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スライム農園4

塔を下りてから向かった先は先ほどの監視塔からも見えた倉庫であった。

ここで倉庫に向かうのは一体どういうことなのか不思議に思ったが、倉庫のドアを開けた途端、リンゴなどの果実を育てている果樹園に来たかのような甘い香りが漂う。

ここに案内された理由が分かったのだ。


「作物を作る上で欠かせない肥料や花粉などは、ここの場所で作っているのですよ」


南国にある植物園みたいに、多種多様な植物が生い茂っていた。

ここは倉庫というよりも、植物園の状態に近い。

そんな中で作っているのは頭に花のような蕾を大きく咲かせている人型の魔族であった。

蕾だけでなく身長も大きい。

おおよそ2メートル近くはあるのではないだろうか。


土の中から出てきて、植物のツルみたいなものをにょろにょろと動かしながら、蕾の周囲の土をかき混ぜたり、花が咲いている部分から瓶の中に花粉のようなものを落としている。


瓶などもある程度半自動化されているらしく、くるくると器用にツルを回しながら、空瓶をベルトコンベアの上において回して、花粉を詰め込んだ瓶を空き箱に詰め込む。

一人二役という言葉があるが、ここではこの魔族一人だけで全て行っているようだ。

黙々とこちらには目もくれずに作業をしている。


「彼女は植物系魔族のアルラウネです。ここの倉庫だけではなく、他の3つの倉庫でもアルラウネが同じように作っているのです」

「アルラウネ……」

「そういえば、魔王様は初めてお見えになる種族でしたね?」

「ああ、アルラウネは初めて見るよ……再興郷に来てから一度もあった事は無かったね」

「彼女たちは成長すると土の中にから出られない身体の性質上、移動の際も慎重に運ばないといけないのです。ですので、移動できる場所が限られているのです。彼女たちはここで一生を過ごすのです」


アルラウネ……。

確か植物系モンスターとして有名だったな。

移動はせずに決められた場所に根を生やし、強引に引っこ抜くと絶命する。

同じ植物系モンスターのマンドラゴラと似たような性質を持っていたはずだ。

あまりファンタジーゲームは詳しくはないのだが、それでも名前と特性だけであれば知っている。


「リリー、魔王様がお見えになったわよ」


ミントさんがリリーと呼んだアルラウネに言うと、作業を止めてこちらに振り向いた。

まさに、植物と人間が合体したかのような姿をしていた。

膝から下の部分は木の根で出来ているようであり、渦巻き状になっている。

それでいて、背中には葉っぱと無数のツル。

頭には帽子みたいな白くて大きな花が咲き誇っている。


しかし、こうして正面からみるアルラウネは女性としての特徴が強い。

スライムしかり、この種族も女性が多いのだろうか?

リリーはゆっくりと俺をじーっと眺めてから、口を開いた。


「初めまして、私はリリー。貴方が噂に聞いている人間の新しい魔王様ね……」

「うん、鈴木コータだ。好きに呼んでいいよ」

「ふふっ、人間の子に会うなんて何年ぶりかしらね……最後に遭ったのはいつかしら……」

「ところで……君はここでずっと作業をしているのかい?」

「ええそうよ……ここは私にとって落ち着いていられる場所なの」

「倉庫を自分好みに合わせて作ったのかい?」

「よく分かったわね、その通りよ」


どうやらここが南国の植物園風の作りになっているのも、リリーの好みによって作らせたからだそうだ。

倉庫を自分好みに改造して植物園状態にしても、お咎めがないのは、それだけリリーが生産している肥料や花粉が食糧生産を行う上で必須なのだろう。


「せっかく魔王様がいらっしゃったのだし、今回は特別にコレをあげるわ」


リリーはツルを使って、木から生えている黄色い色をした果実を三つほど取ると、それぞれ俺、シルヴィアさん、ミントさんの三人に分けてくれた。

よく見ると、それはレモンの実であった。


「これは……レモンか?」

「そう、流石魔王様は詳しいわね。これは再興郷でもここでしか作られていない果実よ」

「ということは……他にレモンの木は実っていないのかい?」

「ええ、残念だけどしっかりと成長できたのは、この木だけなの。他の木は途中で枯れてしまってダメになってしまったわ」

「つまり、果実が無いというわけか……」

「先代魔王様が果実酒を作ろうとした矢先に、果実の苗木を探し出して育成を試みたのですが、木の殆どがダメになってしまったので、物凄く落ち込んでしまったのです」

「理由があるのか?」

「果実の大半はスライム農法方式で育てると、苗木が成長する過程で負荷が掛ってダメになるの」


どうやら、レモンやリンゴといった大きな木で成長する果実は、スライム農法に適さないらしく、それを知らずに育てた為、最終的に苗木のほぼ全てがダメになってしまったという悲しい結末を迎えたという。

そんな中で、手間をかけて作ったレモンの木で栽培に成功したのが、この木だけなのだそうだ。


「私からの感謝の気持ちよ。受け取って頂戴」

「ありがとうリリー。早速レモンを使わせてもらうとするよ」

「ふふっ、それでどんな要件でここに来たのかしら?」

「リリーがどうやって肥料と花粉を作っているのか見学するために来たのよ」

「あら、それならお安い御用だわ。それじゃあ早速目の前でやって見せるわね」


リリーはそう言うと、肥料と花粉作りについて実践し始めた。

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