魔王と紅茶
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―――――<魔王城:自室>―――――
軍用ロボットによる襲撃から一週間が経過した。
あの襲撃が発生した後から、再興郷の中で変化が訪れている。
この再興郷内部でくすぶっていた支援系魔族と戦闘系魔族の対立……。
それが少しずつではあるが、対立度が下がってきているのだ。
ステータス画面を開いて魔族全体の統計データと、支援系魔族と戦闘系魔族、さらに細分化された各種族間ごとの友好度と対立度を見てみると、ガルムを始めとした獣人系の種族は支援系魔族と対立度が最大値100で換算すると平均で80と高かったが、先にガルムと面談をしたり、ノアなどの影響力の高い地位のメンバーと接触して会話などをした結果、現在は種族間の対立度を60まで減らすことが出来た。
種族間の対立が大きくならないように、色々な場所に赴いて根回しをしなければならないのは面倒くさい一面もあるが、同時に俺がこの作業をサボれば、再興郷の対立が一気に噴出し兼ねない。
魔王としての責任は重大なのだ。
(……戦闘能力は皆無だけど、メリットスキルの影響もあってか、魔王としてはうまくやっていけているのが幸いなことだな……)
改めて、メリットスキルで大いに役立っているのが情報解析に関するスキルである。
これは自分だけにしか見えないステータス画面を確認できるものだが、恐らくこれが一番役になっていると実感している。
物や人物を注視すると情報を閲覧する事が出来る能力のお陰で、生き物だけではなく無機物であっても情報が判明できる。
例えば、今手に持っている紅茶の入ったマグカップの詳細情報を知りたいと感じたら、念じればいい。
そうすればすぐにマグカップだけでなく、紅茶に関する情報まで目の前にステータス画面と共にポップアップされるのだ。
―――――< マグカップ(木製) >―――――|×|
陶芸家によって作られているマグカップ。
再興郷で作られているマグカップの大半は木製である。
これには理由があり、陶器製だと割れやすく、戦闘系魔族たちが上手く握れないという欠点を抱えているからだ。
握ろうとすると取っ手が破損するケースが相次いだため、耐久力のある木製へと変更されたのだ。
文明崩壊直前まで作られていたプラスチック製のマグカップなどは、既に経年劣化などにより現存数が限られており、美品状態のまま保っているのは倉庫の奥に未開封のままにしたものを1ケース偶然発見した程度である。
100円ショップで購入できたであろうプラスチック製マグカップや、グラスなどに関しては文明崩壊後では数少ない貴重な品であるが故に、祝賀行事など特別な時にしか出されない貴重な品々となっている。
―――――< 紅茶 >―――――|×|
紅茶には様々な種類があり、文明崩壊前では各陣営ごとに紅茶の産地を有していた。
大陸条約機構では歴史ある風味が湧きたつキーマンが、帝国では同盟国で生産されていた心地よい香りのダージリンティーが、そして自由協商共同体の加盟国ではミルクティーとして相性の良いウバが生産され、これらの紅茶は世界三大銘茶として流通していた。
それぞれの紅茶の産地では土壌汚染対策などが法で義務化されていたこともあり、都市開発などに伴う環境破壊を引き起こす乱開発もされなかったことで数少ない自然が残されていた場所でもあった。
しかし、文明崩壊後ではこうした銘茶を生み出した産地は最終戦争の影響が甚大であり、紅茶を生産するどころではなかったことで、紅茶の産地は再起不能に陥る程の損害を被った。
現在再興郷で生産されている紅茶は帝国国内で生産されていたチャノキが野生化したものを摘んできて紅茶を作っている。
風味や品質は文明崩壊前に生産されていたものより劣るかもしれないが、それでも紅茶を飲めることは文明崩壊後では有り難い事でもある。
体力+2 気力+25 空腹度-2
―――――<閉じる>―――――
相変わらず説明文もノリノリなのが少々可笑しくて笑ってしまう。
紅茶も渋みが強いが、それでもこの文明崩壊後の世界で紅茶を味わって飲めるのは、確かに有り難い事だと思う。
そしてメリットスキルで付与されている堅実経営と平等主義の二つ。
これは能力の底上げとサポートを重視しているスキルだ。
堅実経営は研究している内容の進行を進めてくれるスキルであり、プロジェクトを主導して行うと不具合などを生じるリスクを低減してくれる効果があるとのこと。
現在軍用ロボットの牛歩から取り出した部品を分解して組み立てる作業をドワーフの工房で実施しているが、思っていた以上に順調に進んでいるのも、このスキルのお陰だ。
また平等主義は仲裁能力の付与がされていることもあってか、喧嘩や対立が起こった際に止める能力が付いているのだ。
それに、対話を行うことで相手に安心感と信頼性を高める効果を付与してくれるようで、会う人々に挨拶や会話を行うと友好度が上昇しているのをステータス画面で確認できる。
今の俺にとってこれらのメリットスキルは必要不可欠だ。
デメリットである魔力値皆無とのんびり屋の特性を差し引いたとしても、メリットスキルの恩恵が大きいので、デメリットを帳消しに出来ているのが助かっている。
紅茶を飲んでいると、俺の傍で立っているシルヴィアさんに目がいく。
補佐官として俺に仕えているが、改めてキリッとしている人なので頼りにしている。
身に着けている服も、セクシー系の衣装ではなく秘書らしい女性向けのスーツ姿だ。
このスーツは、世界にきて間もない頃に探索をした際、偶然発見した衣装だと話してくれた。
とても凛々しくて、綺麗な格好だと思い見ていると、シルヴィアさんが俺の視線に気が付いて尋ねてきた。
「コータ様、どうかなさいましたか?」
「いえ、シルヴィアさんのスーツ姿が似合うと思いましてね……」
「まぁ、ありがとうございます!」
嬉しそうにシルヴィアさんはスーツを着こなしている。
うん、美人と一緒にこうして紅茶を飲めるのは転生前だと考えられなかったな。
大学の食堂の片隅でボッチメシを食べていた身としては、こうして広々とした部屋でご飯を食べたり、お茶を飲んだりすることが出来る。
うーん、魔王としての役得だね。
さて、魔王として今日の予定を確認しよう。
シルヴィアさんに今日の予定を尋ねた。
「シルヴィアさん、今日の予定を教えてもらえますか?」
「はい、今日は午前中にスライム農園の視察、午後からはドワーフの工房の状況監査が入っております」
「分かりました。では、このお茶を飲んでからスライム農園の視察に行きましょうか」
「はい!」
やるべきことは沢山あるが、魔王はトップとして自ら上に立って仕事をしなければならない。
特に自ら赴いて、生産や開発に指示を出さないといけないのだ。
ゲームでは「生産」ボタンや「開発」ボタンを押して設定をすればいいだけの話だが、ここでは違う。
やることが多いのだ。
(さて……がんばって予定の仕事をやりますか!)
紅茶を飲んで、気力をマックスにした状態でシルヴィアさんと共に出かけるのであった。




