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魔王召喚

---------- 全ては貴方に託された ----------


いやはや、ここまで壮大なオープニングが過去にあっただろうか。

まさに歴史を感じさせる冒頭だった。

冒頭部分だけでも短編小説として売れるレベルだよ。

本当に。


国産ゲームで、こんなに心が躍るようなオープニングを感じたのは数年ぶりだ。

実際に感動してちょっと泣いた。

普通にドキュメンタリーじゃないか。


……最近のVRゲームは良く出来ている。

つくづく俺の求めていた世界(中二病)を刺激させられる。

かつてこれほどまでに俺がやりたかったゲームがあっただろうか。

この世界の作り込み、本当に素晴らしいな。


俺は今、国民的RPGゲーム『ザ・ファイナル・ワールド』……略して『TFW』の新作ソフトである『ザ・ファイナル・ワールド・リミックス』をPCにインストールしてから早速オープニングをVRゴーグルを掛けて見ていた。

このゲームのキャッチコピーは「自由」だ。


自由に種族を選んで自由な職業を選んで自由を謳歌する。

文明崩壊後の地球で何でも自分の好きなように遊んで良いゲームというわけだ。

アポカリプス風味チョイスも悪くない。

過去の文明の結晶を探索する……。

実に王道だが、そんな王道ストーリーは嫌いじゃない。


32GBにも及ぶ膨大なマップを隅々まで探索する冒険者になるも良し。

あえて種族値最弱のスライムの勇者になって世界を救うも良し。

魔物と人間の間に産み落とされた亜人種となって人間や魔物から非協力的な扱いを受けながらも双方を滅ぼしたり、逆に差別なき優しい世界を作るために強大な軍事力を持って世界征服に挑むもよし。

そんな当時としては斬新なアイディアが世間にヒットした結果、爆発的な人気が出たらしい。


公式で用意された数十通りのシナリオだけでなく、公式HPで随時アップロードされる有志ユーザーが制作したオリジナルシナリオやオリジナルの武器・道具モデリングデータも好評で、優秀なシナリオや武器・道具モデリングに至っては公式で採用されたり、衣装などのモデリング技術を評価されて正式に会社に引き抜かれたりと、その自由度が高いことで全世界で一世を風靡した。


初代TFWは15年前にPC版のみの発売だったが、それでも全世界で1年間に500万本が売れるほど人気を博したという。


自由度の高いゲームで国内外でも様々な賞を獲得しているほどに世界中で熱烈なプレイヤーがいるんだ。

PC版での成功を受けて家庭用ゲーム機版、スマートフォン版、ゲーミングパソコン版など、次々とマルチプラットフォームで展開されたんだとか……。


そして、今回購入した新作のTFWは初代の正統続編であり、尚且つVRモードに対応したゲーム機やパソコンに対応した次世代機版となるわけだ。

シリーズの総売上は4000万本、TFWを制作したスタジオはかなり莫大な資金を獲得できたようだ。

リミックスという意味も、続編ではあるが初心に戻り、一から細部に至るまで作り直したそうだ。


……とはいえ、これはwikiの概要覧で載っていた情報を暗記しただけだけどな。

俺自身はこういうRPG系のゲームはあまりやったことがない。

このゲームも、あくまでTwitterの友人が勧めてくれたからお試しに購入したまでだ。

勧められなかったら絶対にやらなかった。


いや、わかるだろう?

全員が「これ面白いよ」と言ってきた作品をやれと言われたらやるか?

俺はそういった同調圧力というものが嫌いでね。

みんな同じことをしているなら俺はやらないという主義を貫き通した。


(みんなが面白いといって勧めてきたものは、大半が自分にしかウケないものばかりだからだ、だから俺はそういったゲームをやらない)


痩せ我慢というわけじゃないが、RPGゲームすらあまりやったことがないんだ。

個人的にやり込んでいるのはシミュレーションゲームぐらいだ。

経営ゲームとか都市開発ゲームとか文明開発ゲームは寝る間も惜しんでやっている。

データを眺めながら最善の方法を尽くすことが好きなんだよ。

ターン制でダラダラとコマンドを打ち込むゲームよりは遥かに好きだ。


無論、ファンタジーを題材にしたゲームは嫌いじゃない。

俺がたまに遊ぶゲームは日本のJRPGなどではなく、アメリカ製のファンタジーゲームで尚且つ一人称視点(FPS)ゲームでドラゴンをやっつけるゲームだ。


これもTFWと双璧を成すゲームとして名高いスカイ・ウインドウ。

街中の兵士がドラゴンの攻撃にやられた報告の台詞が可笑しくてよくネタにされるゲームだ。


【勇者よ、ドラゴンの攻撃には気を付けろよ……肘にドラゴンの爪が刺さって今じゃ剣も握れない】

【ドラゴンの攻撃で首筋に棘が刺さってしまってな。兵士を止めて農家に勤めるよ】

【昔はお前みたいな勇者だったけど、股間にドラゴンの冷凍魔法を浴びちまってな。凍傷になって金の玉を取っちまった……】

【ドラゴン!攻撃!私!やられる!つらい!かなしい!】


……ドラゴンへの愛を伺わせる作品だな。

あれは好きだぞ。

ネットでもよくネタにされるし。

物理エンジンがおかしくなって味方が吹っ飛ぶ様子はいつ見ても腹を抱えて笑っているぐらいだ。


さて、脱線していたけどいよいよTFWの物語が始まるぞ。

最新作を9800円(ダウンロードコンテンツを含む)で購入して総容量1TBというとんでもない容量を食うゲームを遊ぶんだ。

ワクワクしながらゲームが始まるのを待っているんだが……さっきのオープニングが始まってからしばらく経っているけど一向に進んでいないんじゃないかな?


「あれ……?おかしいな……?画面が真っ暗なままだぞ?」


故障じゃないかコレ?

ずっと画面が真っ暗なんですがそれは……。

ダウンロードに失敗したのかもしれない。

エラーコードは出ていないけど、下手したらパソコンの再起動が必要になるかも……。


ブラックコーヒーを頼みたくなるぐらいの黒さだ。

5分が経過しても画面は真っ暗なままだ。


「もしかしたらパソコンがフリーズしたかもしれないな……再起動するしかないみたいだな」


フリーズしたかもしれないと思い、ゲームを強制終了してパソコンの再起動しようとしていたら、突然ポンという音が鳴り出した。


---------- お待たせしてすみません、こんにちは鈴木コータ様 ----------


……おぅ。

いきなりVRの画面上にポップアップコメントが飛び出してきたぞ。

しかも俺の本名付きで。

これはそういう演出なのか?


パソコンに登録してある俺の本名なんだが……。

ニックネームではないことに少々疑問を抱きながらも、とりあえずここは普通に進めるか……。

俺はコントローラーの決定ボタンを押した。


---------- 貴方は新しい魔王様に選ばれました ----------


ふむ、この俺が魔王に選ばれたのか……。

でもいきなり魔王側でプレイとは聞いていないぞ。

初代TFWって勇者側で遊ぶようだった気がする。


さっきのオープニングだと新しい魔王がこれから誕生するぞって言っていたよな。

これは初めてゲームをプレイする初心者向けの序盤のチュートリアル的なものなのかな?

とにかく進めてみよう。


---------- 新しい魔王様としてこの世界に降り立ちますか? ----------


▼はい

▽いいえ


選択肢が出てきた。

チュートリアルであればここは「はい」一択で問題ないだろう。

何も知らされないで世界を旅するのは御免だからな。

何の疑いもなく俺は「はい」のボタンを押した。

ボタンを押すと同時に、ゆっくりと視界が崩れはじめた。


―ぐにゃぁ……。


おぉぉ、これもゲームの演出なのだろうか?

すっごく視界がグニャグニャしてきているぞ。

め、眩暈を起こしているみたいで気持ち悪い……。

東京スカイツリーの展望台からエレベーターで一気に昇っていく感じだ。

演出にしてもこれはやりすぎではないだろうか?


―グニャグニャ……!!!


うぷっ……。

ちょっと気持ち悪くなってきた。

ちょ、ちょっと止めてくれ……。


これマジで気持ち悪い!


こんなムービーを作った奴は誰だ!

コーヒーカップを全力で回転させるぐらいに目が回りだしてきた!

ゲームの中止ボタンはどれだ?!

キャンセルボタンや手元に置いてあるキーボードのメニューボタンを連打するも、何も反応がない。


―あ、これ無理だわ……。


本格的にヤバイ、グニャグニャしすぎてヤバイよこれ。

頭がぐわんぐわんしてきた。

今見えているものが地球だったり、巨大な建造物だったり、豊満な胸が特徴的なダークエルフのお姉さんだったり……。


これが走馬灯というやつなのだろうか……?

だとしたらこんな走馬灯があってたまるかという話だ。

全く、友人の頼みとはいえTFWに手を出すんじゃなかった。

ここで、俺の意識は途絶えてしまったのであった。


---------- さぁ、物語のはじまりです ----------

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