スライム農園2
スライム農園……。
ここは、地上に作られたスライムたちによる農園だ。
スライムといっても、ファンタジーゲームに登場するアメーバみたいな単純な粘着生物ではなく、ある程度知能を持っており……それも女性のような姿で形状を保っているのが特徴的だ。
世に言うスライム娘というモンスター系の女性キャラと同じような見た目をしていると言えば分かりやすいだろう。
スライムたちは作物の上をゆっくりと歩いており、まだ発芽して間もない状態の作物が、スライムの中に入った途端に瞬く間に成長し、スライムが歩いた後には膝ぐらいの高さにまで発育されているのだ。
「ここではスライム達が作物に栄養を与えているのです。こうすることで、一気に作物が収穫期までの期間を短縮することが出来るので、麦であれば3日、陸稲は5日、その他の野菜でも7日から10日までの間に収穫できます」
「成程、再興郷が数千人規模にまで人口が膨れ上がっていても、食糧事情が逼迫するどころか備蓄量に余裕があるのもスライムのお陰というわけですね」
「その通りです。スライム農法を生み出したのは先代魔王様でした。彼女たちに農耕を伝授したところ、見事この農法を生み出すことに成功したのです」
これも前の魔王による努力の賜物のようだ。
ある程度は先の魔王が下地を整えてくれたお陰で、俺はそこまで苦労することはない。
スライム達もゆっくりと歩きながら農耕に勤しんでおり、特に日光が直接身体の胴体に当たらないようにシャツな布などで防護している。
日陰で休憩をしているスライム達は服を脱いで、プールに入って水浴びを楽しんでいる。
「あっ、魔王様だ!」
「魔王様!私達ちょっと休んでいますけど気にせずに見学してくださいねー!」
「どうも、皆さんも適度に休んでくださいね」
俺に気が付くと、スライム達はフレンドリーに手を振っている。
スライム娘……というだけあって女性の身体的特徴が露になっているので少し目のやり場に困るが、彼女たちが服を着ているのには理由があるという。
「彼女たちがシャツや布で胴体を覆っているのは、日光を浴びて胴体の水分が抜けないようにしているのです。あまり日光を浴びすぎても身体が溶けてしまいます」
「では、スライム農法として作物が一気に成長するも、事前に彼女たちが取り入れた水分を作物に与えているのですか?」
「いえ、水分……というよりも水分補給をすることによって、作物の育成を急速に速める栄養を体内で転換することができます。その際に日光が胴体に当たると栄養が抜けやすくなるのです」
スライム農法の仕組みは彼女たちが生み出す身体の仕組みにあるという。
水分補給を行い、体内で作物の栄養を促進する栄養を作り出す。
その栄養を作物に与えることによって、農作物を急速に成長させることが可能なのだ。
うーん、まさにファンタジーだなと思う反面、スライムを見ていると気になる事がある。
(それにしても、ここにいるスライムって皆女性だよなぁ……)
スライムには水色だったり薄緑色の個体や身長に差はあれど、皆女性なのだ。
男性っぽいスライムもいるのではないかと思ったが、辺りを見渡しても見つからない。
全て女性っぽさを全面的に出したスライムばかりなのだ。
「スライム達ですが……こうして見ると皆、女性の姿をしているのですね……」
「基本的にスライムには性別は無いのですよ」
「えっ?!そうだったんですか?」
「厳密に申し上げると、彼女たちは本来は無性生殖が可能な魔族でした。見た目も今みたいな人型ではなく液状で、交尾をしなくてもその気になれば分裂して自分自身を増やす事が出来たのです」
元はスライムには性別が無かったという。
それこそファンタジーゲームによく登場するドロッとした液状みたいな見た目をしていたそうだ。
しかし、無性生殖が可能でしたと意味深な事をシルヴィアさんが言うあたり、何か事情があるみたいだ。
「でも、無性生殖が可能でしたというのは、もうそうした機能は無くなったのですか?」
「はい、女性の身体を模した姿になっているのも、彼女たちが知能を獲得した際に人型の形状に進化したのです……ですがその進化の際に無性生殖の機能が著しく低下して、無性生殖が出来なくなったのです」
「では、今ここにいるスライムは有性生殖で産まれたのですか?」
「その通りです、彼女たちは人型から女性の形状に代わり、他の魔族の雄を伴侶として迎えて自分達の子孫を残します。結果としてここにいるスライム達は全て、別の種族の雄との間に産まれたのですよ」
人型に進化して知能が芽生えた反面で無性生殖が出来なくなり、繁殖に雄が必要になった為に、このような女性を模した姿になったという。
その為、色んな種族との間で生まれたということもあり、スライムは戦闘系魔族、支援系魔族の双方から信頼されているという。
このスライム農園は再興郷にいる全ての魔族たちの胃袋を満たすために生産がされているということもあり、戦闘能力の高い獣人やオークなどの戦闘系魔族たちが防衛するためにこの場所を守っているのだ。
ここを破壊でもされたら、主要な穀物と野菜が全滅してしまうからだ。
なので再興郷の中でもここは一番警備が厳重だ。
「あっ、彼女がこの農園の代表者のスライムですよ。彼女はミント……という名前です」
彼女たちのスライム農法を見ていると、一人のスライムがやってきた。
緑色をした身体で、頭の部分に麦わら帽子を被り、白色の一枚布を身に纏っているこのスライムこそが、スライム農園の代表者ミントだという。
ミントは笑顔で手を振って近づいてきた。
「……魔王様!シルヴィアさん!お待たせしましたー!」
「あら、ミントさん。農作物の育成は順調ですか?」
「はい!さっき第5区画のソバの種蒔きを終えたばかりです!それから魔王様、初めまして。私はこのスライム農園を管理しているミントです。よろしくお願いいたします」
「よろしくミント。改めて案内をお願いしてもいいかな?」
「はい!それでは農園をご案内いたしますね!」
ミントさんの明るい声と共に、スライム農園をシルヴィアさんとミントさんの三人で歩きながら視察をするのであった。




