魔王襲撃2
「来たぞ!軍用ロボットだ!戦闘用意!」
ガルムがここまで聞こえる程の大声を張り上げた。
戦闘用意の声と共に、一気に現場の緊張が増していく。
ロボットたちは壁の近くで立ち止まり、何やら会話をするような仕草をしている。
(自立型AIでも搭載しているのか?箱っぽい見た目なのに、仕草は人間みたいだなぁ……見た目は牛みたいだけど)
一昔前にアメリカ軍で開発されていた四足歩行用ロボットのビッグドッグのような見た目をしている。
前面に大型の丸っこいレンズ……恐らく物体を視認するために付けられたものだろう。
ロボットの動きは少々ぎこちないようにも思えたが、姿勢制御は出来ているようで、転倒したりしている様子は見られない。
念の為、ステータス画面を使ってロボットの内容を確認してみよう。
―――――< 六十五式自動機械化支援装置【牛歩】 Lv.15 >―――――|×|
種族:敵性軍用ロボット
基礎情報
体力50/50 気力0/0 燃料35/60 MP0/0
▽概要▽
帝国軍傘下の丹波工廠が斥候兵の補助を行うために開発した軍用支援ロボットである。
それまで帝国軍で使用されていた四十八式自動機械化斥候装置【鳶】は飛行可能かつ誘導ミサイルなど重武装した状態で移動可能な高性能偵察ロボットであったが、鳶1機だけで戦車が2輌購入できるほどの価格の高さと、移動距離が短いという欠点を持っていた為、予算の関係で軍全体の配備が遅れてしまったことにより防衛計画に支障が出てしまった。
そこで、丹波工廠が陸軍に鳶の25分の1の値段で鳶の不足分を補う形で納品を持ちかけたのが牛歩である。
斥候兵だけでなく治安維持を行う憲兵隊や警察の補助を行うために開発されたグレードダウン型であり、単純ながら自立型のAIを搭載して人間の歩く速度で随伴可能。
総重量200kg近くの荷物を持ちあげることが可能であることや、暴徒鎮圧用として放水や催涙弾を発射できるように改造されたモデルも提示された事で、斥候兵だけでなく補給部隊や憲兵隊、さらに警察が採用したことにより帝国の軍政府組織に多く納品された。
最終戦争後でも、配備数の多さから数多くの個体が残存しており、他の民間用ロボットに比べても旧世代CPUや簡素なAIで生産されていることから町工場でも修理及び新規生産可能な作りとなっている。
これにより、生き残った軍用ロボット達が特別非常事態宣言に基づく戒厳令下の命令系統を受け継いで、今でも生産を命じて作らせている。
▽装備▽
・チタン合金防護フィルター
・非殺傷型電流放出装置
・放水機
・催涙弾発射装置
・拡声器
―――――<閉じる>―――――
どうやら俺の読みが当たっていた。
この牛歩と呼ばれるロボット、最初は斥候……偵察向けに作られたようだ。
軍用と書いてはいるが、警察向けに納品されたモデルもあるらしい。
安くて汎用的に使えることを目的として開発されたことで、軍や警察に多く配備されていたことから、大量生産されたらしい。
そして装備品を見ると殺傷能力の高い武器は搭載されていない。
(見た限りではそこまで脅威ではない感じだな……最初にロボットを目撃した時に襲ってきたのって、別のロボットかもしれないな……)
牛歩は周囲を確認した様子で、先頭に立っているロボットが、スピーカーを使いながら機械音声で喋りながら近づいてきた。
『我々は帝国臨時政府です。現在、戒厳令下に則り帝都外郭放水路の管轄の職員は速やかに身分証明書を提出してください。帝国政府は国家公務員全てに対して、国の安全と平和を守る為に責務を遂行するようにしてください。帝国臨時政府からの繰り返し……』
スピーカーから続きの言葉が出ることは無かった。
地面に覆っていた布が裂けて、ロボットが一斉に落下したからだ。
他のロボットたちも巻き添えを食らい3体のロボットが落とし穴に落ちたのだ。
巻き込まれなかったロボットがたじろいでいる間に、獣人やオーク、オーガといった戦闘系魔族たちが大きな岩をロボット目掛けて投げつけているのだ。
「行くぞ!奴らを叩きのめせ!」
「落とし穴に落ちた奴の口に水や泥を流し込め!他の奴らが逃げないように退路を塞げ!」
「まとめて始末するんだ!」
落とし穴には大量の水や泥な投げ込まれ、他のロボットに対しても石や岩などが容赦なく投げつけられる。
投石によって前面に設置されていたレンズが破壊され、たじろぎながらロボットたちはスピーカーから警告音を大音量で鳴らしている。
『警告、警告……現在戒厳令下につき、暴動行為を直ちにやめない場合は治安維持法により軍による武力介入が無条件で許可されます。警告……』
「もうそれ以上喋る必要はないぜ!」
警告を鳴らしていたが、ガルムが大剣を振るってロボットを一刀両断した。
大剣がロボットの身体を真っ二つにしてしまう。
頑丈そうなロボットが一瞬で真っ二つになる。
ロボット側からしたら、何が起こったのか理解するよりも前に壊されるようなものだ。
一体目のロボットを斬り倒してから素早く二体目のロボットをガルムは仕留めた。
関節部分を斬ってから、バッテリー部分に剣を突き刺した瞬間にロボットから火柱が上がる。
ガルムは慣れた手つきで、まだ動いているロボットを斬り倒し、あっという間に落とし穴に落ちたのを除いて倒してしまった。
「こっちは大丈夫だ!落とし穴に落ちたロボットはまだ生きているか?!」
「倒れていますが、まだ動いています!」
「よし!ありったけの水魔法と泥魔法をぶち込んでやれ!」
そして仕上げと言わんばかりに、支援系魔族たちが落とし穴に落ちたロボットに対して容赦なく水魔法と泥魔法を掛けて、水と泥によってロボットの息の根を止めていた。
ロボットたちは苦しそうに、前足をバタバタしていたが、やがて排気口を伝って動力源にも水と泥が侵入したのか、ピーという電子音が鳴ってから動かなくなり、そのまま機能を停止したのであった。




