問題ないかしら?」
「はい、大丈夫ですよ」
「せっかくだから魔王様のお話を聞きたいわ。ここに来るまでの話を……」
それからはリリーはご機嫌な様子で、視察の時間が終わるまで俺たちとの会話を楽しんだ。
ここにやってくるまでの話をざっくりと話をすると、色々と世界について語り、それはもう俺を含めて四人で話に熱が籠った。
気がつけば視察の時間が過ぎ、リリーさんの倉庫を離れるときは「またいつでも来てね!」と笑顔で手を振って別れる。
ミントさんからは帰り際に「だいぶ彼女に気にいられたみたいですね」と言われた。
「それでは、今日は視察のお時間を頂いてありがとうございました」
「ありがとうミント、今日は大変有意義な時間を過ごせることが出来た。ありがとう」
「いえいえ、こっちこそ魔王様に直接お会いできて何よりです。また農園に関することがあれば何時でもいらしてください!」
こうして、スライム農園の視察を終えた頃にはすっかり日も暮れており、俺とシルヴィアさんは魔王城に戻ったのであった。




